【設定】対外訪者殲滅兵器規格<巢襲機>

〇対外訪者殲滅兵器規格<巢襲機サーペント

 AMU-99 エルンダーグ、そして後に開発された量産型巢襲機が属する規格。

 巢襲機の名が示す通り、敵の巣窟たる外訪者アウター核への襲撃を前提として開発されている。

 第四次超長距離遠征打撃計画(以下、第四次計画)の要となる有人機であり、本規格が開発されるにあたって要求された性能は以下の4つ。


1. 敵の線孔シャープ攻撃を無効化し得る回避性能。

2. 外訪者アウターに追随、若しくは圧倒できるだけの運動性。

3. 単独でミッションを遂行可能な無補給特性。

4. 外訪者アウター核を粉砕可能な破壊力。


 巢襲機が外宇宙への進出を前提としている以上、用いることが出来る動力源は自ずと限られてくる。高効率、高出力、単独で完結する作動サイクル、以上の特性は対消滅機関の搭載でクリア可能とされたものの、打ち上げが失敗すれば地上に甚大な被害が及ぶリスクは避けられない。

 第二次計画では、対消滅機関搭載の超弩級宇宙戦闘機が外訪者アウターによって撃墜され、ユーラシア大陸で複数の国家を崩壊させる事態にまで発展したことから、開発にあたって特に問題視されたのもこの点だった。

 既存の方法論では外訪者アウターの能力に太刀打ちできる見込みが無かった為、開発は一旦ここで行き詰る事となる。


 ブレイクスルーとなったのは、凱藤博士が持ち込んだアイディアだった。

外訪者アウター研究の専門家である彼は、かねてより外訪者アウターが発揮する種々の特性について工学的・生化学的見地からのアプローチを試みていた。そんな彼からもたらされたのは、外訪者アウター生体組織を機体システムの中枢として組み込むという方策だった。


 当時、外訪者アウターの分析によって実用化されつつあったのは、部分的な重力制御システム。外訪者アウターの脅威的な運動性を担う重力制御は、培養組織を励起させることで再現可能な技術となりつつあった。

 ただし、発生し得る重力を強めようとすればするほど、投入すべき電力は指数関数的に上昇してしまう。つまり、常に莫大な電力を投入する必要が出て来る為、実際には補助的な機体制御として採用されることとなる。しかし補助的とはいえ、このシステムは極めて強力な効果を巢襲機にもたらした。

 つまり、軌道投入要素を無視、ないし攪乱することで、既存の惑星間航法に縛られない変則的な軌道選択が可能となる。これは重力が支配的な宇宙空間において、奇襲・・が行えることと同義と言っても過言では無い。常に多対一を迫られる巢襲機の運用にとって、奇襲性を担保する重力制御システムは大きな柱の一つとなる。


 しかし、それ以上に重要だったのは、「外訪者アウター間の識別には重力波が用いられているらしい」という知見だった。

 外訪者アウターは、フレンドリーファイアを起こさない。

 よって、外訪者アウター外訪者アウターを認知するプロセスが存在することは、出現当初から専門家の間で広く確信されていた。そして、半世紀近くを経て解明されつつあったのは、その認識プロセスの初動段階に他ならなかった。

 外訪者アウターは先ず、外訪者アウター組織から発せられる重力波によって味方の存在を認識する。その上で光学的観測を行うため、敵味方判別の初動プロセスは障害物の有無に関わらず行える。

 凱藤博士はこの認知プロセスを逆手に取り、外訪者アウターの敵味方認識機能を攪乱できると確信していた。つまり、たとえ一瞬でも巢襲機を外訪者アウターと誤認させられれば、認識を攪乱させることが出来る。亜光速に達する線孔シャープ攻撃を回避するために、この攪乱機能は極めて有効に働くのだと。


 巢襲機に外訪者アウター組織を組み込むには、まず敵の生体組織が必要となる。その点、最も研究が進んでいた人形スワンプマンを利用できるのなら、話は速い。

 ただし、人間を模した形態である人形スワンプマンは、一定条件で細胞自死アポトーシスを引き起こしてしまう事から、生きている個体の鹵獲が極めて難しい。細胞自死アポトーシス阻害剤を常に循環させ続けなければ、組織を維持することさえ出来ない。個体サイズが2mにも達さないために、大型であればあるほど強力になる重力制御能力さえ貧弱極まりない。

 それでも、大型の外訪者アウター個体を鹵獲することは実質的に不可能だった為に、巢襲機へ組み込むのは人形スワンプマンとなった。全高100mを超える培養神経系を用意する為に、専用の生化学プラントまで建造された。

 (生命活動を停止した人形スワンプマンの組織体を回収、培養によって規定のサイズに成長させるまでに、丸一年以上の培養期間が必要となる)。


 ただし、所詮は死体から採取した肉片であるため、そのままでは外訪者アウターへの攪乱効果を期待できない。そこで外訪者アウター神経系をパイロットとリンクさせることで、外訪者アウター組織を生きていると誤認させる必要があった。

 外訪者アウター組織との適合性を持つ人間は、そう多くない。数多くの候補者が合法・非合法とを問わず集められたものの、最終的に全候補者が適合に失敗している。多くは外訪者アウター組織に同化吸収された結果、不定形のガン状組織と化して死亡したとされる(完全な外訪者アウター因子適合者を迎えるまで、根本的な解決は図られなかった)。


 人型の外訪者アウター、すなわち人形スワンプマンの神経系を組み込むことで、巢襲機は攪乱効果と重力制御システムを獲得。結果的に、全高150mもの人型のマシンとして完成するに至った。

 対外訪者アウター機動兵器の完成形たる巢襲機は、最終的に数千機単位での量産化がなされた。初号機<エルンダーグ>完成後、数十年に亘って地球圏の防衛戦力として配備されることとなる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る