5月

夜らしい夜

 どうにも寝付くことができない。

 いっこうにやって来ない眠気にしびれを切らし、布団の中で何度も何度も何度も寝返りを打つけれど、しっくりくる体勢がみつからなかった。仕方ないので起きることにする。


 どうして今日に限ってこんなに眠気が来ないのか不思議に思う。

 お腹がいっぱいになれば眠くなるだろうかと、なかばやけくそに白米を炊いて、もそもそと食べてみた。

 やさしい甘みのある白米はいくら食べても飽きることがなく、私はひたすらもそもそと食べ続ける。八合も平らげてやっとお腹は満たされたけれど、眠気はやって来なかった。


 それなら、動いて疲れれば眠くなるだろうかと、今度はジョギングをしてみることにする。

 着替えて外に出ると、真夜中にも関わらず大勢の人たちが町内を走り回っていた。この中の少なくとも半分は、きっと私と同じように寝付かれずに困っているに違いないと、勝手に推測する。町内をぐるぐると走り回る群れの中にそろりとお邪魔して、一緒に走らせてもらった。

 走っても走っても、後から後から活力が湧いてきて、なかなか疲れが来ない。それでも、町内を百八周もするとさすがに疲れも出て来て、私は群れを離れて家に帰る。

 帰ってからすぐに布団に入り目をつぶるけれど、眠気はやって来ない。苦し紛れに羊の数を数えてみるけれど、一億匹を超えたあたりで諦めた。


 考えてみると、今日の夜はなんだか夜らしくない気がした。

 外は真っ暗で、空には星も月も出ている。それはいつも通りなのに、やっぱり夜らしくはない。いつもの夜とは決定的に何かが欠けているのだ。そのせいで眠気がやって来ないのだろう。


 今日の夜に足りないものについてつらつらと考えながら、カーテンを開けて夜空を眺めてみる。

 すると、夜の精霊が夜らしさを撒き散らしながらぶらりと散歩しているのが見えた。

 夜の精霊が夜らしさを撒き散らせば撒き散らすほど、夜はどんどん夜らしくなり、私はみるみる眠くなっていく。


 さっそく布団に入って目をつぶる。

 難なくするりと眠りに落ちた。

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