ここは武器屋ですか?

軽見 歩

―――ダガー編―――

第1話 武器職人見習い

 まだ勇者が召喚される前のクプウルム王国の、ある武器屋の物語


「アッシュ起きてください、親方に怒られますよ」


「あ、先輩、今起きます・・・・んっ、よいしょ」


 オレの名前はアッシュ・ブラウン、この武器屋”ユニコーン・キャヴァルリー”に所属する武器職人…の見習いだ。オレは先輩の呼びかけで目を覚まし、身体を起こし背伸びをした


「んーーーっ、おはようございます!」


 先輩に眠い頭を無理やり動かして元気よく挨拶する。先輩の名前はブルーノ・マットロック、普段はおどおどしている事が多いが作業中は機械の様に精密に動く、こう見えても尊敬できる人だ


「おはようアッシュ。なんで工房で寝てるんですか?」


「今日は俺が武器作りを始めて任される日ですからね。道具の手入れをしてたら疲れちゃってそのまま寝ちまおうかと、ここなら寝坊する心配もないですしね、ハハハ」


 大型の機材以外は基本的に職人が各個人で道具を揃えるのがこの工房の決まりだ。道具を自分に合わせて調整したり、仕事に合わせて道具を作ったりとする事は当たり前なのでその方が都合がいいらしい。オレが手入れした道具も親方に道具を借りて一緒に作ってもらったオレの道具だ


「作らせるって言ってもダガーだがな、補助的な武器だから新人が作った粗悪な安物でも買ってくれる。安い方が良いって奴もいるな、手荒に使って壊しても直ぐ買替えられるってよ」


「ポン、ポン」


 親方が工房に入ってきてオレの肩を軽く叩いた、俺と先輩は親方にあいさつする


「親方!おはようございます!」


「お、おはようございます!」


 親方のバートラム・クレイ、この工房のオーナーにしてマイスターだ


「おう、ヒヨッコと小僧!おはようさん。で、今日作るダガーの見本はコイツだ」


「ジャラ」


 親方は三本のラウンデルダガーを机に置いた。円盤状のつばがついていて、柄頭つかがしらの方にも同様の円盤が付いている細身の刀身のダガーだ


「おお、コレか。変な見た目のダガーですよね」


「合理的で無駄の無い見た目だろうが。どうしてこんな形してるか教えたろ、まさか忘れてないだろうな?」


「覚えてますよちゃんと。睨まないでくださいって」


 この二つ付いた円盤にはちゃんと理由がある、ダガーに限らず刃物の鍔は攻撃を受けた時に相手の刀身から手を守る役目以外にも、刺突などをした時に刀身の方へ手がすべって怪我をしない様にするためでもある。


 またの部分が膨らんでいたり出っ張っているものも多い、降った時の遠心力で手からすべって飛んでいかない様にするためと、刺した後抜く時にすべって手を放さない様にするためだ。


 つまりこのダガーの円盤状の鍔と柄頭のパーツは手の保護と戦闘中に武器を放さない様にした工夫の結果このデザインになったのだ。円盤が手の上と下から挟まれる様にあったらそう簡単にすっぽ抜けたりしないだろう、構造もシンプルで飾りが少ないから作り易く安価で実用的だ


「本当に覚えてるんだろうな、どうして俺がわざわざ三本持って来たと思う?」


「三本・・・人数分用意しただけじゃ?」


「バカヤロウ、俺とブルーノ小僧に見本なんぞいるか!見るとしても自分の仕事に合った物をそれぞれ勝手に用意するだろ」


 ブルーノ先輩がおどおどしながら口を開いた


「と、刀身の種類が違うんじゃないかな?両刃、片刃、刺突特化の刃のない物…この辺りは基本だし、それぞれの特性が解ってないと・・・」


「小僧が答えてどうすんだよ!ひよっこアッシュに答えさせろ!」


「す、すみません!」


「ブン!ブン!」


 先輩がすごーく申し訳なさそうに俺と親方に必死に何度も頭を下げている。仕事になれば凄い人なんだけど、こういうところはどうにかならないものか・・・


「頭を上げてくださいよ先輩!どうしてオレにまで謝ってるんですか!」


「ああ、すみません!」


「小僧!お前は注文書道理に先に作業してろ!」


「は、はい!わかりました!!」


 親方の指示を受けて先輩は走り去ってしまった


「はぁ・・・小僧の言った通りこの三本はそれぞれ刀身が違う。コイツを持って来たのはお前がちゃんとの特性が解ってるか確認するためだ」


「刀身の種類による特性・・・ちゃんと覚えてるつもりですが」


「つもりじゃダメだ、基本だぞ。それに人間は覚えてると思っている事でもどっか抜けてたりするもんだ、その確認だよ」


「なるほど、わかりました親方!」


「よし、じゃあはじめるぞ・・・」

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