「プールの中の世界」

二本目の蝋燭。

「プールの中の世界」


これはボクが小学校の時に体験した話です。ボクは昔から水と言うものが好きで、よくお風呂や洗面器に顔を浸けて遊んでいました。もちろん海に入るのも好きだったんですが、一番好きなのはプールでした。ボクの学校はとなりの中学校と共同で使っていたので、水深も深い50メートルプールでした。一年生の時は全く足が着かず、少し恐かったのですがなれてくるととても楽しくて、先生に上がりなさいと号令をかけられてもわざといつも一番最後に上がりました。

そんなある日の事でした。先生から上がるように号令がかかり、みんな嫌々上がる中でふと一番深い所に居れば先生にばれないのではないだろうかなんて思ってしまいました。ボクは命一杯酸素を吸い込むとプールが一番深くなっている端っこに床を這いながら行って、隅っこに体育座りをして、周りを見渡してみました。どうやら皆上がったようで50メートルのプールの中には誰もいませんでした。水面を見上げても波一つ起っておらず、音も何もしない空間になっていました。水はまるで宝石のように輝いていて、ボクは海賊の隠した宝を見つけた様な気がしてとても嬉しくなりました。つい口元が緩み、口から泡がキラキラと上がっていきました。50メートルもあると反対の端っこは全く見えなくてここの先は無限にあるんじゃないだろうかと思いました。その瞬間水の中で大きな波が起こりました。ボクは幸い壁に捕まっていたので、流されるような事はありませんでしたが、体には水の重みが伝わりました。

耳を澄ましていると、木製の箱が軋む様な、ギーバタン、ギーバタンという音が聞こえて着ました。そして反対側の方を木製の船が現れたんです。とても大きな船で全部がプールの中に現れる事はありませんでした。プールの壁から壁へ通り抜けるんです。でも不思議なのがその船は逆様で丁度船のお腹の部分だけが見えて、それから上の部分はプールの青い床の向こうに見えるんです。藤壺の沢山着いた木製の船はそうやってボクの前を通り過ぎました。ボクはその光景に唖然としてしまい、ポカンと口を開いてしまいました。口の中に貯めていた空気はすっかり泡になって水面へ上がっていきました。でも、ボクの気持ちとしては泡は水面へ沈んで行った様にみえました。その後はボクが水から上がって来ないと少しだけ騒ぎになり、ボクは放心状態のまま先生達にプールから引っ張りあげられて、病院に運ばれました。

それからボクは時々水の中に顔をつけると逆様で色々なモノが見えるようになりました。洗面器に顔を浸けていた時は逆様の金魚が目の前を泳いでいたり、もちろん逆様で。あと一番驚いたのは、プールで逆立ちをしていたら、人の足を掻い潜る様に河童が泳いでいた事でした。この時はボクが逆立ちをしていたので河童は普通に見えました。すこし目が合った気もしました。

今ではもう見える事はないのですが、あれはとても不思議な体験でした。

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