第27話力の差

 バルムンクから預かったマジックアイテムは三種類だ。

 1つ目はMP回復ポーション、これは通常のポーションより性能が良く失ったMPを回復させた上に少量ではあるがMPの最大値が上昇させてくれる逸品だ、もらった数は30個。


 2つ目は身代わりの腕輪、これはどんな致命傷だろうと1度だけ無効化してくれる品だ。

 ポーションより製造が難しいらしく数は少なく3個しか貰えなかった。


 そして最後に炎剣 ジャービル、この剣は数回だけだが火炎魔法が発動出来るというものだ。

 魔法の発動にMPをまったく消費せずに火炎魔法が飛び出す仕組みになっている。

 この剣は魔法の使えない剣士にはうってつけの商品だろう。


 オレはそれぞれのアイテムを腰に下げてあるマジックバッグに閉まっていく。


「よし、それじゃー探しに行くか!」


「頼んだぞ! リクト」


「任せとけ」


 バルムンクと別れてオレはこの町のギルドへと目指して歩き始める、少し歩いてオレは重大なミスを犯していたことに気が付く。

 オレってギルドの場所知らないじゃん………ヤバい。



「今さら戻ってバルムンクに聞くのも恥ずかしいし………どうしよう」


 まぁーいいや。

 適当に進んだら知ってる道に出るだろう、3分後………10分後………………30分後………………1時間後。


「ここはどこだぁー」


 ヤバい、完全に道が分からなくなってしまった。

 周りには生きているのか死んでいるのか分からないような無気力な人間が建物に寄りかかっている。

 オレは何度も大丈夫ですか? と聞いてみたがみんな反応がなかった。


「くっそぉーあの時、恥ずかしがって戻らなかったけど戻っておけば良かった」


 今さら言ってもしょうがないが言わずにはいられなかった、とりあえず進むしかないか。

 人に聞こうにも反応が無いんじゃどうしようもない。

 反応があったとしても呻くぐらいだしこの町は大丈夫なのだろうか。

 それにしてもどっちに進もうかな、右は道が狭くなっていて何回も分かれ道がある道。

 左には夜の店が並んでいた、店の前にはきれいな女性が色っぽく手招きしている。

 どっちにしよう………右に行ってしまったらさらに迷ってしまいそうだ………が、左に行ってしまうと大人の階段を登ってしまいそうだ。

 うん、右に行こう、オレにはまだ速い世界だ。

 左の道に背を向け走る、迷いが生じないように一回も振り向かずに。


「オレにはまだ速いんだぁ~」


 どれだけ走ったか分からない。

 本当にこの選択が正しかったのか分からない、いや、正しかったと信じよう。うん

 視線をあげて見ると写ったのは大きな道に行き交う人々がいた。

 オレは道に迷っていた不安から開放されて喜びに包まれる。


「お、おぉ~やっと大通りに出られた」


「よぉー兄ちゃん、エマサ買ってかない」


 声が聞こえた方向へと視線を向けるとそこにはオレンジのような赤い果実を持った肩に傷のあるおっさんがいた、この人に道を聞こう。


「買うよ。でも聞きたいことがあるんだがいいか?」


「ん、なんだ?」


 おっさんは少しだけ眉を寄せて訝しげな顔になる、そんなに警戒しなくても変なことは言わねぇーよ。


「10個買うからギルドの場所教えてくれ」


「なんだ、そんなことか。それならこの道を真っ直ぐいって3つ目の曲がり角を右に曲がったら見えてくるぞ」


 おっさんは寄せていた眉を元に戻し安心したような顔になり道を丁寧に教えてくれる。


「ありがとうな、おっさん。それ10個でいくら?」


「まいど! 1銀貨と80銅貨だ」


 オレはおっさんに言われて腰にさげてあったマジックバッグから銀貨を2枚取りだしおっさんに手渡し9個のエマサをマジックバッグにしまう。

 1個だけ手に持ち歩きながら食べることにする。


「お釣りは20銅貨だよ」


「いらない! 道を教えてくれたお礼にやるよじゃーなおっさん」


 オレはおっさんと別れて聞いた通りに進んでいった、歩きながらエマサをかぶりついてみた。


「うま!」


 見た目は少しだけ抵抗があったが味は凄く美味しい、例えるならば見た目は赤いオレンジだが味は程よく酸味が効いており爽やかな甘さがあった。

 この世界に来てから甘い物を全然食べてなかったからか果実の甘さが体に染み渡るようだった。


 オレはエマサの旨さに驚きつつもおっさんに言われた通りに進んでいく。


「えぇ~っと、この曲がり角を右にっと」


 見えてくると言っていたがこれじゃ見逃しようがねぇーよ。

 目の前には小さい要塞があった、何人もの屈強な大男が武器を装備し出入りしている。


「あった! だいたいいるって言ってたけど………。」


 オレはギルドへと足を踏み入れる、すると一人の大男がオレに突っ掛かってきた。


「よぉーオメェ~見ねぇ~顔だな。新入りか?

 でもなここのギルドは精鋭しか所属できねぇーだ。お前みたいなひょろひょろなガキはお呼びじゃねぇーんだよ。帰んな」


 見るからにゴリラみたいな大男は手を振りオレを追い払おうとする。

 筋肉だけでいうとオレの3倍近くあるがこの世界じゃ筋肉は然程重要ではないこの世界では俺より腕の細いリーズがオレの数倍の力を出すのがいい例だ。

 このゴリラに言い様に罵倒され腹が立つ、絶対的に強者ならこの態度も許されるだろうが見るからにザコだ。


「お前のランクは?」


「あ? ランク聞いてどうする?」


 ゴリラみたいな大男は今にも殴りかかりそうなほど怒っていた、拳に握り、肩を震わせ、目は血走っている。

 なにが彼をそこまで怒らせたのかは分からないが、相当、短気なやつなのだろう。


「どうした? 恥ずかしくて言えないのか?」


「優しくしてやったら調子に乗りやがって! ぶっ殺してやる」


 騒ぎを聞き付けたのか他の冒険者達が集まり始めた。

 ゴリラのような男は大きな拳でオレに殴りかかってくる、進化してステイタスがはね上がってるせいか、またはリーズとの訓練のせいかが出ているのか分からないが男の拳は遅く見える、それはもうふざけているのか? 聞きたくなるぐらい遅かった。

 オレは男の拳を軽々と避けると男は勢い余って体制を崩して転んでしまった。


「どうした? まさか本気じゃないよな」


 大男は大勢の前で恥をかかされたことにさらに怒り周りが見えなくなったのか腰にぶら下げてあった剣を抜き斬りかかってくる。

 だが剣を力任せに振っているだけなので軌道が読みやすく避けるのも容易だった。


「くそ! くそ、くそ、くそ、くそぉ~なんであたんねぇーんだ」


 何度も剣を振ってくるがオレは全て軽々と避けた、振りながら疲れたのか肩で息をし始める始末だ。

 本当に救いようのないザコじゃないか、基本的力もない、力量差も分からない目、そして何よりも冷静に判断できない心………全てがダメだ。


「もう、いいだろう。飽きた」


「ふ……ふざけ…んな。あれだけバカにされて引き下がれるかよ」


 全てがダメだというのは撤回しよう、あれだけの力量差を見せつけられても折れない心の強さは評価に値する。


「なぁーお前さ。瞬雷の剣って知ってるか?」


「なんでお前がこの町を救った英雄の冒険者達を知っている?」


 英雄? あいつらって英雄って言われるほど強かったか? オレの記憶だとそこまで強かったイメージはないのだが………。どういうことだろう?


「英雄? あいつらってそんなにすげぇーのかよ」


「お前! あいつらって言うな! ガムロさんはな突如出現した魔将の配下を追い払ってくれたんだよ」


 魔将? 初耳だな……ん? 待てよ確かに門番が町に入ろうとした時にかなり抵抗していたな、もしかしたら関係があったのかも。


「んで、ガムロはいるのか?」


「教えられるか!!!」


 くそ! 流れで聞こうとしたら言ってくれると思ったのにそこまでバカじゃなかったか。


「なんだぁーこの騒ぎは。また新入り苛めているのか? ヤールタ」


「ガムロさん! 違うんですこれは………」


 オレとゴリラのような大男の戦いを見たくて集まった冒険者を掻き分けながらガムロはヤールタと言われる男に話しかける。


「やめろと、何度も……ん? お前、リクトか?」


「昨日ぶりぃー」


「えっ知り合いなんですか? ガムロさん」


「知り合いじゃねぇーよ。命の恩人だ! バカ」


 ガムロの言葉に集まった冒険者達は皆が口を開けアホみたいな顔になる。

 オレは他の冒険者達を無視しガムロとの話を進める。


「なぁーお前って新しく出来たマジックショップを知っているか?」


「ん? んーあぁ~聞いたことがあるな! 三番街の端で店を開いた詐欺師がいるって話を聞いたぞ」


 詐欺師ってなんでそんな悪評が広まっているんだ? もしかして他のマジックショップがバルムンクの店の商品の性能に妬んで悪評を流したのか。


「三番街かは知らんがそれ多分オレの友達の店」


「す、すまない。知らずとはいえ貶めるようなことを言ってしまった」


 ガムロは土下座をする勢いで頭を下げた、他の冒険者達はその姿を見るにまたもやアホみたいな顔になる。


「気にすんな、それよりなんでそんな悪評が?」


「あ、あぁ~それはな。効果自体はかなり優れているのに値段が安過ぎるんだよ。だからニセモノなんじゃないかって噂になって最後には詐欺師となっていた」


 ん~確かに。

 色々と考えたけど答えは案外簡単なことだったんだな、簡単過ぎて盲点だった。


「ちょっとその事で話したいんだけど………ここじゃあ~人が多すぎる場所を変えよう」


「あぁーそうだな。こっちに来てくれ。このギルドの休憩室で話そう」


 オレはガムロに案内されるがまま着いていく、案内されたのは黄色いドアの部屋だ。

 扉を開けるといかにも癒されそうな部屋がそこにはあった。

 イスが6個ありベッドが3つあるのだが不思議と狭く感じない構造になっている。

 オレはイスに座りガムロとマジックアイテムの話しとオレの計画の話を進める。

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