第3話 でっけえ... ...。
「あったけぇ... ...」
小鳥が囀り、風で木々が揺れ、太陽の陽は春の訪れを感じさせた。
どこだここ?
目を覚ますと目の前には見たことのない光景。
どうやら、俺は森の中で眠っていたらしい。
周りには見たことがあるようなないような草花が咲き乱れている。
確か、昨日、学校の外は木枯らしが吹き、木々の下には落葉が山になっていたはず... ...。
しかし、目の前には青々とした草花が生え、うさぎやリスなどの小動物たちが木の陰に隠れながらこちらの様子を伺っている。
俺は、その周りを見渡しながら己の鼻に指を入れた。
... ...湿っている。
視覚的な判断でも予想はしていたが、鼻的にもどうやらこの場所の季節は春のようだ。正確には春先。3月~4月ぐらいといったところか。
◆ ◆ ◆
副島サトル(17)は自身の鼻糞の状態で周囲の気温・湿度・気圧などを正確に判断することが出来る得意体質の持ち主である。
彼の能力は多岐にわたり、鼻の穴に指を入れる事で自身の精神・健康状態・周囲の湿度を把握出来る。
ただ、それを周囲に言っても気味悪がられるだろうと思い、公表はしていない。この能力が世間に知れ渡れば人体実験をされるか無形文化遺産に登録されるかの二択だな。と彼は予想していた。
◆ ◆ ◆
周りの景色から俺の知らない土地である事は一目瞭然。
服装は寝間着のままだ。
古典的で幼稚な手段だが頬を抓ってみる。
... ...夢じゃない。
どうやら俺は知らない土地に一人来てしまったらしい。
この場所を動くべきか、はたまた、留まるべきか腕を組み、悩んでいると。
何やら周囲にいる小鳥や小動物たちがバタバタと慌てるように音を立てて移動し始めた。
それを不審に感じた直後、地面が大きく揺れ始め、脳天を突き抜けるような衝撃から尻餅をつく。
地震??
と思ったが、どうやら地震とは違った揺れ方。
まるで、何か大きな何かが歩いているように小刻みに大地を揺らし、その振動は次第に大きさを増す。
『何か恐ろしいものが近づいてくる』という事は平和ボケした俺でも何となく分かった。
恐怖の感情は次第に高まり、それに比例するように未だ見ぬ恐怖の物体はどんどんと近づいてきているようだ。
先ほどよりも音も振動も大きくなり、先程まで騒がしく周囲を飛び回っていた小鳥も姿を消している。
「このまま俺は死ぬのか... ...」
滅多に言わない独り言を言って、気持ちを紛らわせようとしたその時。
目の前に現れた少女に茂みの奥に連れていかれる。
「おい! おまっ」
「黙って!」
矢継ぎ早に俺の発言は遮られ、少女は問答無用と言わんばかりに俺の口をその小さな手で強引に塞ぐ。
良く見るとこの少女、昨日、俺の手を引いて空中に飛び出し、空の上から落とした奴じゃないか。
宿敵の登場に怒りが満ちた時、先ほどよりも大きい衝撃が響いたかと思うと茂みの隙間から赤く大きな足のようなものが見え。
「もがっ!」
「静かに!」
驚きと恐怖から自然と声が漏れてしまった。それを鬼気迫る表情で注意する少女。
しかし、その甲斐虚しく、大きな足の主は俺が出した声に反応し、立ち止まると「ぐぬおおおおおお!!!」と牛とライオンの鳴き声の中間のような雄たけびを上げる。
その声を聴いて、地球上の生物でないことは何となく察知。
少女の顔を見ると顔面蒼白。
額には大粒の汗。
女の子がこんな表情しているのを初めて見た。
俺は不謹慎ながらその死人のような顔色に少し興奮を覚える。
「くんむくんむ」
雄叫びを上げた主は獲物の匂いを感じたのか、柔らかいペットボトルを押しつぶした時のような独特な音を立てながら鼻をひくひくと動かし、辺りを見渡す。
一通り周囲を見渡したかと思うと、俺たちがいる茂み周辺の匂いを重点的に嗅ぎ出した。
これは終わった... ...。
内心、俺は死を覚悟。
何故なら茂みの隙間から見える赤い大きな主の正体が何となく分かったからだ。
少女は息を止めているのか、先ほどまで真っ青だった表情は血の気を完全に無くして真っ白。
おしろいを顔面に塗りたくっているかのよう。
不謹慎だが、少し面白い顔だな。と思ってしまった。
どーせ、食われて死ぬんだ。だったら今まで出来なかったことをして死ぬ事にしよう。
そう思うと俺の右手は自然と少女の体の一部に手を伸ばしていた。
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