第29話 落ち着いた患者1

私たち夫婦は仲が良い。


子どもも授かりたいと思ってきた。

けれど、子宮体癌になり

ガンというショックもあるが


子宮と卵巣を全摘出しなければいけなく


子どもを授かれないというショックも大きかった。


最初にガン発見前に入院した病院で

検査の為に、子宮内膜全面掻爬術を受ける際


担当の先生から、手術中に子宮を傷つける事も

あるかもしれないとか


子どもを望んでいない場合は

子宮を摘出して検査する事もありますが


などと何とも恐ろしい話をされたが

私たち夫婦がまだ子どもを諦めていない事を

察した先生は子宮温存で話を進めてくれた。


その時の「子宮が無くなるかもしれない」

「子どもが授かれないかもしれない」というショックは相当なもので


いや嘘でしょ、まさかまさか。

と自分の中で一人ドキドキ考えてしまっていた。


そんな私を支えてくれたのは夫だった。

夫は静かに「命さえあればいい」

と言い


その言葉が私の不安や辛さを一気に吹き飛ばしてくれるようだった。


というのも

私は自分が母親になれない辛さもあるが

それ以上に夫を父親にしてあげられない事に対する申し訳なさの方が強かったのだ。


夫の「命さえあればい」の言葉は

それを許されているようにも感じたし


子どもを産めない私でも受け入れてくれそうで

安心出来たのだ。



そういった事が一度あったので

ガンと診断された後は、もう私は動揺する事なく


すんなりと子宮全摘出を受け入れていた。

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