第10話アイリスの成長

 ダンジョン二階層


 一階層と違い周りにいる気配は多くなった、なんとも言えない醜悪な雰囲気を感じとる。

 オレは種族能力の身体能力増加を使って戦闘に備えた。

 二階層にはどれ程の強さの魔物がいるが不明な時点では警戒を怠るのは死の危険があるかもしれない、俺ではなけアイリスの。


「リクトさん。この先はどんな魔物が出るか不明なので慎重に行きましょう」


 アイリスはメイスを握り直し周りを見渡しながら言った。


「また、アイリスの鼻で魔物の位置を特定しながら行ったら大丈夫だろう」


「大体の位置しかわかりませんよ。不意討ちとかは分かりませんから油断しないでくださいね」


 アイリスは敬語で言っていたが、それになれてしまった。

 まぁ~でも敬語くらいなら奴隷とは思われないだろう、それに人とふれ合う機会すらないからなこのダンジョンだし、問題はない。


「わかってるよ、一番近くの魔物はどっち?」


 オレがそう言うとアイリスはまた鼻をひくひくさせ、魔物の位置を探る。

 目の前には二つの道が分かれていた、右の道は狭まり、いかにも魔物が出てきそうな道、左には道幅が広く罠がたくさんありそうな道。


 飯は食ったばっかりだし当分は食わなくて大丈夫だろう


「こっちです。」


 アイリスはオレの裾を引っ張りながら引きずっていった、アイリスの案内の下、右の道へと進み、たった数十分で2体の魔物を見つけた。


「あそこにいます」


「わかってる。アイリスはオレが倒し損ねたやつを頼む」


 1匹は先程と同じフールピックだったが大きさが違う、二階層のフールピックは一階層のフールピックより一回りも大きい。

 元の世界の豚よりも遥かに大きい。


 もう1匹は骸骨だ、正式名称はレッサースケルトンだろう。

 筋肉もないのにどうやって動いているのだろうか? まだまだこの世界は不思議なことで溢れている。


 スケルトンは錆びたナイフを装備し、オレたちの肉を切り裂くべく刃をギラつかせる。


 念のため魔眼とステイタス閲覧を使っておこう。


 《個体名:フールピック

 魔物ランク F~E

 注意点、皮膚は少し硬いが簡単に倒せる、肉は大変美味


 獲得可能能力 突進強化 雑食》


 《個体名:レッサースケルトン

 魔物ランク F~D

 注意点、たまに鋭い一撃を放つ。個体によっては魔法を使うこともある


 獲得可能能力 火炎魔法脆弱 打撃攻撃脆弱 光魔法脆弱

 腐食攻撃耐性 切断耐性 短刀術》


 フールピック ステイタス平均25~50

 レッサースケルトン スケルトン平均30~60


 悪い効果を及ぼすようなスキルも獲得可能能力になるみたいだ、だがそんなスキルを獲得する意味を見出だせない。

 フールピックのスキルは欲しくなかったのでコピーしなかった、

 だがレッサースケルトンからは短刀術のスキルをコピーし、自分の強化に繋げる。

 コピーした瞬間、ナイフをどう扱うが何となくではあるが体に身に付いた気がする。

 気がするだけかもしれないが………。


「アイリスはまたフールピックを倒してくれ。オレはレッサースケルトンを倒すから」


 オレはアイリスの耳元で作戦を伝える、だがアイリスは妙に顔が赤くなりモジモジしはじめた。


 えっ!? なにこの反応、嫌だったかな? 今後は気を付けよう。


 魔法を使って遠距離で倒してもいいがMPのこともあるからナイフで倒したい、新しい能力の性能を知りたい。

 オレは気付かれないようにスケルトンに近付く、足音を静め、気配を殺す。

 後少しで後ろに回り込める距離まで近付けたのにフールピックがオレの裾についた血の臭いに気が付いた。


 裾の血はゴブリンの血だ、くそ! あのときのやつか!!!


 〔フギィーー!!!〕


 〔ギシャー!?〕


「くそ、気付かれた!! アイリス、フールピックは任せた」


 魔物同士で意志疎通はできているみたいだな、まるで示し合わせたかのように行動する、スケルトンはリクトにナイフで斬りかかる。

 フールピックはオレを無視しアイリスへと突進する、だがその速度は決して速いわけではない。

 アイリスでも容易に避けることができるであろう。

 レッサースケルトンが振るうナイフの速度は遅く避けるの容易だった。


「ハハ! おせぇ」


 オレはナイフを避け、ナイフで切りかかったが切断することはできなかった。

 ナイフの刃はレッサースケルトンの骨に当たり刃が欠けた。


「くそ!!」


 〔ギシャシャシャシャ〕


 レッサースケルトンはカタカタと音を鳴らしながら笑う、ステイタス的には簡単に倒せるのに耐性があるだけでこうも違うものなのか。

 オレは耐性能力のすごさを実感した。


「アイリスそっちは片付いたか?」


「いえ、まだです」


 チラッとアイリスを見るとフールピックがアイリスに突進していた、アイリスは軽い足使いで避けている。

 フールピックはギリギリで避けられて壁に激突し、クラクラしている。

 オレはそれだけ見るとレッサースケルトンと向き合った、レッサースケルトンは完全にオレをなめていた、先程より攻撃は遅くなり、隙も大きくなった。

 オレはレッサースケルトンのナイフを軽々避け、腹部(背骨)を力任せに蹴る。

 レッサースケルトンの体は軽々とぶっ飛び壁にぶつかりバラバラになった。


「アイリス倒したか?」


 オレはレッサースケルトンにトドメを差しアイリスの方を見た。


「一階層のフールピックより強かったですがなんとか倒せました」


 アイリスは片足を痛めたらしい、アイリスは片足を引きずりながら歩いてきた。


「足を痛めたのか?」


「はい、油断して攻撃を受けてしまいまして」


 近くには無かったがフールピックは奥でグチャグチャになっていた、恐らくメイスで殴ったのだろう。

 かなりのオーバーキルだけどね………こわ。


 アイリスはなんでもないふうに言ったが次の戦闘で不利になるのは明白である、オレはアイリスの近付き足に回復魔法を唱えて治した。

 少しだけ腫れていた足はみるみるうちに腫れがおさまる。


「回復魔法まで使えるのですか!!!」


 アイリスは驚きで小さな肩がビクッとなった揺れに比例して容姿に似合わない大きな胸が揺れる。

 オレは目のやり場に困り視線を逸らしてしまう。


「どうしましたか?」


 アイリスは不思議そうにこちらを見ていた、奴隷の服のままだからきわどいところが見えそうで困る。

 ここから出たらまず最初にアイリスの服を買い揃えよう。


「な、なんでもないぞ」


 オレはアイリスの足の回復に専念した、アイリスはまだ不思議そうにこちらを見ていた。


「もう大丈夫です。痛みはなくなりました」


 アイリスは足踏みをして大丈夫というアピールをしてくる、足踏みをするたび胸が揺れる。


「よ、よし。先へ進もう」


 オレはアイリスから目を離し即座に先へ進む。


「ちょっと待ってください。」


 アイリスはオレが歩きだすと後ろから小走りで追いかけてきた、アイリスはチラチラとオレの顔を見て隣に並んだ。



「あの、私のステイタスって上がっているんでしょうか?」


 アイリスはフールピックに一撃を食らってしまって落ち込んでいるのだろうか。

 アイリスはオレの隣に並んだと同時に聞いてくる。


「ちょっとそこに座ってくれ」


 アイリスはオレの指差した所に座った、オレは向き合う位置に座るとアイリスは立ち上がり隣に座った。


「なぜ移動した?」


「近くにいた方が安全だと思いまして」


 アイリスはニコニコしながら隣に座った、アイリスには獣人特有の嗅覚で魔物の位置が分かるから奇襲や不意討ちは不可能だろう、なぜだろう。

 アイリスのことだ何か理由があるのだろう………か。


「そ、そうか」


 オレは一言だけ言いステイタス閲覧の能力でアイリスのステイタスを見てみる。


 名 アイリス

 称号 リクトの奴隷

 レベル 8→14


 HP 116→211

 MP 23→53


 ATK 97→157(+35)

 DEF 64→82

 INT 72→96

 RES 86→123

 HIT 81→116

 SPD 123→168


 アイリスは凄まじく成長していた。

 普通の成長速度は知らないが強くなっているのは確かだ。


「かなり成長してるぞ。良かったな」


 オレはアイリスのステイタスを口頭で教えていく、説明の途中で度々驚いていたと同時に喜んでいた。


 ついでにオレのステイタスを見てみるか。



 名 ミヤマ リクト

 称号 魔眼保持者

 レベル 16→24


 HP 460→584

 MP 752→961


 ATK 216(+20)→342(+20)

 DEF 187(+30)→269(+30)

 INT 193→291

 RES 211→306

 HIT 198→291

 SPD 283(10)→402(+10)


 オレは出来るだけ強い方と戦っていたからかアイリスよりレベルが上がっていた。

 MPの総量も上がり純粋な攻撃力も上がって良かった、これなら次の階層も余裕そうだ。

 ここにいる魔物はジュラザの森の魔物より弱い、新しいスキルの短刀術があるか確認しよう。

 オレはミラに渡されていたスキルカードをポケットからだし使う、魔眼で読み取った。

 もしかしたらステイタス閲覧の能力をゲットしたみたいに新しい能力をゲットできるかもしれない。


 《物体名:能力確認カード、解読結果

 個体名:三山 利久人

 種族:ハーフヴァンパイア

 種族能力:恐怖支配 D 殺気凶悪化 C

 身体能力増加 D 憎悪倍加 C

 斬撃耐性 E 打撃耐性 D

 短刀術 D


 行使可能魔法

 初級 火炎魔法(ファイヤーボール、火種生成など)

 中級 回復魔法(傷の治療、毒の治療)


 個体能力:魔眼名リーディングアイ

 効果、視認した物質の名称、事柄を読み取る、魔法の本質を見抜き、解読、理解


 理解者

 理解した物体、魔物の特徴やスキルをコピーすることができる(一つの物体からは一つだけ、魔物のスキルも同様で一つだけ) 


 獲得可能能力 能力閲覧》


 オレは能力 能力閲覧のスキルをコピーしておいた、思い通りだ。

 これでステイタス、能力閲覧の能力をゲットする、本当に便利な魔眼だ。


「それは能力確認カードですか? 私も使ってもいいですか」


「あぁーいいぞ、ほら」


 オレはアイリスにカードを渡し使い方を説明しようとしたが知っていたようだ。

 この世界では当たり前らしい、数秒たつとポンッという音と共にアイリスの能力が表示された。

 アイリスはカードを眺めたまま口をあけたまま驚いてカードを見せてきた。

 読めねぇーし………オレは魔眼で読み取り確認する。


 《物体名:能力確認カード、解読結果

 個体名:アイリス

 種族:獣人(狐)

 種族能力:超聴覚 C 超嗅覚 C 脚力強化 D


 個体能力:なし


 獲得個体能力:気配察知(魔物、魔族、人間などの気配を察知する

 また、特定の人物の気配を探し出すとこも可能)》


「リ、リクトさん。こ、こ、こ、こ、個体能力を獲得しました!!! こんなことありえるのですか!!!」


「すごいことなのか? オレも一回あったぞ」


 アイリスの興奮は収まらず世話しなく動いていた、オレの肩を揺さぶったり、オレの隣から立ち上がり周りをグルグル回ったり、

 座ったり。


「お、落ち着け。そんなに凄いことなのか?」


「はい。それはもう能力の獲得とは新しい自分の才能を開花させるのと同じです。確かに能力の覚醒は絶対にはないとは言えないのですが………それは天才の領域なのです。それが村でも落ちこぼれと言われた渡したなんかが。」


 要約すると、獣人が個体能力を持っていることは凄い、途中で能力の獲得は凄いことらしい。


 アイリスが早口過ぎて理解するのが難しかったが、そういえばミラもオレが理解者の能力を獲得したときは驚いていた、さらにオレは簡単に能力を獲得できる。


 あれ? オレってチートじゃね?


「そ、そうなのか! アイリスは凄いな」


 よく分からないがとりあえず褒めておいた。


「はい!ありがとうございます。どんどん魔物を倒してもいきましょう。レベルをガンガンあげてミラ様を驚かせてあげましょう」


 明らかにアイリスのテンションが上がっていた、オレはアイリスのテンションに合わせる。


「そうだな。いっくぞぉーー」


「おぉーー」


 アイリスの可愛らしい声がダンジョンに響き渡った、アイリスの声を聞き付けたのか3体のレッサースケルトンが現れた。


「あっ。やべ」


「す、すいません」


 3体のスケルトンに魔眼を使い強さをはかった、よかった3体共弱くなんとかなりそうだな。

 これがめっちゃ強い魔物とか現れたら目も当てられない。



 《個体名:レッサースケルトン

 魔物ランク F~D

 注意点、たまに鋭い一撃を放つ。個体によっては魔法を使うこともある


 獲得可能能力 火炎魔法脆弱 打撃攻撃脆弱 光魔法脆弱

 腐食攻撃耐性 切断耐性 短刀術》


 2体はこれと同じだったが1体だけ違う能力を持っていた、それは...ドレインタッチだ。

 名前からして何かを吸収する能力だろう、オレは迷わずドレインタッチをコピーした。

 普通のスケルトンからは切断耐性の能力をコピーしておいた。

 切断耐性の凄さはオレ自身が実感した。


「アイリスすまないが1匹任せるぞ。ファイヤーボール」


 3体のスケルトンの中でドレインタッチの使える個体をファイヤーボールで吹き飛ばしておく、一番厄介だろうからな。

 吹き飛ばされたレッサースケルトンは壁に激突し砕け散った。

 アイリスは自信が溢れているのか素早い動きで敵を翻弄しメイスで頭蓋骨を粉砕する。

 レッサースケルトンは頭蓋骨を砕かれ、成す術なく崩れさった。

 オレに向かってくるスケルトンは仲間がいなくなった怒りと恐怖をオレにぶつけてくる、怒りのせいか斬撃は大振りで隙だらけだった。

 オレは迷わず避けて新しい能力ドレインタッチを使う、レッサースケルトンから魔力を吸い上げレッサースケルトンは動けなくなっていた、どうやらレッサースケルトンは魔力で動いていたようだ。

 動けなくなったレッサースケルトンの頭を砕き、装備していたメイスを奪っておく。

 これで切断と打撃の武器をサブウェポンをゲットしておいた。


「片付いたな。それにしても自信に満ち溢れていたな」


「はい! 私はリクトさんのために頑張るって決めましたから

 それに能力の獲得もありましたし。自分に自信が持てました」


「良かったな。オレもお前に見合う主人になれるよう努力しよう」


 アイリスは最高の笑顔で言っていた、それはもう可愛すぎた。

 オレは迷わず、迷うことすら不可能だったのかもしれない、アイリスの頭を優しく、優しく撫でた。


「そ、そんな。私がリクトさんに見合ってないんです」


「自分に自信が出たん、じゃなかったのか?」


 アイリスは少し困った顔になった。


「そ、そうですが。リクトさんが凄すぎるのですよ」


 オレが凄い? 全然実感がわかない。


「とにかく次の階段を探そう」


「そうですね」

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