藍川のいろいろ感想文

藍川あえか

映画「この世界の片隅に」

昨日、こうの史代原作、片渕須直脚本・監督の話題のアニメ映画「この世界の片隅に」を観てきました。


ここに場所をお借りして、感想などを書かせて頂きたいと思います。なお

「 ネ タ バ レ を 含 み ま す 」ので、くれぐれもご注意願います。


先日から公開が始まった本作。SNS上で様々な人が絶賛しているのを見聞きして、大いに期待しながら、しかしもし自分にその良さが理解できなかったらどうしよう、という不安も抱えながら、夫婦2人で小さな映画館に行ってきました。


平日の昼間ということもあってか、お客の入りは半分ほど。これも日時のせいか、どちらかというと年配の人が多かったように思いますが、若い人の姿もありました。

東京の劇場では連日満席ということも聞いていたので、ちょびっとだけがっかり。

普段は目にしない珍しい映画の予告編を観ていると、本編が始まりました。


結論から言うと。



とてもとても、日常の映画でした。



3度の食事。繕い物。水汲み。畑仕事。姪の世話。洗濯。隣保の仕事……。

すずさんが本当に可愛くて応援したくなります。甘えてくる姪っ子ちゃんも、不器用だけどちゃんと嫉妬してくれる夫も、優しい舅や姑さんも、ちょっとキツい時もあるお義姉さんも、友人達も皆、愛おしい。



そして、間違いなく戦争の映画でした。



日常生活が丁寧に描かれる分、そこに無遠慮に侵入してくる砲声の異質感が際立ちます。音の表現が本当に見事でした。


「戦争とは、敵が自分を殺しにくるんだ」


呉での日常に溶け込んでいた自分は、その当たり前のことに恐怖感すら覚えました。


次々と、大切なものが、本当に本当に大切なものが、消えていく。

もうこれ以上、私から何を奪うのかというほどに。


劇中、すずさんは屋根を突き破ってきた焼夷弾に激高します。


自分の家に。

夫の家に。

居場所と決めた所に。

日常に。


土足で図々しく踏み込んでくる戦争への、魂の底からの拒絶。声優ののんさんの鬼気迫る演技と共に忘れられないシーンです。


あくまで連続した日々の通過点として、8月6日を迎え、8月15日も迎えます。

誰かがいつの間にか勝手にはじめた戦争が、誰かがいつの間にか勝手に終わらせてしまった。


あの大きすぎる喪失に、あの死に、何の意味があったというのか。


圧倒的な暴力と不条理への、やり場の無い怒りと慟哭。それでもなお生きねばならないために、飯を炊く。



そう、この作品は、とてもとても、日常の映画でした。



大切なものをいくつ失おうとも、絶望の向こう側に立たされてさえも、なお止めることのできない日々の流れ。それを、日常というのでしょう。


本作では、すずさんの右手が非常に大切な存在になっています。

希望の象徴でもあり、絶望の象徴でもありますが、最後にとても素敵な贈り物をもたらしてくれます。



映画館で二人でボロ泣きした後、自分達は喫茶店に入りました。


シュガースティックに満載されたお砂糖。溢れかえる美味しい食品。色とりどりのクリスマス飾り。


「平和っていいなぁ~」


と、どちらからともなく漏らしました。

別に夫婦喧嘩をしていたわけではないのですが、お互いに多忙の極みであり、体調不良や実家との不和など、家でも様々なことがあって夫婦揃ってかなりしんどい時期でもあったのですが、この映画を観たことでかなり救われた部分があったように思います。


「いくらしんどくても、あの戦争よりはマシだよね」と。


怖いことも書きましたが、本作はあったかい映画です。

観た後に家族のことが愛おしくなり、世界が色鮮やかに豊かに輝いて見える。生きている誰かに優しくしたくなる。そんな素敵な映画でした。



満足感に浸りながらの帰路の最中。

暗闇の中で浮かんだすずさんの右手が、頭の中で優しく問いかけてきます。



”あなたの右手は、何を描く?”



”あなたの右手は、何をつかむ?”



その答えを見つけに、戻りましょう。

この世界の片隅に咲いた、自分のささやかな日常に。

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