第22話 7歳、初めてのハンティング
更に二年の月日が経過した。
俺はラウムの魔術学院入学を目指し、魔法の勉強に重点を置いて、日々修行の毎日を送っていた。
無論、身体を鍛える事も忘れない。
筋力、持久力ばかりはどうしようもないが、瞬発力だけはかなり付いてきたように実感できる。
受験まであと一ヵ月という時期に、俺とミシェルちゃんは森の中で息を潜めていた。
俺はこの二年で悩みに悩んで選んだ
後ろに控えるミシェルちゃんは少し大振りな狩猟弓と革鎧。ちなみに俺は非力すぎて、革鎧すら着れないのだ。
そして俺の視線の先には、
このモンスターは動物系モンスターで、その肉は食用に適している。しかも毛皮は防寒材として使用でき、牙も装飾品として人気だ。
つまり全身余すところなく利用できる『美味しい獲物』なのだ。
ただし狩れれば、の話である。
俺は後方を振り返り、後ろに控えるミシェルちゃんと目配せした。
この二年、みっちりとコンビネーションを鍛えた相手である。これだけでお互い、何をすべきかは把握できる。
「朱の一、群青の一、山吹の三。放たれし
俺の呪文詠唱に呼応して、ミシェルちゃんの弓に光が宿り――消える。
光は消えたが、これで彼女の弓はかなり威力を増したはずである。朱は強化する度合いを、群青は対象の広さを、山吹は効果時間を現しているのだ。
この場合、最低レベルの強化を一人に、三分間という指示である。
更に色の濃さ等で使う魔力の強さも変わっていく。
これがマリアクラスになると無詠唱で発動できるのだが、俺にはそれはまだ無理だった。
というか、発動できる魔法はこれだけである。朱の二や群青の二、山吹の四にするとあっさりと魔力が霧消してしまうのだ。
だがこれはこれで、メリットはある。
仲間も俺の詠唱を聞いて、どの魔法をどの範囲にどれだけの時間掛けるかを判断できるのだ。
俺は呪文を小声で詠唱したため、ストライクボアはまだこちらに気付いていない。
キリキリと弓の
その矢は一直線に飛翔し、ストライクボアの首筋に深々と突き刺さった。
本来の彼女の膂力ならば、今の半分も刺さらない所である。
「ブキィ!?」
突然の激痛にストライクボアが苦鳴を上げる。
そしてこちらを振り返った。その時には既にミシェルちゃんは木の陰に隠れていた。
「ニコルちゃん、お願い!」
「まかせて」
シミターを抜き放ち、猪の突撃に備える。
ストライクボアはその名の通り、突撃からの攻撃を得意とする。
逆に言えば、その攻撃さえ
前世では冒険先の非常食としてよく狩っていた。だが今ではこいつも強敵である。
「ブモォォォォ!」
叫びと共に襲い掛かってくる猪を、サイドステップで躱す。
後方のミシェルちゃんは既に木陰に姿を消しているため、気にする必要はない。
そして擦れ違いざまに、シミターを一閃。
無論、非力な俺では有効なダメージは与えられない。せいぜい皮の表面に浅く傷を付けた程度だ。
だが、それでいい。こうして接近してしまえば、得意の突進は使えない。
そしてストライクボアは小回りが利かない。つまり――
「ブキィ!?」
足を止めた一瞬を見逃さず、ミシェルちゃんの第二射が飛んだ。
それは狙いを過たず、再び首筋に突き刺さる。
すぐさま猪はミシェルちゃんに注意を向けるが、俺がそうはさせじとシミターで斬りかかる。
攻撃に参加するなら、俺にも強化付与を掛けておけばよかったのだが、それをするだけの余裕が、俺には無かった。
「せやあぁぁぁ!」
気合のわりに相変わらず刃は深く刺さらない。
しかし猪の注意を再びこちらに向ける事には成功した。
これが頭の良い敵ならば、俺を無視して最大火力を持つミシェルちゃんを狙うのだろうが、ストライクボアはしょせん獣である。
直近の攻撃者を優先して攻撃してしまう程度の知性しかない。
小回りの利かない猪の攻撃は、非常に直線的で躱しやすい。
頭を下げて攻撃に出るタイミングを見計らって横に飛び、その太股に斬りつけて行く。
足回りへのダメージを受けて反射的に足を止める猪。そこへ飛来する矢。
後はこれを繰り返していけば、倒せる。
こうやって戦う事三分。俺達は二人だけの力で、ストライクボアを討伐する事に成功したのである。
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