第5話森の王
朝、目が覚めたら地面に足がついていなかった、あまりにも非日常な目覚めに青ざめてしまう。
そんな俺も落ち着くのにそう時間はかからなかった、なぜなら昨日の自分の記憶が蘇ってきたからである。
「あっそうか、ジュラザの森だったか?」
変な寝かたをしたせいか腰が痛かった、木の上で寝るなんて経験なかなか、ない………いや無いだろう! 普通。
オレはいったん、ゆっくりと木から降り軽くストレッチをしながら周囲を警戒する。
こんな体の状態で魔物に襲われたら絶体絶命だ。
「いってぇ~、腰が痛いなんて経験初めてだ」
最初いた場所から動いてはいなかった。
いや 動けなかったという方が正しいだろう、それほどオレの腰は悲鳴をあげていた。
特に今日の予定は無いので、森の探索をすることにした。
どれだけ強い魔獣がいるか把握しないと危険だ、それにもし強い魔物がいないのならば木の上で寝る必要なんて無くなる。
D~Cのホーンラビット1匹であれだけ手間取ったんだ、もしA~B級に襲われたら勝てる気がしない。
オレは痛い体に鞭を打ち歩き始める。
道に迷わないように枝を折りながら歩いく、これで一応戻れるだろう………あれ? あそこに何もないのに戻る必要なんてあるのか?………ん~まぁ~いいや。
そんなことを考えながら、数分歩くとキレイな川が流れていたその川の中には魚がゆったりと泳いでる。
「よっしゃ、飯ゲットだ」
最初は素手で魚を捕ろうとしたが当然とることはできない。
今思うと野生の熊ってすげぇ~な、簡単そうにやってたから俺もできるかなって思ったけど全然出来なかった。
「どうしよう、危険なく栄養分が取れる絶好の獲物なんだが」
小魚はゆったりと泳いでいる、にも関わらず全然取れる気配がない………あっ魔眼なら何か分かるかも。
オレは魔眼を魚に向けて発動する。
《固体名称:ライトフィッシュ
逃げることに特化しているため危険度はない、味は非常に美味、生食も可能
体にある鱗は水面の揺れを察知することができる
夜になると自ら発光する》
らしい
水面の揺れを察知してるなら下からいけるってことだろ………ってことは下からすくい上げるようにやるとうまくいくのではないだろうか。
オレはある考えを思いつき即座に実行に移す、考えというのは木のツルなどを利用して網を作り取るという単純な物だ。
結果は見事、成功し三匹の魚を取ることができた、取った魚はそこら辺の木の棒で串刺しにしておく。
「飯の確保っと」
後ろから突然大きな物音がした、とっさに後ろを見ると大きな熊の魔獣がこちらを睨んでいた。
片方の耳が一部欠けた大きな熊型の魔物がヨダレを垂らしながらゆったりと迫ってくる。
「ムリ……ムリ、ムリムリムリムリィーーー」
オレは直ぐ様逃げる態勢へと入るが目の前には大きな熊型の魔物、後ろには川、渡って逃げれないこともないが川に足が取られ逃げるのに時間が掛かってしまうだろう。
爪は長く、目は3つ、大きな体の魔物はゆっくりと間合いをつめてくる。いじらしくも恐怖を煽るような速度でゆっくりとゆっくりと勝ち誇った顔でこちらを見ている気がする。
オレは逃げるためにハーフヴァンパイアの能力の身体強化を限界まで使い、その上魔眼を発動させ生き残る可能性を少しでも上げる。
《固体名称:ムーンライトグリズリー
魔獣ランク、B~A
注意点、長い爪は大木すら切り
強靭な顎は岩をも砕く、だが弱点は知能が低いことだろう》
らしい
「は? いきなりチート過ぎるだろ!」
ムーンライトグリズリーは前足? 爪を振り、攻撃してきた早さはないが鋭さは脅威的だった。
ムーンライトグリズリーの前の木はキレイな切れ目を残した。
「チェーンソーよりすげぇーや」
構えてはいるが勝てる気がしない、全力で逃げてみたら何とかなるかもしれないと思い、震える足に鞭を打ち走って逃げる
魔物の速度はオレの全速力をゆうに上回り追いついた、うえに突進までされてしまう。
オレの軽い体など簡単に吹き飛ばされてしまい、地面に強打するもはや逃げることすら不可能だ。
「マジかよ!ハハ.....ハ」
あまりの絶体絶命のピンチに失笑してしまう。
だが死ぬわけにはいかない、異世界に来て一度は魔法を使わずして死ねるものか!!!!
ついでにミラもいるし。
アイツはオレがいないとダメになると、そう勝手に確信していた。
生き残る可能性を少しでも高くするため、左目の魔眼は発動し魔物の弱点をいつでも探れるようにする。
最近は慣れたおかげか目眩しなくなった、そのため何とか魔物と対峙する勇気がかろうじて湧いてくる。
自分の中の魔力量の最大量が増えているのだろうか、それとも魔眼に使う魔力が減っているのか分からないが使いやすくなっているのは確かだ。
左手で足元の砂を掴み握っておく。
目潰しに使い少しでも生き残る可能性を高くするためだ。
魔物は大きな体を驚くほど早く動かしで突進してきた
ホーンラビットの突進より速く感じないがサイズが違うことにより凶悪さが増していた。
なんとかギリギリで右に避けながら砂を目の前に投げる、砂は2つの目に入り頭にある一つの目だけに砂は入らなかった。
「くそ、全部入れよ」
1つの目は無事だったが砂の入ったことによりムーンライトグリズリーは半狂乱になり、見境なくまわりにあった木々達を斬り倒していく。
それにより攻撃は早さを増したが、俺を狙っていないから避けるのは容易へとなった。
そんな油断がムーンライトグリズリーに察知されフェイントを入れられ肩を斬りつけられてしまった。
「逆効果かよ」
ムーンライトグリズリーの攻撃で半径10メートルにある木は切り倒され切り株だらけへとなっていた。
ムーンライトグリズリーは苦し紛れに突進してくる、慣れたおかげか余裕とまでは言わないが危なげもなく避けられるようになった。
ムーンライトグリズリーの毛皮を掴み背中の上に飛び乗り振り落とされないように両手に力を込める。
振り落とそうと暴れまわるムーンライトグリズリーの頭までなんとか移動し残っている目をナイフで深々と刺す。
ムーンライトグリズリーは痛みに絶叫し数分の間、暴れる。
オレは軽々と振り落とされ、ムーンライトグリズリー周りの木はなぎ倒さていく。
足元にあった長めの枝を持ち荒れ狂う魔獣の動きを読んで潰した目に深く刺し込む。
棒は簡単に目を突き破っていき脳へと届いていく魔獣は数秒激しく暴れ、数回痙攣し絶命した。
「………ハァ」
死の恐怖から解放され、安心しその場に座り混んでしまった。
ムーンライトグリズリーとの戦いは数時間に及んでいたのだろう、昼に遭遇したはずなのに辺りは夕方の色に染まっていた。
人間だったら最初の一発で死んでいた、間違いなく死んでいただろう。
ハーフヴァンパイアの能力を総動員してようやく勝つことが出来た次やっても勝てるか分からない、いや負ける可能性の方が高い。
本当に“たまたま“勝てた運が良かっただけだ。
慢心してはいけないな、命取りだ。
オレはムーンライトグリズリーの死体を放置し、火をおこした。
昨日やってコツを掴んでいたから一時間で火種を作ることに成功する、とっておいた魚を焼いて食った。
「寝床どうしよう周りに木ないぞ」
独り言が寂しく響いた。
ムーンライトグリズリーとの戦闘により睡魔はピークに達しており起きているのが辛くてしょうがない。
何か来ても俺より“アイツ“を食うだろう、目を閉じると直ぐ様夢の世界へと落ちていく。
..............................
目覚めたらムーンライトグリズリーとの戦いでついた傷はキレイになくなっていた。
「マジかよ、自然治癒力もすげぇーな」
切り傷ばかりだったが、人間なら全治3週間はかかる傷だった。
使った魔力も回復し量も増えたように感じる。
「あんなヤツに勝てたなんて今でも信じらんねぇー」
ムーンライトグリズリーの死体を見つつ、しみじみ思った。
それからの2週間と4日は無我夢中で乗り越えた、ホーンラビットの群れにも襲われたし、犬の魔獣の群れにも襲われたし、蛇の魔獣にも襲われた。
間違えて毒キノコを食べそうになったり、慣れない物を食べたからか腹痛にもなった。
洞窟を見つけ深く入りすぎて迷ったりもしたが何とか乗り切った。
「3週間たったぞぉー」
オレは喜びのあまり叫んでしまった、何故叫ぶという危険なことをしているかと言うとジュラザの森でオレに勝てる魔獣はいなくなっていた。
どうやらムーンライトグリズリーがジュラザの森の中では一番強かったらしい。
まぁ~あんなバケモノなたくさんいたら死んでたな。
出来ればもう会いたくないが。
後ろの茂みから足音と草木をかき分ける音がした。
やっときたかロリッ娘め!
「元気かぁ~リクトー」
やはりミラか、白髪の美少女は白い髪の毛を揺らしながらニヤニヤしながら歩いてくる。
指輪の精神安定化の効果のおかげで怒りはしなかったがさすがにイラッとした。
振り向きミラに出来るだけ、にこやかに笑いながら近付いていく当の本人のミラはニヤニヤしながらこっちを見ている。
オレは手に持っていたナイフを鞘にしまい開いた両手でミラのほっぺたを両手で引っ張ってやった。
「いはい、いはいそ、りふと」
今回はこれで許すか。
正直、ミラの顔を見たら張り詰めていた緊張が一気に切れオレはその場に座りこんでしまった。
「少しは強くなったのか?」
答える気力も残なく座ったまま無言を貫いた、四六時中死の恐怖に晒されるなんて最悪である。
「まぁーその話は後でいいか」
ミラはそう言うとオレの肩に手を置き呪文を唱えオレと自分を転移させた。
今度はミラも一緒に転移したみたいだ、場所はエメリカの町の門前だ。
「ほら、立てエメリカの町だ」
ミラはオレに立てと要求してる。
こんな移動手段あるならジュラザの森の移動の時使えばいいのに
しぶしぶ立ち門まで歩いた。
門兵はこちらに気づくと槍を向けてきた。
「戻って来なくても良かったのにゴミが」
構えると同時に罵声を浴びせてきた。
ミラは無視しながら通り過ぎようとしたが、さすがにオレは我慢の限界だ。
うるさい門兵に近寄りハーフヴァンパイアの能力の殺気強化を全開にして言った。
「黙れ、次喋ったら殺すぞ」
構えていた槍を持つ手は恐怖で震え、その震えは全身にまで及ぶ。
門兵は胯間を濡らし、顔は恐怖で歪み、腰は恐怖で抜かし、叫ぶことすらできずに這いつくばってまま逃げる。
その滑稽な姿を見た、町の住人は笑う。
門兵は真っ赤になりながら仕事を放置して逃げていく、あの門兵は2度と仕事にはこれないだろう。
「くく.....くはは..........くぁーはっはっはっ」
ミラは腹を抱えて笑っていた。
オレも溜まっていた鬱憤を解消できてスッキリした。
「いやぁ~想像以上に成長しておるな」
たいして実感はないが成長しているのは確かだろう、なんせA級の魔獣を倒したからな。
成長しない方がおかしい、むしろ成長していないとか言われたら立ち直れないだろう。
「これはスキルカードを使うのが楽しみだな」
ミラは笑って出た涙を拭きながら言う。
「オレがジュラザの森にいるあいだ何してた?」
「少し調べものをしていてな、お前には関係ないから気にするな」
ミラは神妙な表情に変わる、その声はオレにこれ以上聞くなという警告の声だった。
オレは寂しいと思った、こっちに来てからいろいろと教えてくれたミラが初めてオレを突き放したように感じたからだ。
「そ、そうか」
声に出さないように気を付けたつもりだったが思いの外、感情のこもった声になってしまった、ミラはオレの声を聞き狼狽えた。
「いや、リクトに関係ないとは悪い意味ではなくてだな、、あぁ~その関係ないというのはだな、私の問題に巻き込みたくないということでリクトを嫌いになったわけではなくてだな………うーん」
白髪を腰まで伸ばし、あどけなさが残る顔をしているミラがテンパってその深紅の瞳をキョロキョロさせた。
「ミラにとってオレってのはそれぐらいの存在なのか」
ミラの気持ちがわかり寂しさは消えた。
心配してくれるのは正直うれしいが仲間外れにされている感覚がある、オレはわざと声に感情を込めて言う。
悲しみと寂しいという感情を出来るだけ込めて
「いや、リクトは私にとって1番の存在だ、お前以上に大切な存在はない
ないがしろにするわけがないだろう?」
混乱して言葉を選んでいる余裕などなかったのだろう、いつもなら言葉を選び当たり障りのない返事をし濁すのだが今回は焦ったのか凄いことを言ってきた。
そんなミラをニヤニヤしながら見ているとオレの様子に気付いたミラはようやくイタズラされていることに気が付いた。
顔を真っ赤にし自分の言葉を思いだし恥ずかしさのあまり、しゃがみこんでうめいていた。
「あぁー懐かしいやっぱり可愛いな、癒されるぅー」
無意識のうちに言葉に出ていた、オレの言葉がさらに追い打ちとなり小さな体を震わせる。
その小さな肩は小刻みに揺れていて小動物の用な可愛らしさがあった。
「仕返しは終わったし
これからどこ行くんだミラ」
3週間もジュラザの森に放置した仕返しを終わらせ話題を変える。
「そんなに私の問題に首を突っ込みたいなら覚悟するがいい。
私の問題はちょっとばかしハードだぞ、いまさら嫌だとは言うまいな」
ミラは立ち直ったがどうやらオレは墓穴を掘ったみたいだ。
ヤバイ、調子に乗りすぎた。
「い.....いや.....謝るから許して」
オレの言葉を無視しミラは説明を始めた。
「うるさい! お前が言ったことだ、それにもとよりお前は連れて行くか迷っていた
森に放置したのも最低でも自分の身は自分で守れる用にするため、私の元配下が奴隷になっているから助けに行くぞ、異論、反論、抗議は一切認めん。」
ミラは何も言わせないふうに言った。
「..........マジかよ」
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