#44 BTL_side-Charlotte V
彼が咥え煙草に火を点けてくれと言った。
それだけなら彼のために喜んでその役を全うするだけれど、例のあの娘……亜季子と一緒にというのが気に食わない。
それは少女も同様らしく、その(私程ではないがそれなりに)端正な顔が不機嫌そうに歪んでいて、いかにも渋々といった感じだ。
恋敵の女同士による初めての不快な共同作業が終わり、彼はひと呼吸置いてから私たちに懺悔の言葉を告げた。一言『ごめんな』と。
その言葉と同時に彼の背中から翼が飛び出す。あまりにも哀しげな色を持った、切なげな黒色の翼が。
でも、どうして? 何でこのタイミングで?
考える間も無く、私たちは束縛された。
敵であった『彼』が亜季子を縛っていた呪いと同様のものだろうと思うのだけれど、それとは違い逃れることは難しく、敵意も皆無だった。同様でも同質ではない。
頭が正常に働かない。何も言えないまま、私は雪人に抱きかかえられていた。所謂、お姫様だっこだ。その恥ずかしさに思わず身悶えしてしまう。
そうして、訳も解らぬまま校舎内に連れて行かれたと思ったら、彼の顔が近づいた。
それは甘いキス…などではなく、数時間前に私が彼にした意思を伝えるための手段でしかなかった。
言葉にしなくとも伝わっているのに。彼はその時、わざわざ囁いた。
その顔は未練など微塵もなく、その言葉はただひたすらに冷酷で、慈悲に溢れていた。
待って! それを言葉として発する前に再び口を塞がれた。
唇でならよかったのだけど、黒羽で身体を縛るのと同じように。
それは敵意のない優しいもので、それでいて決して逃れられないような強固な意志による束縛。
彼は陽の差しかけた表の世界に戻って行く。
何で私たちの自由を奪ったの? どうして貴方は太陽の中に出て行くの? 消えるって分かっている? 頭の中を巡るだけの疑問。それを口には出せない。
私に出来るのは無意味に肢体をジタバタすることだけ。現実を拒んで、駄々をこねるだけの子供のように。立って雪人を止めなければならないのに、どうしても駄目だった。
頭の中で彼の言葉を繰り返す。
『約束を守れなくてごめん。これからは亜季子を、僕の一番大事なものを頼む』
なんて哀しく残酷な嘆願。
貴方はそれを明確に理解している。
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