20歳のネリネ

海山 戀

Prologue ; 両親へカサブランカ

 10月3日、私の誕生日。

 20歳の節目くらいは自分に正直になろうと思ったのだ。


「お母さん、お父さん」

 両親はベランダにいた。二人より添って、煙草を吸っている。家のルールの一つに煙草は外で吸うことになっているのだ。

 もう10月。少しだけ開けたベランダのドアの隙間から、夜の風が冷たく私の頬を撫ぜる。

「どうした、体に悪いぞ」

「いや…うん」

 私はうなずきながらも空けた戸を閉めることはできない。ここで閉めたら、意味がない。きっと後悔すると思ったのだ。

「…楓野ふうや、ここ座る?」

 ベランダに置いてあるベンチに腰かけている両親。母の声を合図のように、父が母の体を父のほうに引き寄せた。私は空いた母の隣に腰かけた。

 私は父と母にどれだけ大好きかを話した。

 そして、時計の針が一番上をさして日付が変わろうとしたとき―――…




「産んでくれてありがとう。二人の子供で、私はよかったと思ってる」




いつも笑顔を忘れない、強く美しい両親は

初めて私の前で泣いた。

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