第14話 ヤンキー

「何をするつもりなの……?」

「これから全員参加のデスゲームを開催する。覚悟しておけ。お前たちもだ。お前たちの本性が剥き出しにされ、これから救われる価値があるかどうかを容赦なく判断される。ゲームの名前は『最後の審判ゲーム』だ」

「『最後の審判ゲーム』ですか……?何で審判されるんですか?」

学級委員長の理沙が恐る恐る聞いてくる。

『お前たちが今までどういう行動をしてきたのか、そのすべてでだ。今までみたいに、容姿で左右されない。権威も通じない。暴力でごまかされない。仲間に頼れない。すべて自分自身の力だけで、無罪を勝ち取るしかないんだ」

正志の思念はそういうと、静かに消えていった。


「もうこんなとこにいられないよ! 私は出て行く! 」

啓馬に乱暴されそうになった美香が泣きながら教室を飛び出す。

「まって!」

里子が彼女を追いかける。

「……私達も行きましょう。こんな獣たちがいるとこなんかにいられないですわ」

京子が言うと、女子全員が頷く。

「パソコン室に行こう。今なら誰もいないはず」

「……そうね」

女子たちは1-Aを出ていく。男子たちは先ほどの痛みの影響で、止めることができなかった。

「はっ。せいぜいアイツに尻尾振ってろよ」

歯をむき出して威嚇する光利。1-Aは男女のグループに分裂した。

「でもよ、これからどうする?」

半分になった生徒がこれからの事を相談し合った。。

「木村さんに頼むか?」

啓馬が3年の暴走族をしている先輩の名前を出すと、何人かの生徒が頷いた。

「……でも、木村さんでも無理なんじゃないか?」

「大丈夫だよ。無敵のヤンキーだって他校でも有名な先輩だぜ」

「でも、どうやって……?」

「俺、木村さんの携帯知ってるから、連絡付くよ。どうせアイツを倒せば、俺らの呪いも消えるだろ?そうなったらクラスの女を差し出せばいいさ」

「そうだな。もうアイツは俺たちの敵だし。遠慮することはないよな」

他の男子生徒たちも頷く。

啓馬は木村という生徒に連絡をとり、正志に対抗してもらうよう依頼した。


校長室。

部屋のドアがノックされる。

扉を開くと、いかにもヤンキーといった崩れた感じの5人がいた。

「お前か?吾平ってやつは」

凶暴そうなヤンキーがナイフをちらつかせて威嚇する。

「そうだが?……これはまた、人間の中でも質が悪そうな奴が来たな。さすがにどう改造しても無駄な気がするぞ」

やんキーたちの顔を見るなり、正志は馬鹿にしたように笑った。

「うるせぇ!出てこいや!」

殺気立つヤンキーたちだったが、正志は平然としている。

「てめえ、いい加減にしろよ。俺たちを解放しろ」

一際体格がいい男がすごむ。

「言う事を聞いたほうがいいぜ。お前が変な呪いをかけるより、木村さんの拳がはええ」

「てめえみたいなクズとは格が違うんだよ」

はやし立てるヤンキー。

「……でも、お前らは既に俺の奴隷なんだがな。校舎から出られない時点で理解してなかったのか?互いに殴り合え」

正志は軽い口調で命令すると、いきなり木村の拳が周りのヤンキーの顔面にめり込んだ。

「ぐはっ」

正志にすごんだ男が、鼻血を出して倒れる。

「き、木村さん。なにを……」

「わからねぇ!いきなり体の自由が利かなくなって……うわぁぁぁ」

木村を含めた不良たちがお互いを殴り合いう。

「ははは……いいぞ。そのまま死ぬまで殴り合ってろゴミども」

それを見つめながら高笑いする正志。

しばらくすると、校長室の前に5人の死体が並んだ。

『さて……いい加減に俺に抵抗しても無駄だと、わかってもらえたかな?』

正志は目の前の五人の死体の映像を思念波で流す。学園で恐れられていた不良たちも正志の前では無力だと知り、改めて絶望の声が上がった。

『あともう少しでゲームの準備が終わる。お前ら邪魔だから、おとなしく待っていろ』

正志はそういい捨てると、校長室に戻っていった。


パソコン室

男子生徒たちから逃げた女子は、ここに集まっていた。

互いに抱き合って、すすり泣いている。

「私たち……間違って事をしていたのかな?」

女生徒たちがいまさらのように正志を苛めていたことを後悔して、ぽつりと漏らす。

「一人をよってたかって苛めて笑いものにするなんて……。吾平くんが怒っても当然だよ。私、ひどいことをしていた。」

美香が暗い顔をしていった。

「……何がナメクジよ。自分達で水をかけておきながら。馬鹿にして笑うんじゃなかった。私は馬鹿みたいじゃない。弓がアイツの悪口を言うからって、自分まで面白がって調子に乗るから、こんなことに……」

里子が顔をくしゃくしゃにして泣きじゃくる。

「いままで親切にしておいて、ちょっと都合が悪くなったら裏切るなんて。男子こそクズですわ。吾平くんの方がまだマシですわ」

京子が男子生徒に怒りを募らせる。

周囲から「吾平くん許して」「私が悪かった……」と漏らす声が聞こえてきた。

「ねえ、私達で謝りにいきましょうよ。ちゃんと謝れば、許してくれると思うよ」

理沙が言うと、周囲から同意する声が上がった。

「……そんな事しても無駄だと思うけどね」

弓が思わず漏らす。

「弓さんは謝りに行かないんですか!」

京子が噛み付く。

「……私は謝ったりしない。あんな奴、最低のクズよ。正人さんを傷つけて……。絶対に謝らない」

強い口調で弓はつぶやいた。

「勝手にしなさいよ。あんたなんかここにいればいいんだわ。というか、あんたが来たらかえって怒るかも」

「そうよ!私達は彼に許してもらって、今度はちゃんと友達になるわ。今度はアンタがクラスからハブにされる番だからね!」

里子の言葉を聞いて、美香が弓に言い放つ。

クラスのほかの女子も同意して、弓を除く全員で校長室に謝罪にいくのだった。


校長室のドアがノックされる。

「入れ」

正志が偉そうに命令すると、京子達クラスの女子が入ってきた。

「なんだお前らか。何の用だ? 」

正志が言うと、女子たちは全員頭を下げた。

「ごめんなさい! 」

「私達が悪かったわ! 」

泣きながら謝罪する。

「なんだよ。今更謝られても許す気は無いんだけどな」

興味なさそうに視線を外す。

「そんな事言わないで。私達、男子たちにも裏切られて、どうしたらいいかわからないの。今まで仲良くしていたのに、いきなり乱暴されそうになって……」

美香が訴える。

「今まで貴方の事を馬鹿にしたり、笑ったりして本当にごめんなさい。お願い!許して! 」

里子が本当に反省しているような顔をする。

「もし許してくれるなら……。今度こそ本当に友達になりたいの。その……大破滅という話も聞きたいし」

理沙が機嫌を取るように笑顔を向ける。

「あの。吾平君がやりたいことがあるなら、私達にも協力させてください。お爺様とかに言えば、きっと力になってくれますよ」

この期に及んでも虎の威を借る京子。他の女子達も次々に謝罪してきた。

全員の泣きながらの訴えをしばらく黙って聞く正志。

「まあ。お前らが後悔しているってのはわかったよ。今まで俺を散々笑いものにしてきた自分達が悪かったと思っていることもな」

正志の言葉に喜びの表情を浮かべる女子一同。

「だが、俺はお前たちを許す気はない」

しかし、次の言葉に再び絶望に陥った。

「な、なんでですか! 私達謝りましたのに!」

京子が逆切れ寸前の声をあげる。

「お前たちの謝罪には誠意がないんだよ。俺に痛めつけられてから後悔して謝罪したって、誠意なんて伝わるわけないだろうが。結局は仕返しから逃れたいっていうだけのことさ」

正志は冷たい口調で、はっきりと謝罪を拒否した。

「私達まで仕返しの対象にするなんて、ひどい」

「そ、そうよ。苛めてたのは男子と、京子たちみたいな女子の一部よ。私達は心の中じゃ貴方に同情してたし、苛めなんかする奴等を軽蔑していたわ」

他の女子が次々と言い募るが、正志は聞く耳をもたない。

「心の中じゃ俺に同情していたか……。なら、なぜホームルームで謝罪しなかった」

正志の反論に言葉がつまる生徒達。

「そ、それは……。苛められている人をかばうと、私達まで苛められるし……」

「それに、いくらなんでも裸になって土下座なんて、恥ずかしいし」

言い訳をする。

「やれやれ。こういう被害者ぶる奴は気に食わないな。苛められている人間からみたら、直接苛めている奴もそれをみてニヤニヤしている奴も大差ないさ。どいつもこいつも殺したくなって当然だ」

「そんな乱暴な……」

頑なな正志の態度に、女子たちは言葉を失う。

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