第126話 神の贈り物
最悪の未来を想像して、俺は頭を垂れて通学路を行く。
いや、頭を垂れているのは物理的な影響もある。
カーバンクルは俺から離れようとせず、今は俺の肩に乗っかっている。言うなれば肩車の体勢だ。
まるで帽子のように俺の頭部にフィットするカーバンクルに、体格のいいミシェルちゃんやレティーナが手を伸ばし、容赦なく撫でまわす。
おかげで俺の頭までぐりぐり動かされて、微妙に気持ち悪い。
「あの、ちょっと首が――」
「あ、ごめんなさい!」
「えー、もうちょっとぉ」
レティーナはすぐに手を引いたが、ミシェルちゃんはまだ名残惜しそうにしている。
どうにか手をのけた瞬間を見計らい、カーバンクルも俺の頭から飛び降りた。
周囲に人目が無いか、キョロキョロと警戒し、ミシェルちゃん以外にいないと確認した後、再び風呂敷包みを開いた。
中から一本の棒と手紙を取り出し、俺に渡してくる。
俺がそれを受け取ると、カーバンクルは再び俺の頭によじ登り始めた。
「かんべんして」
「キュ?」
くっそ、この生毛玉、言葉を理解できるくせに知らんぷりしてやがる……
とにかく、渡された手紙を開いてみると、そこには白いのからのメッセージが載せられていた。
『先の話であなたにアイテムが流れていないという不満があったようなので、こちらの
「ふむふむ……?」
短杖の先端を確認すると、確かにワンドの先に切れ込みと固定の為の器具が取り付けられている。
短剣の柄を取り外し、こちらに刃を付け替えれば普通に使用できそうだ。
『杖に魔力を流す事で
「フォームシフトおぉぉぉ!?」
俺は思わず、素っ頓狂な声を上げてしまった。
難易度も干渉系魔法の上位に位置し、
無論、効果時間は存在し、本来ならほんの二、三分の間だけしか効果はない。だが状況に応じた形状にアイテムを変化させる事ができるため、即応性に優れ、非常に有用な魔法と言える。
しかもこの魔道具ならば、俺が魔力を流し続ける限り、短剣は槍に変化し続ける事ができるらしい。
問題はその時間分、俺の魔力が吸い上げられ続けるわけだが……今の俺にとって、それはむしろ好都合。日々魔力を吸引して貰わねばならぬ身なので、消費が増えるのは逆に喜ばしい。
「こんな魔法を封じ込めたアイテムなんて……実はサードアイに匹敵するマジックアイテムなんじゃ?」
しかも短剣と組み合わせられるという事は、持ち運びも苦にならないので、偽装としても完璧だ。
これがあれば、俺は短剣で戦うという印象を周囲に刻みつつ、いざという時は槍で戦うというイメージの落差を利用できる。
「素晴らしい。あの白いのを初めて褒めたくなってきた」
「ねぇねぇ、ニコルちゃん? フォームシフトってなに?」
「え?」
そこで俺はくいくいと袖を引くミシェルちゃんに気付いた。
よく考えたら、彼女の前でフォームシフトの事を口走ったのは失策だったかもしれない。
ミシェルちゃんもレティーナも、この干渉系高位魔法については全く知識を持っていない事が幸いだった。
「えーと……なんだかこの短剣に魔法を込める術がこれに仕込まれているんだって」
なので、俺は色んな意味で曖昧な答えを返しておく。
これなら、いざという時は振動する効果にすり替えて説明できそうだし。
「へー、あの白い神様からの贈り物? お揃いだ!」
「そーだね、おそろい」
「白い神様ってなんですの?」
三人の中で唯一、白いのと面識のないレティーナが首を傾げる。
一応攫われた時に会ってはいるのだが、その時コイツは気を失っていた。いや、これは会った内に入らないか?
「わたし達の中では、そう呼ばれている白くてすごい魔術師がいるんだ」
「白くて……すごい? マクスウェル様みたいな?」
「確かにマクスウェルのヒゲは白いけど……ちょっとちがう?」
さすがに見かけロリなあの神様を、萎びた大根みたいなマクスウェルと同列にしてやるのは可哀想だ。
というか、そんな扱いがバレたら、何をされるかわかったモノじゃない。あの神様は本当に神出鬼没なのだ。
なんにせよ、これはいい物を貰った。この短杖の効果で槍に変形させ、別人の姿に幻覚で変化すれば、俺と同一人物とは思われないだろう。
しかし、レイドの姿が使えなくなった以上、別の姿を考えねばならなかった。
いいアイデアがそう簡単に浮かぶはずもなく、どうした物かと頭を悩ませていたところでもあるし、本格的にその姿を考えねばなるまい。
「なんにせよ、実験は必要だなぁ」
問題は本当に短杖を装着した状態で振動の効果を発揮できるかどうか。あの神様はどこか抜けてる印象がありそうなので、実際に使ってみない限りは信用が置けない。
俺はその日の憂鬱な授業の事を忘れ、くふふと含み笑いを浮かべていたのだった。
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