俺の運命は神の気分しだい

神谷霊

第1話 異世界

「あれ?」


俺は、今の状況が飲み込めずにいた。

さっきまで俺は住宅街を歩いていた。でも今は、森のような緑の生い茂っているところにいた。

これが俗に言う、神隠しか、とそんなことを考えていた。


ただ、もしかしたら、俺が考え事をしていて、森に迷い込んだとも考えられる。


俺はそんな現実逃避をした。俺はこの現実を受け入れたくなかった。

俺の住んでいる周辺には、森が一切なく、考え事をしていたところで、森に迷い込むなんてこと万に一つもないからだ。

つまりここが、自宅の周辺にないことは明らかだった。


とりあえず、周辺に何かないか調べることにした。

しかし、違和感があった。何故か妙に体が軽いのだ。体重的なものではなく、体にかかっていたはずの負荷がなくなっていた。

俺は周囲を確認して、それが何かわかった。


持っていたはずの鞄がなくなっていたのだ。


俺は学校の帰りだったから、鞄を持っていた。今はそれがなかった。

しかし、鞄の代わりに、違うものが俺の足元に落ちていた。

それは、紙のようだった。

俺はその紙を拾い上げ、両面を見た。紙には片面だけに字が書かれていた。

その紙には日本語でこう書かれていた。


『やあ、神山 白くん、こんにちは。』


なんで、俺の名前知ってんだ?

俺はその一文でこの紙がものすごく怪しいものだということがわかった。正直なところ読まない方が良いのかもしれない。でも文章はまだ続いていた。それにどんなことが書いてあるのか気になり、読むのをやめることはできなかった。


『まずは、最初にこう言おう。


異世界へようこそ!


と。』


は?異世界?どういうこと?

ますます意味がわからなくなった。

俺、とうとう疲れでおかしくなったのか?

ああ、これが白昼夢ってやつか。


俺はそんなことまで考えるようになっていた。


『まあ、いきなりのことで良くわからないと思うが、気にしてはダメだ!現実こそが真実なのだから!』


と、まともっぽい文章が続いていた。現実かもしれないが、それを受け入れるにも時間がかかるっていうのをわかって欲しいよ。

白昼夢だし、そんなは関係ないのか。


『いきなりではあるが、君を召喚した理由を言おう』


理由ってなんだよ。もしかして、魔王でも倒せってか?

やっぱり定番だよな。まあ、無理だけどな。


『君を召喚した理由は、私の暇つぶし(おもちゃ)になってもらうためだ!』


……。

うん、書いてあることがわからんぞ。

俺は理解するためにその文だけを読み返した。数回読み返し、俺の答えは結局「意味わからん!」に落ち着いた。


それに文章はそこで終わっており、困惑するばかりだ。もう、異世界ってことだけでも思考が追いついてないのに、定番じゃないことをされてはわからなくなる。

真剣に考えていたが、白昼夢だし、意味わからないのも仕方ないか。

俺はそう結論付けて、考えないことにした。


そんなことを思ったすぐ後に、何もないところから、いきなり俺の持っている紙と同じような紙が落ちてきた。

いきなりのことで焦り、持っていた紙を手放してしまった。すると手放した紙は、俺の手から離れると同時に燃え、すぐに何も残さずに燃え尽きてしまった。


もう、いい加減にしろよ!思考が追いつかねぇよ!俺にゆっくり考えさせろよ!


そう思うと、再び何もないところから紙が出現し、俺の目の前に落ちてきた。


ほんといい加減にしろよ!

白昼夢なら、早く覚めろよぉ!


俺の心の叫びだった。

俺はかなりのビビリなのだ。ちょっとした音にもビクッと反応してしまうほどなのだ。それが、こんな意味のわからない現象が続けば、怖いと感じてしまうのは仕方ないことだ。

俺は怖さを紛らわすため、その場にうずくまり、何も考えないように心がけた。


そんな俺の気持ちを知ってか、それからは何もなかった。というのも、うずくまりながも落ちている紙を確認していたからだ。俺がうずくまってからは、その紙が増えていない。

俺の気持ちを理解してくれたのかと、安心し、上体を起こした。


しかし、それを待っていたと言わんばかりに紙が出現し、落ちてきた。


「ほんとにふざけんなよぉぉぉ!」


我慢できずに、俺は叫んだ。

俺の叫びに呼応するかのように再び、紙が出現した。

これをやってるやつ、完全に俺を弄んでいるのがわかった。俺の反応を見て楽しんでやがるのだ。確かに最初、おもちゃにすると書いてあったが、これは酷すぎると思った。

俺はおもちゃにされていると思うとたまらなくムカついた。もう反応なんかするもんかと、心に決めた。俺は涙目になりながらも、無理やり自分を奮い立たせ、立ち上がった。俺は目に止まった落ちている紙にどんなことが書かれているのか気になった。なので、俺は落ちていた紙を拾い上げた。

落ちていた紙は新しいのが上に重なるように落ちてきていたため、1番新しい紙が上に来ていた。俺はそこに書かれている文章が目に止まった。その紙にはこう書いてあった。


『ふざけてなんかないよ!本気だよ!』


なおたちが悪いわ!本気で人のことをからかうなよ!というか、意味が違うわ!


おそらくこれは、俺の叫びに対する答えだと思う。

もう、疲れた。なんでこんなに疲れないといけないんだ?


手から離れれば燃えるみたいだし、この紙全部、読まないで燃やしていいかな?


そんなことを思うと、今度は新しい紙が俺の持っている紙の上にいきなり出現した。


だから、それをやめろよぉぉぉ!


俺は、あまりに驚き過ぎて、紙を強く握りしめてしまった。紙はぐちゃぐちゃになってしまったが問題なく読めるようだったから安心した。


俺は、それからなんとか息を整え、紙を見てみた。1番新しい紙が1番上にあったので、それが自然と目に入った。


『せめて読んでから燃やしたほうが良いよ?良いこと書いてあるし』


そう短くまとまっていた。

俺は、そこに書かれていることを信じ、最初の紙から読んでみることにした。

俺は、1番下にある紙を1番上に持ってきて、その内容を読んでみた。


『白昼夢なんかじゃないよ?現実見よ?』


なんか、とてつもなくムカついた。お前にはそんなこと言われたくないと思った。

でも、これは夢でもなく、現実らしい。まあ、最初からなんとなくわかってはいたけどね。

紙を送ってくる主にムカついていた。でも少しくらいは、紙の内容が重要だと思い始めていたので、俺は次の紙の内容を確認した。


『嫌だね!ゆっくりなんてさせないから!』


俺は、何も考えず、持っていた紙の内のほとんどから手を離し、燃やした。少しでも信じた俺が馬鹿だったよ。

本当なら、残りも読まずに燃やした方が俺の精神上良いのかもしれない。でも残り1枚だったので、最後まで読むことにした。

この間、紙は新しく出現しなかった。そこだけは、ありがたかった。だから、良いことが書いてあると少し期待してしまったのだ。


『(笑)』


「ふざけんな!!!」


さすがに最後のだけは、怒りを隠せなかった。これってたぶん、俺が顔を上げた時に落ちてきたやつだよな?完全に俺で遊んでいるよな?


そう思ったら、すぐに紙が出現した。

俺は少し驚いたが、いいかげん慣れないといけないので、大きく反応はしないようにした。


『ええ、そうですが?何か問題でもありますか?』


と、俺で遊んでいることを否定すら、しなかった。ここまで言われると逆に関心してしまう。


そんなことを思っていると再び、紙が出現した。

俺はなんとか反応しないように心がけていたが、やはりすぐにできるものでもなく、少し反応して、驚いてしまった。

新たに出現した紙にはこう書かれていた。


『そんな褒められたら、照れてしまいます♪』


褒めてなんかねぇよ!貶したんだよ!


俺の心の叫びに反応したのか、また、紙が出現した。俺は、いきなりの出現にやっぱり驚いてしまった。


『え?!そうだったの?!酷いじゃないか!』


紙にはこちらを非難するようなことが書かれていた。だけど、この紙を送ってくる奴の方がよっぽど失礼だと思うんだけど。俺の方が間違っているのか?


そう思うと、再び紙が出現した。少しずつだが、慣れてきたとはいえ、やはり驚いてしまった。


『ええ、あなたが間違っています。私のすることは、なんでも許されますから。私は正しいのです』


なんだよ、その暴論。俺はもう呆れるしかなかった。てか、神かよ。


俺は冗談のつもりでそんなことを思った。


紙が出現し、そこにはこう書かれていた。


『ええ、そうだけど?』


なんとなくそうなのかなと、最初からわかってはいたが、実際肯定されると、信じられない。というか、こんな神が居て良いのかよ。


それから、再び紙が出現した。


『神だからこそ、何をしても許されるのですよ。神じゃなきゃ、こんなことできませんから』


そうだね!でも神だからって何をしても許されるとは思わないほうが良いですよ!


そんなことを思うと、また紙が出現した。


『ん?許されるも何も私を咎められる存在なんていないけど?』


俺はもう何もかもが嫌になった。そんな正論っぽい文が、誰もこの悪行を止められないことを表しているように思えた。


俺がそんなことを思うと、また紙が出現した。


『悪行って、その言い方はひどいよ!』


いや、ひどいも何も事実だろ。その言い方が嫌だったら、俺を元の世界にでも戻してくれよ。


俺がそう思うとすぐに新しい紙が出現した。


『それなら、悪行って言われるもの別に仕方ないかな。君を手放したくないし』


「なんで手放したくないんだよ」


俺はなんで、そう言われるのかわからず、そう聞き返した。


すると、すぐに新しい紙が出現した。


『だって、君を手放したら、暇になっちゃうからね!』


「やっぱり、そうかよ!」


これから、この神に付き纏われながら、異世界で生活をしなければならないと思うと、俺は頭が痛くなった。


また紙が出現した。


『これから、よろしくね!』


「よろしくなんてしなねぇよ!」



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