28、襲撃
その屋敷は、町から離れた場所にあった。
元々の持ち主は農場主だったが、今は違う。
新たな主の気に入っていたのは南北戦争時に黒人奴隷を逃がすための地下室と地下道があった事だった。多くは改築され、特に地下は、大掛かりな工事を施していた。よい広く、より大掛かりな施設へと改修されていた。
そしてその中に隠されたのは異様な機械と蒸気とは違う動力で動く機関車だ。
バラウール号と名付けられたその機関車は、燃料となる人の命を蓄えられ、静かに出発の時を待っていた。
屋敷の門には二人の南軍兵士が見張りに立っていた。
彼らは、吸血鬼と化している。
吸血の目は、夜の闇に敏感で、僅かな月明かりの中でも遠くが見通せた。
その目が、門に正面につながる道を誰かが近づいてくるのを捉えた。
「おい」
それに気づいた南軍変死が、相棒に声をかけた。
「誰かがやって来る」
人間だ。
それはわかった。
町の人間で吸血鬼になっていない住人は少ない。そもそも住人ならこの屋敷を恐れて近づくはずがない。警戒した兵士はライフルを構えた。
近づいてきたのはガンマンのようだった。銃を持っている人間は本来、警戒すべきだが、吸血鬼の身体を手に入れた彼らには、油断があった。不審者の接近を直前まで許してしまう。
ガンマンが4メートルほど近づいた時にようやくライフルを構えた。
「そこの者、止まれ!」
不審者は、足を止めた。
「何者だ?」
「ねえ、聞きたいんだけど、ここに小さな女の子が連れてこられなかった?」
「しらねえな」
「よく思い出してみてよ」
「なぜ、ここに来た」
「言ったでしょ。女の子を探しているのよ」
「お前、女か?」
「だったらどう?」
南軍の兵士たちは顔を見合わせた。
「しかも人間だな」
「あたりまえじゃない」
「美味そうだ」
「美味しいそうって……表現がおかしくない?」
「お前からは美味そうな血の匂いがするんだよ」
「って事は、あんたらあれだね。血を吸うのが好きって事だ」
「ああ、そのとおりだ」
ミッシェルはため息をつくと担いでいたショルダーバッグを下ろした。
「ねえ、自分で探すからそこを通してくれない?」
「部外者は通れねえ」
「じゃあ、しかたがないね……」
言うが早いか、ミッシェルは、両腰のコルトを引き抜いた。二丁のコルトの銃口から放たれた銃弾が兵士たちの腹を貫いた。撃たれた兵士は、その場に崩れ落ちる。
二撃の為の撃鉄を引き、用心深く、倒れた兵士の様子を見るミッシェルは、ゆっくりと近づいた。そばまで行くと兵士たち南軍の制服だけになっていた。袖からは黒い灰がこぼれ落ちていた。
「教会で祈りを込められた弾丸の効果ってあるんだな」
ミッシェルは、銃口の煙を息で吹き消した。
「さてと……」
ショルダーバッグから布切れを詰めたウィスキーの瓶を取り出すと火を付けた。
「そらよっ!」
火のついてウィスキーの瓶を屋敷の庭めがけて投げ込んだ。
瓶が割れ、荒れた庭に炎が広かっていく。
ミッシェルは、鞄の中の火炎瓶を取り出すと同じように火を付けると四方に投げつけていった。
銃声と広がっていく火に気がついたのか、屋敷からは、南軍兵士たちが続々と出てきた。
林の中では、身を潜めていたコールが屋敷に向かってライフルを構えていた。
庭に広がる炎が明かり代わりになって屋敷から出てくる吸血鬼の姿がよく見えた。
「丸見えだぜ。間抜けども」
狙いを定めるとウィンチェスターライフルの引き金を引いた。
ライフルの銃弾に当たった吸血鬼は灰になっていく。
「祈りの弾丸は効果がありますな」
隣で同じく身を隠していたカッシング教授が言った。
「あの娘のおかげだ。これは是が非でも助けてやらないとな」
そう言いつつ、コールは、屋敷から出てくる吸血の兵士を片っ端から狙い撃ちしていった。
持っていた火炎瓶を投げ尽くしたミッシェルは、ガンベルトからコルトを抜いた。
「ウィンディ、必ず助けるからね」
ミッシェルは、庭に炎が広がっていく屋敷に向かった。
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