御殿にお呼ばれ
祖母の弟さんがたまに来る。
昼ごはんを食べて、祖母とまったりと過ごされてから帰られるのが恒例であったが、その日は少し違い、私に話しかけられ、終活を始めているので、一度家に来てDVDを整理して欲しいとのこと。
なになに、DVDを貸し出してくれるとのことで、私と母は大喜びでその話に飛びついた。
さて、それから数日立ったが、いつ来るかがわからない。
気を抜いて過ごしていた頃、ひょっと来られた。
裏口の戸が開いて、ぬっと自然に来られたので、ありゃま、とびっくりした次第。
さあ行こうとなったわけで、それから女の身支度、母と弟は遅かった。
とここに、いとこ登場。
あちゃー、間が悪い。
お互いあちゃーと思っただろう。弟さんは「ほな」と言いささっと出ていき、いとこもきまりが悪そうだ。
私はなんとか、私は裏で糸引いて画策とかしたわけではないんだよ、と伝えたくて「なんとかちゃーん」と赤ちゃんをあやしたが、つれない。
ああ、知らないうちに、またしがらみが一つ増えてしまったのか。
私は胃が痛かった。本当に。
とりあえず、外に出て「ちょっと遅くなります」と伝えると、「ほな、時間つぶしてくるわ」と弟さんささーっと車に乗り行ってしまう。
私は「あーあ、早く来ればいいのに」と支度の遅い母に舌打ちした。
それから弟と母が来て、「あれ、弟さんは?」と言うので「支度が遅いんだよ」と文句を言ってから、弟がまた妙な格好をしているのに目をつけ、「大丈夫かい、ありゃあ」と聞いたが、「大丈夫大丈夫」と母、またどんぶり勘定で人に迷惑を掛けることを考えていない。
あーあ、こういうところがなければなあ。
私は不思議な踊りを披露する弟を見て、はーあと溜息ついた。
それから弟さん戻ってきて、いざ出発。
母と運転交代して、室富士を眺めながら、山の麓のそこへ向かった。
弟さん、話に聞くと親戚のおじさんと並んで相当鳴らした口で、グラサン掛けて車乗って海でちゃんばらしたり、奥さんがめちゃくちゃ美人なのだけど、その人の水着着ちゃったりふざけにふざけた人というか、器がめちゃでかい人である。
私は任侠物が好きだというその人が、今日は私に説教するために形を取ってこう呼びつけたのかとまた深読みしてしまい、シクシク胃が痛む道中であった。
ヤクザの焼入れ。印象はそれ。
しかし着いてみると、懐かしいあの誤殿である。
おじさん特製の、神社なのだか城なのだか、とにかく色んな所に階段があって畑があって石畳で手水があって写真やぼんぼり飾ってあって、まるでハウルの動く城である。
圧巻されながら、また珍しい、おおーと首を上げていると、鶴に似たその人の清い声がした。
「あらどうしたの」
奥さんである。
この人の声はすごく綺麗だ。見た目も年取るのをやめちゃったという感じですごく綺麗。さすが弟さんの妻なだけある。手芸が趣味で極めちゃってたくさんアクセサリーや飾り付けが部屋にしてあった。手製の座布団はなんのその。昔手芸を習った覚えがある。
とりあえず、赤絨毯のその床に上がる時も私は非常に気を使った。
こんなところに、私が居て良いのか。
また胃が痛かった。
弟さんはとりあえずDVDを2階にあげて、借りたいやつあったら持って来なさいと言ってくれ、プリントがお手製であることや、地元の娯楽施設ニコニコで200円で出来るんだということなど聴きながら、家紋が入ってるのがすげえと思った。
父と小さい時来たことなど懐かしく思いながら2階のシアタールームに入り、うん、確かに終活を始められている様子に若干心がきゅっとなった。
明らかに物が減っているのだ。昔はもっともーっとあった。
母が上がってきて、「わあ、見てみー、良いねーここ」と慣れた様子で見て回るので、母はそりゃ姪っ子だから良いが私は馬の骨みたいなもんだから非常に気を使いながら少し見せて頂いた。
ベランダのトイレ、懐かしい。昔此処で楳図かずおの漫画を読んだ。
もう漫画も、色褪せて少し減っている。
その後カーペットをやはりした方がいいだろうか、床がずれて家は困ってる、など奥さんと雑談し、弟はやはり少し叱られたらしい、家の前でうろうろしていた。
うーん、勘違いだろうか。優しい人だと聞いているので、勘違いかも。
弟さんはふざけが好き。それはわかっている。しかしそうへらへらしてられないのが私の現実なのだ。
いとこの手前約束もしてなく出会ったから、なんだか抜け駆けみたいな気がして胃が痛いのはほんとのことだし、少し目を掛けて頂いたからって、ここで調子に乗るような真似だけは死んでもしたくない。
しかし、良かった。結果的に、終活を始められたと聞いたから、そうなる前に出会えたことはきっと良かった。
私は寅さん談議など車の中でしながら、今日借りたひめゆりの塔や倍賞千恵子のDVDなど観るのを楽しみにしながらも、色々大人になったということかなあ、と考えた。
右翼の車が放置してあり、ああいう人達も根は面白いんだろうな、関わる事無いけど、とそのふざけた外装を見て思った。
弟がまたオーバーに取って無ければいいが。
こいつだ、目下問題はこいつ。
辛いことがあったなら言えばいいし、タバコに逃げずに打ち明けてくれればいいのに、だんまりだ。
そんなん美学じゃないよと私は叫びたい。弱いなら弱いなりに頼れ、助けられないじゃないか。
その後家に帰り、私はなんだかいとこの昼間の横顔など思い出し、年下の女の子の気負ったものなど考えては、私の身軽さを思い、そして弟がまたタバコに逃げ出した現状を見て、シクシク痛む胃を抑えながらなんだか悲しくなってきた。
寂しいのだ、無性に寂しい。
私は犬を風呂に入れ、丁寧に拭いてドライヤーを掛けたことを思い出して、今日は犬と寝ようと思った。
それで下に降りてこたつで横になる内、だんだん冷静になってきて、「別に悪かないんだよ、ただ、自分勝手なんだよなあ」と自分に感想を持った。
自分の悪い点がわかるとスッとする。その後は上手く寝付けた。
昼間農家さんが来て、悪戯に「老後はどうなるかわからないよー」なんて笑いながら言うものだから、私は立てなくて良い腹を今日は久々、調子が悪かったもんだから立ててしまったことなど思い出し、これでは、いかん、と思った。
真の長者は農家さんだろう。
私達はどこまでもイレギュラーで、成り上がるしか道は無い。
しかし、弟さんはもっと面白い話のほうが好きなはずだ。
私は思いやりという名を借りた病を打ち払った。
薬を飲むしか道は無いが、とりあえず良かっただろう。
それから、昨日の夜、親子三人で父が拾ってきたメジャーで背を測り、私は170.5㌢、父は174㌢、母は162㌢あり、足の長さも父子揃ってなかなかあったのになんだか離れてみて自分でぎょっとした。
こんなにでかかったのねー。
そりゃ世間もびっくりするはずですわな、と思いながら、しかし自然に、普通に生きていきたい、と考えた。
宇宙兄弟を立ち読みした。
日々人のロシア人への言葉に何か感じ入るものがあり、しかし漫画を読む立場としては全部が全部見えているなと、違う視点から感じるものもあった。
昨日祖母がお茶請けを母と自分の分しか出さず意地悪をしてきたが、母が「いらなーい」と言って回避した。
私はもともと菓子を食うという趣味が無い。
若干腐ってしまった祖母に、「肩押したげる」とマッサージと薬塗りをし、とりあえず世間からの意地悪から離脱した。
今日の友が明日の敵になって、それから本当の友になる。
これを証明しなけりゃいけない。
とりあえず言えること、いとこ、また来なさいな。
こちらはいつでも迎える所存にて、お茶請けなど用意しながら。
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