第30話 正義は勝つ

二つのグループに割って入ったのは、東京69のセンター、笹宮星美である。

「お前……何しているんだ?」

正志は自らをかばうように立ちはだかった彼女を見て、意味がわからないといった顔した。

「なによアンタ!どきなさい」

「えっと……星美ちゃんだったっけ?危ないよ」

「そいつは邪悪な悪魔なの。離れなさい」

弓がわめき、美香と里美が説得する。

しかし、星見は顰め面したまま、間に割り込んで仁王立ちしていた。

「……あなた方、今は番組中よ。こいつと戦いたいなら終わった後で、外に出てからして。吾平正志、さっき話しかけていたわね。地球がどうなるの?」

恐れずに正志に向かって言う。

「なによ!どきなさいよ。ただの人間の癖に生意気よ!」

「どかないと、巻き込まれるよー」

「そいつを倒して世界を救うためになら、少々の犠牲は仕方ないのよ。どかないと、あなたごと倒すわ」

三人が脅すしてくるが、星美はまったくひるまなかった。

「私は中立よ。この番組は吾平正志に質問するためのものなの。貴方たちはいきなり乱入してきた闖入者たちよ。言いたいことがあるなら、彼への質問が終わった後に聞くわ。順番は守りなさい!」

きっぱりと言い放つ。弓たちはその気迫に押されて、怯んでしまった。


星美の気迫に押されたのは弓たちだけではない。正志も同様だった。

「……さすがに『勝ち組』の頂点に立つトップアイドルだな。本当に気が強いな。気に入ったよ。『エデン』の住人の資格ありだな。俺の女になってくれ」

正志が感心したようにいう。

「そういう下品な冗談は嫌いなの。また殴ってあげましょうか? 」

星美はキッと睨みつけると、正志は両手を挙げて降参し、これから来るという大破滅の内容を話し始めた。

「わかったよ。えっと、さっきも言ったとおり、地球意識体ガイアが人類をバージョンアップさせるんだ。そのさい、旧型の現人類は自滅させられる。他の生物に迷惑をかけない形でな」

「嘘よ!女神イザナミ様はアンタが世界征服のために引き起こすって言ったわ!」

弓が叫ぶ。

「アホか。何が世界征服だよ。大破滅を目前にして征服もへったくれもあるか。大方お前たちの上にいる奴は、大破滅が避けられないと知って、俺たち『魔人族』に責任を擦り付けるつもりだろうさ」

正志が反論する。弓たち三人と正志は、真っ向からにらみ合った。

「……それで、なんで地球が人類を滅ぼすの」

「決まっているだろ。今の地球には80億人もの人類を養う力はない。放置していたら、今まで保ってきた生態系のバランスが崩れるからさ」

「バランス?」

「それは……危ない!」

とっさに正志は星美を押し倒す。二人の上を光が走り抜けていった。

「ほら、その女をかばった。やっぱりね」

光を放って攻撃した弓が勝ち誇った顔をする。光が当たった壁は、抉り取られたように消滅していた。

「おいおい……マジかよ」

「……」

それを見て恐怖する正志と星美。

「えっと……弓ちゃん?」

「どうしてあの子まで攻撃したの?」

若干引いている美香と里美だったが、弓は小揺るぎもしなかった。

「みんな。だまされちゃだめよ。その女は既に正志に魂を売ったお仲間ってことよ。世界征服を狙う悪の結社の女幹部ってやつ?そうじゃないと、アンタみたいなナメクジを相手にする女なんていないもんね。あはは!」

憎悪を顔に浮かべて、高笑いする弓。

それを聞いて、星美はあわてて弁解した。

「ご、誤解よ。私はこんな奴の仲間なんかじゃ……」

「馬鹿!いいから逃げるぞ」

正志はいきなり星美を抱えあげて走りだす。

「皆、アイツを追いかけて!みんなも手伝って」

弓の命令を聞いて、彼女に助けられたキャスターたちも動き出す。

局内のすべての人間が二人を追いかけまわすのだった。


星美を背負って逃げ回る正志。

「ちょっと!おろしてよ。これじゃ、本当に私があなたの仲間みたいじゃない!」

背中で暴れる星美。

「そんな事言ってる場合か!みつかったら……」

「いたわ!」

「裏切り者の星美も一緒よ!」

弓の煽動に乗った東京69のメンバーに見つかってしまう。

「弓様に知らせるわよ!」

メンバーたちは走っていってしまった。

「う、裏切り者?なんで?どういうことなの?」

いつの間にかそう決め付けられて、星美の目に涙が浮かぶ。

「弓が化け物になった奴らを治療するのをみたんだ。そりゃあっちが真の正義の味方に見えるさ。そいつに俺のお仲間だって決め付けられたら、皆コロッと信じるさ」

「そ、そんな……こんなことで……」

息を呑む星美。

「ふふ。さっきまでは勝ち組だったのに、こんなことで転落するとはな。人生どうなるかわからないもんだな」

まるで人事のようにいう正志に、星美は切れる。

「何とかしてよ!責任とりなさいよ」

「知らんよ。世の中にはよくあることさ。お前も嫌われて、いじめられる立場に堕ちたということさ。少しは俺たちの気持ちがわかるようになるだろうぜ」

「……くっ」

そういわれて、星美は沈黙する。

「まあ、そんなことを今言っても仕方ない。こうなりゃ一蓮托生だ。逃げるぞ!」

正志と星美は階段に向かうのだった。。

「こりゃ、下はダメだな」

下のほうにはたくさんの人間の気配がする。

「あなた、新人類なんでしょ?なにか相手を蹴散らす魔法とか……」

「使いたいんだが、ソウルウイルスを無効化されている」

正志は残念そうに言う。弓たちの放つ聖なる光に当たったソウルウイルスは、あえなく分解していた。

「本当に使えないわね……それでも世界征服を目指す悪の首領?」

「別に世界征服なんて考えてねーぞ。弓たちが勝手に言ってるだけだ!」

「どうだか」

こんな場合なのに口論する二人だった。

「だ、だからだな、俺はただ人を救いたいだけで……」

思わず大声をだす正志。

「シッ!黙って!」

星美があわてて正志を黙らす。

「いたぞ!」

「この上だ!」

「捕まえて殺してやれ!」

階段の下から声が聞こえて、昇ってくる足音がする。

「くっ。こうなりゃ上にあがるしかない」

顔を見合わせると、駆け足で階段を上っていった。


テレビ局の屋上

追い詰められる正志と星美。

「俺たちをこんな目にあわせたテロリストを殺せ!」

芸能人や有名キャスターたちが騒いでいる。

「星美もアイツの仲間だわ!一緒に屋上から突き落としてやろう!」

昨日まで仲間だった東京69のメンバーも星美に向かって殺意を向けていた。

その時、三人の美しい少女が屋上に現れる。

「弓様!美香様! 里子様!」

「綺麗!救世主様」

三人の姿を見たとたんに沸き立つ群集。

群集が二つに分かれて、彼女たち前に道ができる。その道を弓たちがゆっくりと歩いてきた。

「ふふ。いいザマね所詮アンタは誰にも好かれないナメクジだったのよ」

「ナメクジくん。終わりだね」

「ほんと、散々人に迷惑かけて。さっさと死んでいればよかったのに」

憎々しげに笑いかける三人。

正志が追い詰められる様子はテレビにも放映されており、全国の人たちが拍手喝采して三人をたたえていた。

「……ああ、どうやら俺の負けだな。最後に頼みがある」

「頼み?まあいいわよ。最後の言葉ぐらい聞いてあげるわ」

勝者の余裕をもって弓は言う。

「こいつは関係ない。巻き込んだだけだ。助けてやってくれ」

それを聞いて星美は驚く。

「あなた、人の命はどうでもいいんじゃなかったの?」

「ああ、どうでもいいさ。だけどな……まあいい。弓、美香、里子、頼む」

星美を脇に押しやり、正志はその場に土下座した。

「はっ。今更いい人ぶるの?さんざん悪ぶってたくせに」

「ふーん。その子が好きになっちゃったんだ。ナメクジのくせに」

「でも残念ね」

三人は聖母のにやさしい微笑を浮かべる。

「悪に染まった奴は許さない!そいつから殺してやるわ!」

狂気の表情で笑う三人、ステッキから星美に向けて光が発せられた。

「キャァァァァァァ」

そのまぶしい輝きに、思わず目をつぶる星美。

しかし、数秒たっても何事もなかった。

「あれ……え?」

思わず目を開けた星美が最後にみたものは、自分をかばって光を受けた正志の姿だった。

「正志……?」

初めて名前をよぶ星美。

「……お前、なかなかいい女だったぜ。それじゃあな。また会おうぜ」

正志は微笑を一つ浮かべて、静かに消えていった。

「正志--------------!」

絶叫する星美。

「あーーーーっはっはっは。これで悪は滅んだわ。正義は必ず勝つのよ!」

気持ちよさそうに笑う弓。

「さすが弓様です!」

「ざまあみろ、悪魔め!」

狂喜する芸能人たち。全国の善男善女も悪が滅びたことを知って、笑みを浮かべる。

その中でたった一人、笹宮星美は涙を流していた。


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