僕が生まれたこの街は

bba

眼下に広がるこの街に

日が昇ると柔らかい光で包まれる。


日が沈むと人工的な光に差され漆黒とは呼べないが明るいとも言えない曖昧な空間に包まれる。


ゲームセンターもなければファーストフード店もないけど駄菓子屋はある。


それは俺みたいな現役中学生には刺激の足りない空間だけど、


どの街よりも安心感はある。


正月、家族で嫁いらず観音院に初詣に行く。


変わった名前だと皆言う、じいちゃんに聞いてみたら年老いた老人が嫁の手を煩わせる事なく健康で人生を全う出来る様に、という意味らしい。


じいちゃん達は嫁いらず観音院なんて他人行儀に言わないで嫁いらずの観音様と呼んでる、中学生だからかもしれないけどこういう地域独自の呼び方ってカッコイイなって思ってしまう。


呼び方といえば足次山神社、あしつぐさんだのあしつぎやまだのと呼ばれているけど正式名称は分からない。でも嫁いらず観音院みたいに山の奥にあるわけじゃないから地域の子供たちの遊び場になっている。神社のくせに滑り台だのシーソーだのブランコだのと遊具まであるのである。


俺も昔は遊んでいた、参道が凸凹してないし神社だから車が入れないからって一輪車の練習場に使ったりしていた。もっとも先日地域学習で神社の参道の役割を調べた俺には二度と出来ない行為である。


神社の入口には誰だかよく分からない人の像がたってる、本当に誰だか分かんないし分かろうとも思わない。そこにあるのが普通であって当然なのだ。


最近は古い家が取り壊されたり新しい家が建ったりしている。俺の通っている中学校の校舎も何十年も経っていてとうとう耐震とかの関係から取り壊して全く新しい校舎を立て直す事となった。


周りも少し見えるようになってきた中学生だからか、故郷が自分の知っている世界がどんどん違うものに変わっていって嫌だなと思った。


でもそれは違う。


この街は何百年も変わり続けてきた、それはこれからも。


俺の故郷はこの街そのもの。


この街はまだまだ成長段階、違うものに変わっていってるのではない、進化しているのだ。


変わらないものなんてない、でもそれは衰退じゃない。


繁栄へ向かっているんだと思う。そう信じている。


しかしそれを決めるのはこの街の未来を担う存在、つまり俺たち。


この街を受け継ぎたい。


俺らがこの故郷という世界を守らなければならない。


この街を今のように安心できる街のままに。


どこよりも愛せる街へ。


そう思うことができる世界を望むのならば。

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