第9話 当然の如くドラゴンを倒す⑤

 のたうち回るドラゴンに当たらないように脇をすり抜け、CFストーンを落とした場所までたどり着いた。

 

 足元に目線を落とすと琥珀色の宝石が中心に飾られているチョーカーのようなものを見付けた。


「あった。これだ。で、これからどうすればいい?」


『そのCFストーンを手に取って!』


 言われるがままチョーカーを拾う。

 

「で、手に取ってどうするん... ...」


 手に取った瞬間、俺を包み込むように金色の煙が辺りを包み込んだ。

 キラキラと輝く幻想的な空間では風も音も匂いも感じない。

 だが、不思議と不安や恐怖はない。


『ようこそ勇者』


「ん? 少女の声じゃないな」


 また、頭の中で声がした。

 この演出流行ってんのか?


『私の力が欲しいか?』


「んー。どっちでもいい」


『どっちでもいい? 私の力が欲しくないのか』


「タダでくれるなら有難く頂戴するよ。でも、その言い方だと条件がありそうな臭いプンプンなんですけど」


『察しがいいな少年。それに私が誰か、この場所が何か聞かず、おののいてる様子も仕草もない。さては少年、別次元から来たな』


「ほー。察しがいいな天の声。まあ、そんなとこだ」


『そうか。ならば無条件で私の力を貸してやろう』


「無条件で? それは有難いけど、少し裏がありそうで怖いなあ」


『エミルを助けたいのだろう?』


「エミル? ああ、少女の名前か。そういや、名前聞いてなかった。それと俺はそのエミルとやらを『助けたい』じゃくて『助けてやる』だからな」


『まあ、言葉などどうでも良い。少年よ、一度目を閉じ、胸に手を当てなさい』


 天の声の命令調な物言いに少し嫌悪感を抱いたが、その言葉に従った。


『はい。終わり~』


 今まで仙人のような口調だった天の声だが、まるで、敬語の使えない育ちの悪い大人のような気の抜けた声に変わった。


「はあ? 何が終わり?」


『力の覚醒』


「力の覚醒? 何か能力を与える系の儀式的なやつか」


『うん。もう、能力使えるよ』


「えー... ...。なんか期待してたのと違う... ...」


『期待? これだから人間は... ...。いいかい? 君たちが望むことなんてこの広い宇宙や時間軸の中ではとても安直なことさ。君たちは宇宙の出来上がりを凄く幻想的な事として捉えるのが良い例。宇宙なんて神様の暇つぶしで作られたんだよ』


 聞いてもいないのに突然、得意げに宇宙の成り立ちについて語りだした天の声に「このままでは魔法少女にされてしまう」と若干恐怖を感じたのであらゆる不平不満を心のダストボックスに放り投げ、話を進めた。


「で、その力どうやって使えばいいんでしょうか?」


『ふう... ...。これだから人間の思考は理解できない』


 どうやらこちらが下手に出ても口調も態度も変わらないご様子。

 そして、ここからノリノリでやれ宇宙がどうとか、生命がどうとか、アメリカの大統領と宇宙人の関係とか、タイムマシーンだとかSFについての話を延々とされる。


 

 □ □ □



『で、あるからして君達人間は宇宙ではゴミ以下の存在なのさ』


「... ...あの人間がゴミ以下の存在だとはよく分かりました。なので、そろそろ、そのゴミ以下の人間に力の使い方とやらを教えていただけませんか?」


『しょうがないなあ... ...』


 天の声は重い腰を上げるように溜息交じりに力の使い方を説明し始めた。


『先ず、心の中でなりたい自分の姿を想像します。鮮明にイメージが出来ればその通りの姿形になるからイラストなどがあれば便利です。終わり』


「終わり!? それだけ!?」


『そうだよ』


 色々と思う点はあったが俺は目を閉じ、なりたい自分の姿を想像。


「... ...」


 あれ?

 ダメだ。1mmもなりたい姿ってやつが想像出来ない... ...。

 いきなり、言われても出来る訳がない。


「あの... ...。なりたい姿って言われても難しくて想像出来ないんですけども」


『えー。じゃあ、何か自分が好きな事とか得意な事とかないの?』


「いやあ、俺、そういうの疎くて... ...」


『君、それでも人間? 人間って欲望や私利私欲の塊みたいなもんなんでしょ? 君達の種族ってその過剰な妄想力とかが全てなんじゃないの?』


 さっきから黙って聞いてはいるが、こいつは一体誰に人間について教わってきたんだ?

 余りにも人間に対しての知識が偏り過ぎているぞ。

 

「すいやせん... ...。自分、人間の中でも落ちこぼれな方でして... ...。でへへ」


『見ればわかるよそんな事』


 今までの流れでこの発言が一番イラッとした。

 目の前に自動小銃があればこいつの額に数発撃ちこんでやるところだ。


「あ。特技ってほどではないんですが、自分、鼻糞をほじる事だけは得意でして」


『え? 鼻糞? ホントに『~ってほどではない』ことを言いだすね君は。『~ってほどではない事言う大会』っていう大会があれば間違いなく二連覇してるよ』


 勝手に一度優勝している設定にするな。


『まあ、じゃあ、いいよ。それで何か僕がテキトーな能力を付与しておいてあげるよ』


「はあ... ...。ありがとうございます」

 

 天の声に陳謝すると突如、嵐のように風が吹荒れ、金色の靄を掻き消し、再び、森とドラゴンがいる空間へと投げ出された。


「あれ? 何も変わってない」


 俺の姿形は冴えないいつもの自分の姿。

 俺は、天の声にハメられたと感じ、絶望した。


 目の前にはよだれを流し続けるドラゴン。

 いなくなった俺を探していたのか随分と近い距離まで迫ってきている。どう考えてもこの距離からの攻撃をかわすのは至難の業。


 もうダメだ... ...。

 そう、諦めかけたその時______。

 

『ふう。もう、出来たよ。鼻の穴に指を入れてみて』


 その声を聞き覚えがある声に従い、俺は勢い良く右の鼻の穴に指を突っ込んだ。

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