最終章 星兎

第23話 とても長い一日1



「さようなら・・・クーたん、さようなら。」




星のクーたん最終章 『星兎』



 古くて小さいが、趣のある駄菓子屋、‟だがしうまし”の店の中。


店主「はい、ココア二箱ね。笑顔コイン二枚になります。そこの箱にコイン入れておいてね。」


フツウサ「・・・。」


店主「・・・?どうかしたかい、フツウサ。」


 相変わらず、姿を見せずに客とやりとりする駄菓子屋の店主。


フツウサ「・・・。」


店主「元気がない・・・ね?」


フツウサ「・・・クーたんが。」


店主「うん。」


フツウサ「なにか思い詰めているような感じなんだ・・・。」


店主「そう・・・。クーたんがね。」


フツウサ「フツウサは・・・どうしていいかわかんない。」


店主「フツウサは、どうしていいか・・・わかんないんだね。」


フツウサ「・・・。」


店主「聞いてみたらいいんじゃないかな。何かあったかい?って。」


フツウサ「なんか・・・。」


店主「なんか・・・?」


フツウサ「ちょっと聞くのがこわいんだ。今までは何でも話してくれていたから。」


店主「そう。ちょっと聞くのがこわいんだね。」


フツウサ「うん・・・。」


店主「・・・うん。」


フツウサ「ありがとう。駄菓子屋さん。明日、勇気を出して、クーたんに聞いてみるよ。」


店主「・・・うん。勇気、出せるといいね。」


 やっとニコッとしたフツウサは、ココアの箱を二つ抱えて元気に走り去っていった。


店主「・・・いよいよなんだね、クーたん。」


 店の奥で店主は深いため息をついた。




 お昼、おにぎり山。


 天気は良いが、もう風はとても冷たく、フツウサがどんなに走っても汗をかけないような陽気になっていた。


 山の頂上で座っておにぎりを食べている二羽。


クーたん「ふーっ。」


 ため息をつくクーたん。


フツウサ「ふーっ。」


 つられてフツウサもため息をついた。


フツウサ「クーたん・・・。何かあったの?」


 勇気を出して、フツウサはクーたんに聞いてみた。


クーたん「うん・・・。」


フツウサ「フツウサに・・・言いづらいことなのかな?」


クーたん「うん・・・実はまだ、誰にも言っていないことなんだ。」


フツウサ「誰にも・・・。」


クーたん「うん。」


フツウサ「・・・。」


クーたん「・・・はふぅ。」


 また大きなため息をつくクーたん。


フツウサ「・・・はふぅ。」


 またつられてため息をつくフツウサ。


クーたん「実はね・・・。」


フツウサ「ゴクリ。」


クーたん「お別れしなくちゃならないんだ。」


フツウサ「!?」


 びっくりして、立ち上がり、座ったまま下を向いているクーたんを見下ろすフツウサ。


クーたん「ごめんね、フツウサ。実は、自分はね・・・。」


 フツウサの両耳がパタッと倒れて、クーたんの声が聞こえないように塞がる。


フツウサ「なんで!なんで!知らない!わかんない!クーたんなんて、クーたんなんて、大っ嫌いっ!」


 フツウサはまだ食べかけのおにぎりをその場においたままで、泣き叫びながら、その場を走り去ってしまった。


クーたん「ああ、フツウサ、待って、待って、フツウサー!」


 クーたんは、フツウサを追いかけようとするが、慌ててしまい、うまく立ち上がれず転んでしまった。


 そしてあっという間に見えなくなるフツウサ。


 追いかけることすらできなかったクーたんは、フツウサが置いていった食べかけのおにぎりを静かに片づけ、一度自分の家へと帰るのだった。

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