第3話 片刃の特性その1

「よーし、次は片刃だ、このダガーにはどんな利点がある?」


「へ、へい、両刃と違って片側しか削りませんから丈夫で、幅が狭い刀身でも十分な切れ味を出せます。そして片側だけ削ると言う事は両刃に比べ刀身の質量も大きくなりますから刺した時の殺傷力も高くなります」


「まあ、刀身の作りにもよるがな…、ちょっと待ってろ」


 親方は四角い木の箱を二つ運んできた、それを机の上に置くと


「ガコン、ガコン…ガコ、ポン」


 箱の両側の蓋を外した、貫通した木の枠のような状態になった箱の中には粘土がみっちりと入っている。


「この粘土が獲物の肉と思え。さっきお前が言った通り、基本的に刀身の幅と厚みがある方が刺した時のダメージも大きくなって殺傷力が高い。だが、その分刺す時の抵抗も強くなるから貫通力が落ちる。まず片刃からだ、どんな感じか見ておけ・・・ふん!」


 親方は片刃のダガーを力を入れて刺した


「ドス!」


「次は両刃だ」


 続いて両刃のダガーをもう一つの粘土に刺した、何となくだがこちらの方が力が入ってない気がする


「トスっ」


「ヒヨッコ、こっち来て裏側の貫通したところを見てみな。両刃で刺した物より片刃で刺した物の方が粘土が盛り上がってるだろ」


 親方に言われた場所を見てみた、確かに貫通した切っ先周辺の粘土の盛り上がりに違いがある


「おお、分かりやすいですねコレ!これが質量の違いですか」


「そうだ、粘土を細い棒と太い棒で突いた時、太い方が粘土を多く奥に押し出すだろ、この押し出した分がダメージだと思ってくれ。この方法なら木の枠で粘土が横に広がらない様になってるから盛り上がりだけ見れば違いが分かる」


「へー、なるほど・・・」


「こら、貫通した場所だけじゃなくて刺した場所も見てみろ!わざと刺し口が見える様に鍔まで刺さなかったんだからな」


「あ、すみません」


 親方に怒鳴られて気づき刺し口を見た


「あー…、片刃の方が刺した場所の周りの粘土が奥に引っられちゃってますね。両刃のはそうでもないですが」


「これが貫通力の違いだ。厚みの分刺して刀身が奥に突き進んだ時に抵抗が生まれるのはもちろんだが、片刃のミネには刃がついてない、だから片刃なんだが。両刃の場合はそのミネに刃がついているから押しのけるのではなく切り裂きながら進む感じになる。つまり少ない力で刺さるってわけだ」


「だから親方が両刃で刺した時は楽そうだったのか、ホントに分かりやすいですね!・・・でも親方、何で前に教えてくれた時はオレに豚で試させたんです?最初っからコレを使えばよかったんじゃ」


 親方は頭をかいて苦い顔をし、口を開いた


「武器を持って命を奪う立場ってのを体感させたかったてのもあるが、じつはコイツ、小僧があの後にオメェの為に作ったんだよ」


「え、これ先輩のアイディアなんですか!?」


「そうだ」


「え、じゃあ何で今頃?それに何で親方が?その話だとブルーノ先輩がオレに教えるのが筋なんじゃ・・・」


 親方はプッツンして怒り出した


「いつまでたってもあの小僧…モジモジして切り出さなかったんだよ!オメェに一応基本は豚で教えたし、他にも教える事が有ったりでうやむやになったてのもあるが・・・」


「あー・・・先輩らしいですねぇ・・・」


「あの性格のまま教えさせるのも不安があったから強く言わなかったが・・・師匠を働かせるとは言い度胸だ」


「ハハ、ま、まあこうして役に立ってるんだし落ち着いて」


 怒っている親方をオレはなだめようとしたが、悪いタイミングで・・・


「あ、あのー、呼びましたか親方?」


 奥からブルーノ先輩の声がした。その声に反応し親方は怒鳴り散らした


「口が動かねぇなら手ェ動かせ!こぞおぉ!!」


「ひぃ!す、すみません親方!作業に戻ります!」


 奥から先輩が慌てて作業に戻って行った


「ハハハ、怒鳴られた言葉の意味、あれで分かるのかな・・・」


「分かって無かったら身体で分からせるまでよ!さて、話がそれたな・・・」


「ブシュ」


 親方は粘土に刺したダガーを抜いて、布で汚れを拭きとっている・・・凄い形相で


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