悪の組織、立ち上げました

大沢 雅紀

第1話

アンゴルモアの大王を復活させるために

その前後の期間

マルスは幸福の名のもとに

支配に乗り出すだろう


7番目の月、英語のセプテンバーが示す9月の終わり、西日本一帯に明るい光が見られた。

その光は日本上空で砕け、隕石となって地上に降り捧ぐ。

その話題は日々氾濫する情報の中に埋没され、あっという間に人々に忘れられていった。


そして月日は流れ-世紀末に生まれた子供たちが肉体的に人生の絶頂を迎える高校生になった2010年代後半、一人の少年がネットゲームをしていた。

「うわっ。なんだよこのボス。強すぎないか?」

パソコンのの前で必死にキーボードを叩いているのは、中肉中背のどこという特徴はない少年である。

「仕方ない。なら、『強化の実』を使って……」

少年が操作したとたん、画面の中のキャラクターの動きが一時停止する。

次の瞬間、ラスボスの「恐怖の大王」の放つブレスを放たれたキャラクターは、あっさりと先頭不能になった。

「くそーーー。、道具を使う際に、隙ができるなんて反則だ」

ひとしきり悔しがったあと、少年はゲームの批判をし始めた。

「……まだまだだな。グラフィックも綺麗だし、ボスの迫力もあるけど。なんというか、ありきたりだよな。

1999年生まれの子供たちの中に、アンゴルモアといった進化した存在が生まれて、恐怖の大王と戦うために異世界に召喚されるって、意味がよくわからない」

そんなことをぶつぶつ言っていると、次第にゲームに飽きてきた。

「しょうがないな……テレビでもみるか」

パソコンを切って、テレビをつける。

ちなみに、ここまでの操作をすべて布団の中で行っており、中から出ようとしなかった。

少年の名は風間太郎-現在、絶賛不登校中のニートである。

適当にテレビをつけると、「学校紹介 日本一の学校はここだ」という特集をやっていた。

どうやら、彼の学校が特集されるらしい。

「はーい。それでは、日本一入学が難しいといわれる私立襟糸高校にやってきました。紫色ダイヤエースの岩川さくらでーす。実は、私もこの学校の生徒なんですよ。今日は、私の友達をご紹介したいと思います」

長い髪をした美少女アイドルが、満面の笑顔を向けてくる。太郎は一瞬だけみとれたが、すぐ悲しそうに下を向いた。

「サクラのやつ、相変わらず可愛いなぁ。昔はよく遊んだのに、どこで間違えたんだろう」

太郎はぶつぶつとこぼす。彼の家は彼女の実家の近くにあり、幼小中高と同じクラスだった。昔から太郎は彼女にあこがれていたのだが、今では遠い世界にいってしまったのである。

テレビの中のサクラは、自分の友達を紹介しはじめた。

「えっと、クラスメイトの緋星賢治くんです。彼はとっても頭が良くて、女の子のもモテモテなんですよ」

「ちょっとサクラ。テレビでそんなことを言わなくても……」

メガネをかけた賢そうな少年、ケンジがはにかむ。小柄でかわいらしい容姿をしているので、テレビの前のお姉さまたちは釘付けになった。

「かわいい!」

中継を受けているスタジオからも歓声があがる。

次に、サクラは隣の大柄な少年を紹介した。

「彼は、青柳狼くんです。ボクシング高校フェザー級チャンピオンなんですよ」

「……当然の結果だ。騒ぐんじゃねえ」

ロウはニヒルな口調で言い放つ。

「かっこいい!」

さっきとは別タイプの美少年だったので、スタジオから歓声がわきたつ。狼はそれを聞いて、関心なさそうにそっぽを向いた。

「えっと、次はですね。現在、有望な高校野球の選手である黄島礼くんです」

「どーーーもーー。礼です。一礼してジャンピング土下座で失礼しまーす」

いきなり明るそうな少年が、パンツ姿で土下座する。後ろから半分尻が見えていた」

「礼くん。その、お尻が……」

サクラが真っ赤になって指摘すると。レイはサクラの方をむいて土下座する。

「失礼しましたーー!」

テレビのほうに半ケツが向いたので、視聴者は大笑いだった。

サクラは気をとり直して、別の友達を紹介する。

「えっと。次に紹介するのは、私の親友で白鷺財閥のお嬢様である。白鷺ナンシーさんです」

サクラが紹介すると、画面に金髪ツインテールの美少女が現れた。

「ミナサマ、よろしくオネガイします」

ナンシーと呼ばれた少女は、テレビの前でぺこりとお辞儀した。

「ナンシーさんはアメリカ人と日本人のハーフで、お父様は世界的IT企業のオーナー、お母様は白鷺財閥のオーナであるお嬢様なんですよ。日本文化を学びたいとのことで、留学生として来日されました。私たちともすぐに仲良くなったんですよ」

サクラはうれしそうに紹介した。

「サクラたち、みんな良い人です。ワタシ、日本ダイスキです」

そういって微笑む金髪美少女に、日本中の人が癒される。

「すごい。さすが日本屈指のエリート高だ。あこかれる」

人々は彼らを愛し、崇拝するのだった。


彼らが楽しそうに学校を案内するのを、太郎はテレビを通してうらやましそうに見ていた。

「本来なら、俺もあの中にいたかもしれないのに……」

思わずそう愚痴がこぼれる。

実は、彼らはみんな太郎の幼いころからの幼馴染だった。小さいころは何の屈託もなく、みんなで一緒に遊んでいたものである。

しかし、中学生を過ぎるころから、明確な才能の差が現れてきたのである。

太郎がどれだけ勉強しても、ケンジにはかなわなくて、次第に見下されるようになる。

太郎がどれだけ体を鍛えても、ロウのワンパンチで沈んだ。

同じように勉強もできなかったレイは、スポーツ、特に野球に才能を持ち、運動音痴の太郎を弄ることで周囲の人間を楽しませ、味方につけるようになった。

初恋の相手であるサクラは、彼ら幼馴染と一緒にいるときは太郎と会話することもあったが、二人きりになると目も合わしてくれなくなった。

彼らの中でただ一人の外国人であるナンシーが幼馴染と仲良くなったきっかけを作ったのは、同じゲームという趣味を持っていた太郎が紹介したからである。

しかし、中学生のころ彼女がアメリカに行ってしまうと、自然に縁は薄れた。高校で再開したのだが、金髪碧眼で天使のような容姿を持つナンシーが、平凡な太郎に親しげにするたびに周囲から疎まれ、太郎へのいじめのきっかけになってしまった。

結局、太郎は幼馴染たちに相手にされなくなり、不登校になったのである。

テレビ番組が終了した後、おなかがすいた太郎はよっこらしょと布団から起き上がる。

その時、太郎のスマホが鳴った。

「太郎。今月の仕送りを振り込みました」

母親から無機質なメールが来た。これが彼が家族と話す唯一の連絡である。

そう、彼は家族から離れてアパート暮らしだった。

そのメールを見ていると、世の中のすべてから見放されたような気がして、ますます現実逃避したくなる。

みじめな気持ちでインスタントラーメンをすすり、テレビをつけると緊急ニュースをやっていた。

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