第26話再開と真実
窓から差し込む朝日が網膜を刺激しオレは眠りから覚めた、小鳥たちのさえずりが外から聞こえる。
この二つが重なり、オレは清々しい朝を迎えることが出来ていた、だが1つだけ難点を上げるとしたら体中が痛いということだろうか。
オレは昨日、激しい眠気に誘われ鎧を装備したまま寝てしまったことやリーズに痛め付けられたこともあってか、体の至るところが悲鳴をあげているように錯覚をした。
「いってぇー」
オレはベッドから降りて軽くストレッチをする、少しでも痛めてしまった体をほぐすためだ。
隣の部屋にいるはずのリーズ、ミラ、アイリスはもう起きたのだろうか?………だが隣からは音はいっさいせず気配すらなかった。
まさかいない?
「おぉーいミラー、リーズ、アイリス」
オレの声は虚しく部屋に響き渡った、まだ寝て…るわけないか。
リーズやアイリスならまだしもミラが返事をしなかった理由が思い浮かばない。
いや…もしかしたら聞こえなかったのか?………一応確認しとくか。
オレは自分の部屋から出て隣の部屋のドアをノックしてみるがやはり反応がなかった。
「えっ! 何も言わないでいったのかよ!!」
もしかしたら置き手紙があるかもしれないがこの部屋に入るのはなかなか勇気がいる。
一応、宿屋とはいえ女性の部屋だ無断で入るのはいい趣味とは言えない。
みんながいないとなると1人か………適当に町でも見て回るか。
オレは宿屋から出るために動き出した、そして宿屋の女将のいるカウンターの前を通る時に呼び止められた。
「ちょっと。あんたがリクトって男かい?」
オレはあまり会話のしていない宿屋の女将に何故オレの名前を知っているのか疑問に思った。
だが女将の次の言葉でオレの疑問はすぐに解決することになった。
「そう、警戒すんじゃないよ。あたいはあんたのところのチビッ子に伝言を頼まれたのさ
[私達は野暮用を済ましてくる。昼には帰る]……だとさ」
「あっ、ありがとうございます。助かりました」
「確かに私は伝えたからね」
いったい野暮用とはなんだろうか? ミラの野暮用はだいたいは面倒なことだろう。
犯罪とかじゃないといいな。アイシャのこともあるし……まぁーミラもさすがにバカじゃないだろう。
あれだけして貰って犯罪をするような奴じゃないはずだ。
オレはそんなことを考えながら宿屋をあとにする。
「おぉ~その姿は我が盟友リクトではないか!!
久しいな。どうしておったのだ?」
オレは宿屋の前でいきなり話しかけられたがどこかで聞いた声が聞こえる、オレは声の聞こえた方向へ顔を向ける。
「えっ!? バルムンクか?」
そこにいたのはダンジョンでゴブリンに捕らわれていた悪魔のバルムンクだった。
だが前に見たときよりどこか豪華な装いになっていた。
「そうだ! お主はまた強くなっておるな。それに雰囲気も変わったな」
「そうか? まぁーいろいろとあったからな」
オレは今まであったことをだいたいではあるが説明していった、それにしてもバルムンクがこの町にいるとは思わなかった。
「いろいろとあったのだな。特に旋風の殺戮者との訓練など壮絶な経験になったであろう」
「あ、あぁ~。この話しはやめよう。思い出してしまう」
「す、すまない。お主がそれほど言うとは噂には聞いていたがそれほどとはな」
つかリーズも噂になるほど有名なのかよ!………それに訓練が辛いということで有名になってヤバいな…いろいろと。
「そういえば! 店は出したのかよ!?」
「ん? あぁ~あるぞ、見に来るか?
あっでもミラ殿はどうしたのだ?」
「野暮用があるらしくて昼まで1人なんだ」
そういえばバルムンクはミラのことを恐れていたな、昔のミラがどんな奴だったか、是非とも聞いておきたい。
この際だ聞いておくか。
「なあ~ミラって昔はどんな奴だったんだ?」
「その話しはここでは不味いだろう!? とりあえず私の店まで案内しよう」
オレはバルムンクに案内されるがまま町を進んでいく、賑やかな町民たちの声が響きあっている、客を自分の店に呼び込むためにみんな必死になっている。
「ここが我が輩の店だ! さぁー入ってくれ。遠慮はいらんぞぉー」
そこにあったのは大きくもなく小さくもない建物だった。
だが玄関の上にはデカデカと[バルムンク・マジックショップ]と書かれていた。
「意外としっかりした感じなんだな」
「あぁ~だろう。我が輩もいろいろとあったのだよ。さぁー入ってくれ」
オレはバルムンクに言われるまま店に入った、中にはバルムンクが作ったと思われるマジックアイテムがところ狭しと陳列していた。
オレはゆっくりと見て回りたい気持ちをぐっとこらえバルムンクに昔のミラの話しを聞く。
「ここなら問題はないだろ? さぁーミラの話しを聞かせてくれ」
バルムンクは少しだけ話すかどうか一瞬迷った素振りを見せたがなんとか話してくれた。
オレはバルムンクの店にあったイスに座り話を聞く体制になる。
「我が輩が言ったとは言わんでくれよ。
お主は何故、我が輩がミラ殿を恐れているかと言うとだな簡単に力の差からだ。圧倒的なまでの力の差だよ。それに昔やっていたこともなかなか過激での、力では魔王に劣るが魔族や人間を殺した数で言うと魔王より遥かに多いと言えよう。
何故ならば、魔王は魔王同士で協定を結んでいてな無闇に殺してはならんとなっておるのだよ。
だが魔王ではないミラ殿は殺しまくったのだよ………それはもう大量虐殺だったと聞く。
女だろうと男だろうと老人だろうと子供だろうと等しくみんな殺していった
だが魔王はその行為に見かねてミラ殿を殺そうしたのだ、ミラ殿は魔王との戦闘で疲弊し異世界に逃げたというのが我の知っている全てだ」
「………。おう」
予想以上にすごいことを言われてしまって反応が淡白になってしまう。
逆にどうしたらそんなことをしていたミラが今のようなことになったのだろうか?
「何があったんだろうな」
「そうだな。我も聞いていた話との違いに困惑してばかりだ」
異世界に(オレの元の世界)に行ったことによりミラの価値観は変わり命を慈しむようになったのだろう。
だが異世界に行ったところであんなにつまらない世界で何を見たんだろう、何を見たところでつまらないはずだ。
「本当に我が教えたなど言わんでくれよ。殺されてしまう」
「あ、あぁ~約束は守るぞ」
ほんの興味本意で聞いてしまったがこんな重大なことをミラに通さずに聞いてしまったことに罪悪感が生じる。
二人してイスに座ったまましばらく沈黙が続いた、オレのその空気を打破すべく考えを巡らせたが一向に話題を転換することができない。
どうしようかと思いながらも視線を落としてしまう、落とした視線の先には膝の上で握られたオレの手が見えていた。
その手には質素ではあるがバルムンクによって作られた指輪が淡く光っている。
「あっそうだ! この指輪ありがとな。この指輪のお陰でいろいろと楽しくさせてもらってるよ」
「そうか。我が輩の作ったものが役に立っていると聞くと少々むず痒いの」
バルムンクは少しだけ笑顔になり照れ臭そうに後頭部を掻いている。
見た目は20代半ばの容姿で顔も良く立ち振舞いも優雅なバルムンクからは想像出来ないような顔に少しだけ驚いてしまう。
それにしてもなぜ異世界の人々は皆が美形なのだろう、ブサイクは見たことがない。
元の世界でも顔のランクは中の上という具合に普通よりはましという顔立ちだった俺からしたら劣等感でおかしくなってしまいそうだ。
「ここにあるアイテムもお前が作ったのか?」
「あぁー全て我の作ったものだ。だがな全てが今までに無かったアイテムゆえに売れんのだよ」
「なんで?」
「得体の知れない男が見知らぬアイテムを売っていたらさぞや不思議に思うことだろう」
バルムンクは両手を肩の高さまで上げると次は腰に手を当てて考えはじめてしまった。
どうやったらアイテムが売れるようになるかと試行錯誤をしているのだろう。
壁に[開店セール!!全てのアイテム20%オフ]と書かれた紙が貼り付けられていた。
まったく。涙ぐましい努力をしているな、少しだけ協力をしてやるか。
「じゃーさ。ちょっと協力しないか?」
「ん? お主に名案でもあるのか」
協力とは言ったもののこれといって案があるわけでもないが何かしてやりたい、指輪のお礼もしたいし。
オレはしばらくその場で考え込む………。
少し卑怯かも知れないがいい案が浮かんだ。
「あぁ~オレがお前のアイテムを売れるようにしてやるよ」
「本当か! それはどんなことだ!?」
バルムンクは声を荒上げでオレに積めよってくる、少しだけ圧倒されつつもなんとかオレの案を伝える。
「お、おう。それはな………売り込みだよ。
でもな、お前が売り込むんじゃなくてオレやオレの知り合い(瞬雷の剣)にここのアイテムの素晴らしさを教えて使ってもらう」
「おぉー我1人では考え付かなかったわ! そうか協力を求めれば良かったのか。そうか、そうか
待っていればいつかはくると思っておった。」
バルムンクはイスに座り直し何度も感嘆の声を上げる、オレは少しだけいい気分になる。
「よし! じゃーまずは使えるアイテムを教えてくれ。それを知り合いに渡しておくから」
「分かった! まずはこのアイテムからにするか
このアイテムはな、失った魔力を回復させてくれるポーションだ。だがこれは今までのポーション1つだけ異なる点がある。それはな………MPの最大値を少しだけあげてくれるのだよ」
うっわぁーめっちゃ良いじゃんこれだけ効果がいいんならさぞや値段が高いのだろう。
「値段は?」
「ん、値段か? 普通のポーションと変わらないはずだぞ」
もったいねぇーよ! 普通のポーションよりいい効果なんだから2倍は高くしてもいいと思うのだがな。
「やす! まぁーいいか。それより他には?」
「まだまだあるぞ! 次はこれだ。能力を発症させてくれる指輪だ。これは自信作なんだ
己の目覚める可能性がある能力が早めに発症してくれるというものだよ
他には………………………………。というアイテムがあるんだ」
という具合にバルムンクの話が延々と続いたがどれも素晴らしいアイテムばかりで驚きっぱなしだった。
「あぁー凄いな。驚きで開いた口が塞がらないとはこのことだと痛感したよ。
そのアイテム達をオレに預けてくれないか。絶対に売れるようにするから」
「もちろんだとも。任せたぞ」
オレはバルムンクから自慢のアイテム達を受け取りバルムンクの店から出て知り合い(瞬雷の剣)を探すため町に足を向けた。
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