7月

冷蔵庫

 冷蔵庫が開かなくなってしまった。

 押しても引いても、ノックしてもくすぐっても、冷蔵庫のドアはびくともしない。

 これではせっかくたくさん買ってきた食材や飲み物を冷蔵庫にしまっておくことができない。

 私は無理矢理ドアを開けることはあきらめて、冷蔵庫の取扱説明書を探し出し、内容を確認する。



使用上の注意

□長期間、食べ物等を入れたまま放置しないでください。冷蔵庫の中で食べ物等の性質が変化してしまうと、冷蔵庫がグレてしまいます。冷蔵庫がグレると、扉が開かなくなることもあります。



 これだ、と思った。私は取扱説明書を読み進める。



□万が一、冷蔵庫がグレて開かなくなった場合は、根気強く謝ってください。そして、冷蔵庫が開き次第、すみやかに冷蔵庫の中で変質したものを取り除いてください。



 取扱説明書を置き、私はさっそく冷蔵庫にすみませんでしたと謝った。

「……」

 冷蔵庫は無反応だ。

 めげずにすみませんでしたと、今度は45度の角度で頭を下げてみる。

「……」

 冷蔵庫は反応しない。

 私は心の中でよしっと気合を入れて、根気よく冷蔵庫に謝り続けた。

「すみません。ごめんなさい。本当に申し訳ありませんでした。もう2度としません。反省しています。許してください、お願いです。すみません。申し訳ありません。すみませんでした……」

 5時間ほどこの調子で謝り続けると、冷蔵庫はようやく機嫌を直したのか「ひよこ、かたづけて」と言って、ドアを開けてくれる。

 冷蔵庫の中では、3匹のひよこが我が物顔でくつろいでいた。使いかけのまま放置していたたまごから孵ってしまったらしく、無惨に割れた殻が隅っこに寄せて置いてある。

 大急ぎでたまごの殻を捨て、ひよこを鳥かごに移し、濡らした布切れで冷蔵庫の中を拭き、買ってきたたくさんの食材や飲み物を詰め込む。


 鳥かごの中では、ひよこたちが不満げにぴよぴよ鳴いていたけれど、3日もほうっておいたら、グニャグニャになって黄身に戻った。

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