#34 Darkness Falls
戦況を含めた形勢は逆転しつつある。
序盤の劣勢など語る価値も無い枕であった。
「ははっ、どうしたんだ? 根暗のお兄さん。だるまさんがころんだの最中なの? 動きが止まって見えるぜ?」
身体が羽よりも軽い、重力の手とは何だったのか。視界も澄み切って、とても気分が良い。
頭の回転だって極めて快調だ。先程までの僕の脳味噌には、蛆虫でも入ってたんじゃないか?
彼の攻撃がコマ送りのスロウに見える。それに比べて僕の口は何時になく、滑らかに滞りなく動く。
「うるせぇよガキが! 一発位綺麗に入れてみろや! ちょろちょろ逃げまわりやがって、ゴキブリですかァ? あァ?」
明らかに精巧を欠いた彼は必死に言葉を紡いでいるが、僕の耳には全く入らない。心には届かない。
必死にチェーンソーを振り回すが、僕の身には届かない。この身を傷つけることはない。
「クルクル回って下手糞なワルツかよ! いや、独りで練習は出来ないから仕方ないよな! むしろ独学なら褒めてやるべきかな? 随分と上手じゃないかっ!」
大振りになっているところに踏み込み、目であろうところに砂を投げつける。散弾の様に彼に刺さる。
彼の顔が苦痛に歪み、悶え叫ぶ。なんだ圧倒的じゃないか僕は。初めから策など巡らせる必要などなかった。
「オイオイ、醜いツラが更に酷くなってるよ? これは電波に乗せられないや。ホラーどころかスプラッタな外見。こりゃあ友達が出来ないわけだ。全部得心が行くってもんだ」
彼の絶叫が木霊し、それに呼応して血が騒ぐ。
叫びの声は彼の心情を表すものではなく、最早僕のギアを上げるための舞台装置みたいだ。良い演出。
「愉快に痛快―――加えて爽快ってね!」
テンションが上がってきた。アドレナリン、エンドルフィン全開。
まだまだ身体は動く―――いや、もっと速く出来る。
今の僕ならあんな怪物楽勝だ。陳腐な
掠らせることもなく余裕でアイツを消せる。心ごとアイツの全てを。苦もなく。
身を削る覚悟なんて全くない。避ける必要なんて微塵もない。逃げる理由なんて欠片もない。
僕はただ一方的に力を振りかざせばいい。
圧倒的な暴力は身体だけでなく、肉を通して心を砕く。
なんだ、本当に単純明快な作業じゃないか。顔から笑みが零れ落ちる。
ようやく見つけた真にアイツを倒すための術。アイツを完全に抹殺する策。
破顔が浮かぶ。浮かぶどころか飛行する笑顔。
僕とは別の誰かが彼に笑い掛けた気がした。
「セラヴィ。僕を楽しませろ。せいぜい足掻けよ化物風情」
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