第76話 ミーティング
盗難時の詳細を聞いて、女王華との取引を終え、一旦ラウムに帰還すると事になった。
犯人を見つけるために、山に残っていても仕方ないからだ。
マクスウェルの屋敷に戻り、それぞれに茶を振る舞いながらコルティナが今後の展開の口火を切る。
ちなみに茶を淹れているのはマリアだ。
「でも聞いた詳細だと、種を盗まれたのは二週間も前なんでしょ? どうやって探せってのよ」
「待て、コルティナにアイデアがあったから承諾したのじゃないのか?」
「ライエル、アンタいつも私に投げっ放しにするの、やめなさいよ」
相変わらず脳筋のライエルに、考えはないらしい。まぁ、それは俺も同じなんだけどな。
ガドルスは発言すらしない。
マクスウェルはミシェルちゃんを膝に載せて、ご満悦だ。まるで孫娘を愛でる好々爺という風情である。
「二週間も前の話じゃ、足跡とか追跡する事もできないのよね」
「そうね。というか、そろそろ街に戻ってくる頃じゃないかな?」
マリアの言葉にコルティナが返す。
俺達はマクスウェルの転移魔法があったから日帰りができたが、徒歩で往復するとなると、大きな街までは二週間程度の時間はかかるだろう。
未開発の森の中を進むと言うのは、それくらい難事だ。
「女王華の種を薬に加工するとなれば、それなりの設備と技術が必要になるわね。森の中でこなせる作業じゃないわ」
コルティナの意見を補足するように、トリシア女医が説明する。
「そうなると、確実に大きな街に立ち寄っているはず。あそこから一番近い街というと……」
「周辺にそこそこの大きさの町はあるけど、そういう場所で捌けば足が付きやすい。確実にラウムに来ている……と見ていいわね」
貴重な薬の原料だけに、それを売れば犯人に繋がる足取りを残してしまう。
だからそれを誤魔化すため、ある程度の人が多い、そういった組織の存在する大きな街で処分する事が多い。
自分で使うとかじゃない限り、この街を目指してきているはずだ。
「ワシも衛士に指示を出して、周辺を警戒するようにはしておくつもりだが……期待は薄そうじゃの」
「トレントの警戒を掻い潜れる連中だものね」
森の中とは言え、女王華周辺のトレントの数はかなり多い。
しかも植物であるが故に睡眠というモノをほとんどしないため、隙を突くのは難しいはずだ。
その警戒網に掛からなかったとなると、下手をしたら俺のように隠密系のギフトを持っているのかもしれない。
そういう人材を衛士程度が発見すると言うのは、おそらく難しい。
「ライエルとガドルスはもう村に帰っちゃうの?」
「いや、宿でも取ってしばらくは捜索を手伝うよ。事は俺の娘の話でもあるし」
「そうね。村の方も心配だけど、ニコルの方を優先したいわ」
「ワシもしばらく滞在するとしよう。ライエル達と違って、宿の方はどうとでもなるからな」
それを聞いて、ミシェルちゃんとレティーナはパンと手を叩き合わせた。
「すごいですわ。英雄たちが再び一つの街に集まるなんて!」
「すっごいね! 今考えてみれば、こんなの、普通は見れない光景だよ」
「アナタ、その英雄の膝の上に乗せられてるのですわよ?」
「うらやましい? ねね、うらやましい?」
「むきー!」
ミシェルちゃんに飛び掛かったレティーナを、マクスウェルはヒョイと抱き上げ、ライエルにパスした。
ライエルはレティーナを膝に載せて、大人しくさせる。
当のレティーナに至っては、緊張のあまり硬直してしまっていた。
「ウム、静かになったの」
「あら、あなた。ニコルの前で浮気かしら?」
「それはないだろう、マリア!」
「いいよ。わたしはコルティナの膝に行くから」
俺はここぞとばかりにコルティナの上に移動する。
小柄な彼女だが、俺の方がもっと小柄なので、膝の上にしっかりとフィットした。
下手にフリーでいると、ライエルかマリアに捕獲されかねない。後コルティナに微妙なセクハラ的気分も少々……まぁ、これは置いといて。
「なんにしても、まずはお金のある所に商談を持ちかけるのが基本かしら?」
「盗賊共のギルドもチェックしておきたいのぅ。そっちはワシが受け持とう」
「お願いね、ガドルス」
荒くれ者の多い盗賊ギルドでは、いつ命の危険が襲い掛かるかわからない。
そんな場所に、マリアやコルティナは向けられない。なにをどうやったら倒せるのかわからないほど頑丈なガドルスが、適任と言えるだろう。
「なら俺は街門を回って不審人物を見かけなかったか聞いて回ろう」
「じゃあ、私は教会を回ってみるわ。あそこも人が出入りする場所だし」
ライエルは俺達の中で一番カリスマ性にあふれる人材だ。だからこそ、こういう聞き込みでは最も高い成果を出す。
そしてマリアは、世界最大の宗教である世界樹教の法王すら超える支持を持つ聖女だ。
一線を退いたとはいえ、彼女の問いに沈黙で答える者はいない。
「じゃあ私は家に帰って寝てるわね」
「トリシアも仕事しなさい!」
「もう体力とストレスが限界なのよ! 今日一日で何回死を覚悟したと思ってるのよ!?」
「たった二回でしょ」
「充分よ!」
トリシア女医はヒステリックにそう喚いていた。素人にファイアジャイアントの戦闘とトレント包囲網はやはり無理があったか。
そのわりにはミシェルちゃんとレティーナは平気そうなんだが……
「ミシェルちゃんとレティーナは怖くなかったの?」
「うん? こわかったけど、ライエル様達が一緒にいてくれたし」
「そうよね。あの方達と一緒なら、万が一は存在しないわ」
「その信頼はありがたいが、自分の身を守る努力はしよう」
うちの両親に関しての信頼は実にありがたい。だが当人に守る意思が無ければ、守れるものも守れない。
特に街中での行動では何かと危険が多くなる可能性がある。これは正面からの戦力ではどうにもできない物だ。
結局ミシェルちゃんとレティーナは、ライエル達に諭されて、しばらくは自宅待機になったのである。
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