第35話 旅立ちの日2


 同じ頃・・・。


 タカタカと走っているフツウサ。


 今日の目的地は古くて小さな趣のある建物、駄菓子屋‟だがしうまし”の外に置いてある、ワンダーガチャである。


 フツウサは鼻息荒く、ワンダーガチャの前に立つ。頭には必勝と手書きで書いたハチマキをしている。


 手に持っているのは銀の涙コイン一枚と、金の涙コイン二枚。


フツウサ「絶対、良いのを当ててやる。」


 フツウサはまず銀の涙コインを入れてガチャガチャを回す。


 ガチャ、ガチャ、ガチャ、


 ポンッ


 出てきたカプセルを開けると、モヤモヤッという煙とともに、モサッとした眉毛とでっかいお鼻がついた、パーティー用のジョークメガネがでてきた。


フツウサ「なにこれ?かわいくない。」


 フツウサが、ポイッとメガネを放り投げると信じられないスピードで何者かがそのメガネをキャッチする。


フツウサ「次が本番・・・。」


 フツウサは一枚目の金の涙コインをガチャガチャにセットする。


フツウサ「ゴクリ・・・。」


 ガチャ、ガチャ、ガチャ、


 ポンッ


 フツウサが、出てきたカプセルを開けてみると・・・。


 ジャーン!


 なんだか安っぽい不思議な効果音と共に、一冊の分厚い本が出てきた。


フツウサ「なんだこれ・・・。えっとパーフェクトロケットづくりマニュアル・・・。」


 フツウサが手にしたのはパーフェクトロケットづくりマニュアル。宇宙に飛び出すロケットのつくり方が、丁寧にわかりやすく書いてあり、努力すればウサギにでも必ずロケットがつくれるようになるという不思議な本。


フツウサ「クーたん、フツウサはね、自分の力できっと宇宙に会いに行くよ。きっとそれはフツウサの宿命でもあると思うんだ。」


 フツウサは持って来たちょっと大きめのカバンに、パーフェクトロケットづくりマニュアルをしまう。


フツウサ「さて、次が最後だ。」


 フツウサは二枚目の金の涙コインをガチャガチャにセットする。


 ガチャ、ガチャ、ガチャ、


 ポンッ


 フツウサが出てきたカプセルを開けてみると・・・、


 パンパカパーン!大当たり!


 どこからか豪華な効果音が聞こえ、カプセルからは花吹雪と共に一本の筆がでてきた。


フツウサ「な、なんだこれ!?」


筆「私は魔法の筆だわよ。これからあなたの一部となって、素敵な素敵な絵をたくさんたくさん描くだわよ。」


フツウサ「うわ、しゃべった。」


筆「テンション低いだわね。あなたはユニークアイテムを引き当てただわよ。もっと喜ぶだわよ。」


フツウサ「ユニークアイテム?」


筆「そう。ユニークアイテムはその人の宿命に深く関係したアイテムだわよ。きっと私は、あなたがあなたの宿命を全うするのを助けるだわよ。」


フツウサ「フツウサの宿命はロケットつくってクーたんに会いに行くことだもん。あなたは関係ないもん。」


筆「宿命は自分で決めるもんじゃないだわよ。」


フツウサ「あなたが決めるものでもないでしょ。」


筆「・・・まぁ、いいわ。とにかくこれからはずっと一緒だわよ。一緒にたくさん絵を描くだわよ。」


 魔法の筆はヒュンとフツウサのカバンの中に入り込む。


フツウサ「あ・・・。」


 入り込んだカバンから、ちょっとだけ顔を出す魔法の筆。


筆「私、名前がほしいだわよ。」


フツウサ「名前・・・。」





「ウサギさん・・・。君は誰ですか?」



「わ、私は、ウ、ウ、ウサギです。」



「お互いに名前を付けようよ。あなたの名前はクーたんね!」



「ウサギ、普通、フツウ、ウサギ・・・それじゃ、フツウサっていうのはどうだろう?」





 フツウサにちょっとだけ昔の記憶が蘇り、一筋の滴が頬をつたう。





フツウサ「えんちゃん。」


筆「えんちゃん?どういう意味だわよ?」


フツウサ「えんかんた。クーたんにいつか教えてもらった言葉。意味は忘れちゃったけど、好きな響きの言葉なんだ。だから、えんかんたのえんちゃん。」


えん「えんかんた・・・?ああ、エンカウンター、遭遇という意味の言葉だわね。うん。良い言葉、良い名だわね。気に入っただわよ。あなたも早いとこあなたの宿命と遭遇できるといいだわね。」


フツウサ「だから、フツウサの宿命はクーたんに会いに宇宙に行くことだってば。」


えん「ふぅっ・・・。もう、別に今はそれでもいいだわよ。」




フツウサ「よいしょ。」


 いつもよりちょっと大きめのカバンを背負うフツウサ。


 ふと空を見上げると、まだ昼なのに、キラッと一筋の星が流れるのが確かに見えた。


フツウサ「クーたん・・・元気にやってる・・・よね。」

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