遺書

露草

Megumi⇒騙

「莉夜、ごめんね。莉夜より先に逝くこと、許してよね。 恵実」


莉夜の手にはそう書かれた一枚のメモ用紙があった。

帰ろうと思ってグラウンドシューズを手に取ったら、入っていた文書。

ただのクラスメートの、仲良くもない恵実からのその言葉は、衝撃的なものだった。


莉夜は焦った。

仲良くないクラスメートとはいえ、自殺をほのめかすような内容だ。

「恵実ちゃんを助けなきゃ」

莉夜はスマホを起動させ、恵実のSNSの投稿をさかのぼった。

つい1週間くらい前から、

「飛び降りたい」

「飛び降りたら私、どんなかたちになるんだろ?」

といったことが投稿されていた。


「飛び降りるつもりだ」

莉夜は瞬時に悟った。

同時に、飛び降りるとしたら1つ思いあたる場所があった。

恵実の思い出の場所。どのSNSのプロフィールでもこの画像。



小学校の屋上。



恵実は小学校の時、いじめられていて一人になることが多かった。

そのとき、仲良くしてくれた子と、小学校の屋上で出会った。


それが私、莉夜だった。


でも、中学に入ってからは、恵実は莉夜に近づきもしなかった。

話しかけてもいやな顔をした。


恵実にとっての思い出の場所は

小学校の屋上。



急げ。恵実ちゃんが、死んじゃう。

中学校から走って5分。

元担任に挨拶をして、校舎に入りこむ。

古い階段をギシギシいわせながら屋上のある5階まで駆け上がった。



屋上の扉を開いた。

風が莉夜の顔に真正面に当たる。

目を凝らすと、恵実の姿が見えた。


「恵実ちゃん!!!」



フェンスの奥で、恵実はゆっくり振り向いた。


「莉夜。やっぱわかってくれたんだね」


「お願い、死んだりしないで!」


「この世界にさ、嫌気がさしちゃったんだ。」


「なんで?恵実ちゃん、いつも楽しそうなのに。」


「楽しくなんかないよ。つまんない人生は、早めに終わらせておくのが吉だって言うしね。」


恵実はそういって一歩、足を空中に踏み出した。


「恵実ちゃん!!!」


静寂が広がった、直後に


「・・・あはははははははは!!!」

「莉夜、マジウケる!」

「何本気にしちゃってんの!?」


笑い声が響いた。

声の正体・・・

鈴華。悠太。ひかる。純。里緒。


あれだけ神妙な顔つきをしていた恵実も大笑いしている。


「・・・どういう・・・こと・・・?」

莉夜は驚きを隠せないままに、尋ねた。


「莉夜ってさ、クラスメートで陰気で、つまんない奴なんだよね。」

鈴華が笑いを隠せずに噴き出した。

「そんなつまんない奴がさ、昔の親友が死のうとして、どういうリアクションとるかなって、試してみたわけよ。」

悠太はひかるに同意を求める。ひかるも頷いた。

「案の定面白くってよ、しばらく話のタネになりそうだしな。」

「そうそう、さっきコミュニティサイトにもあげたよー!」

純と里緒が続けて言う。



莉夜は騙されただけだった。

結果がどうなったところで面白くもないことをして

自分たちの自己満足のために。


純が叫びながら

「莉夜―何もしねえのかよ?

これ、生放送だからさ、いいたいこと言っていいんだぜ?」

といい、里緒が証拠かのように生放送であることを見せてくれた。

コメントが飛び交う。


「うっわ、漫画みてえ。」

「キモwwww」

「なんかさ、芝居めいてるよね」

「え、これ演劇の練習生放送してるだけじゃなかったの?www」


莉夜はあきれてものが言えなかった。

それからメモ帳を取り出し、ボールペンで書いた。


「ねえ、純。今から、私をカメラで追ってよ。」


純は言うとおりに莉夜にカメラを向けた。

ほかの5人もニヤニヤしながら莉夜を見つめている。


莉夜はさっき書いたメモ帳を、自分のかばんにはりつけた。

そのまま、走って、フェンスを乗り越えて・・・





莉夜は飛び降りた。

死を選んだ。

純は律儀にカメラで追っていた。

鈴華は唖然とした顔をしていた。

悠太や、ひかるや、里緒も

突然のことに理解が追い付いていないようだった。


その顔。莉夜は心の中でほくそ笑んだ。

かわいそうな、やつら。


莉夜は目を閉じた。頭に強い衝撃を感じ、どこか温かいものが顔に飛び散ったのは

同時だっただろう。



「みんな、ごめんね。先に逝きます。みんなのせいで、死を選んだんだから。

1人ずつ、殺しに行くから…ね。  莉夜」

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遺書 露草 @chisato_hiyoko

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