第10話 負けられない起源

「私は反対です」


空気が、少女を承認し始めた頃、ピシャリ。と、大気が凍るがの如き、冷ややかでありながら、よく通る声が響いた。


少女は頬を膨らませ、声の主を可愛く睨む。


ガランだけは鼻を押さえて、ソファーに横になっており、彼のおかげで、大分空気が柔らかくなったのだが……少女はこの凍てつく声の主に文句を言い放つ。


「…………」


しかし、その女性――眼鏡を掛けた明らかに人間のような彼女が、少女からプイ。と、視線を外した。


所謂、地味目な格好の彼女に、アルバートが頭を抱えており、あれは面倒だが、気にしなくても大丈夫。だと話してくれた。


なら、何故頭を抱えるのか。と、少女は尋ねるが、アルバートは苦笑いを浮かべ、頭を撫でてくれるだけで、あれの対処は任せて欲しい。と、だけ。


少女は少し考え込む。

そこで、女性をジッと見つめてみるのだが……確かに地味な衣装――まるで、結婚を諦めた。と、口では言っているだけの30代後半のOLのような格好をしているが、よくよく見なくても胸が大きく、くびれに、肉付きの良い太もも……とんでもないプロポーションをしているのだ。


少女は少し顔を赤らめる。


「あ〜、プリアか。魔王ちゃん、あれは気にしなくて良いぜ」


プリニーア=アラゼール――それが彼女の名前だと言い、ガランも苦笑いを浮かべた。


「と、いうか、何で顔赤くしてるんだ?可愛いじゃないか」


少女は顔を伏せ、チラチラとアルバートとプリアを交互に見つめた。

少女はこう思っている。

1・あんなに綺麗な女性を1人で説得する。

2・何でも教えてくれたのに、これだけは教えてくれない。

3・つまり、プライベート

4・魔物の繁殖事情は知らないが、きっとすごいのだろう。

5・ベイビー誕生←今ここ


飛びに飛んで、少女の思考は真っピンクに染まっていた。


そんな頭の中を上手く話せず、少女はあ〜、う〜、にゃ〜――などなど声にならない鳴き声を上げ、ガランに説明した。


「……魔王ちゃん、ちょっと2人っきりになろうか――」


もちろん、ガランは話を聞いていない。


「大バカ者」

アルバートがガランの横腹に、思い切り大剣を叩きつけた。

「まったく……ん?」


ガランをぶっ飛ばしたアルバートだが、少女は顔を真っ赤にしたまま、距離を取ってしまった。


「……魔王殿、何か勘違いをしていないだろうか?」


少女は必死に首を横に振るのだが、観念して、アルバートに助けを求めるような、小動物系の視線を送った。


「……わかった、ああ、隠すような真似をしたのが悪かったのだな?」

アルバートがまだただれていない中指を少女の頬に伸ばしてきた。

ぷにぷにぷに。と、こねては笑みを浮かべた。

そして、ついには観念したのか、プリアを指差す。


「魔王殿、あれはただ構ってほしいだけの女だ。地味な格好をして、必死に自身の出自から

逃れようとしているが、あれがああやって声を上げる時は、大抵発情している」


やっぱり。少女は思った通りだと言い、性別が男であろう魔物から距離を取った。


「いや、魔王殿、確かに我々は選ぶ権利がない程度にはモテたことがないが、さすがにその女は選ばん」


何故、とても綺麗な人だ。と、少女は首を傾げた瞬間――突然、アルバートとガランに抱えられるかのように優しく腕で包まれたのである。


どうしたのか。少女は2人に尋ねてみるのだが、2人がプリアを指差す。


そこには、顔を真っ赤にし、体を抱きしめるかのように、強く自身の体を抱えるプリアがいた。

呼吸は荒く、ブツブツと呟いては舌なめずり、少女の体を隅から隅まで眺め、涎を流す。


一体どうしたのか?

少女は凶変したプリアについて、アルバートたちに尋ねる。


「あれは淫魔だ」


少女はアルバートの言葉を繰り返した。


「さすがに俺っちでも、淫魔を相手にはしねぇよ。こっちだって命が惜しいかんな。やっぱ相手にするなら、人間の可愛い子が1番だぜ」


少女はガランのお尻にリコダ光線を追加した。


「どっかで適当に発散してくるだろう。そうすれば、あれは文句など言わんよ――」


「大ありです!」

プリアが紅潮した顔で叫んだ。

「まったく、どこの誰とも知らない可愛……人間を連れてきて、しかも魔王ですって?美味そ――さらにはそれをここに置いとく?冗談じゃないわ!」


「……そう言いながら、何故貴様は魔王殿の胸に手を伸ばそうとしている?」


アルバートとガランの手が、人を裂けそうなほど鋭利な物となったプリアの爪付きの両手を掴んでいた。


「何を言っているのよ。私はただ、私の欲望を満たし――可愛い子と延々と仲良くチュッチュしていたいだけなのよ!よって犯す!」


とうとう自身の中にある起源に逆らえなくなり、プリアが少女に向ける視線はまさに狼。


「いただきます!」


ついには飛びかかってきたプリア。


しかし、それを許すアルバートでもなければ、すでに忠猫と化したガランがプリアの痴態を許すはずもなかった。


もっとも、少女自身、身の危険を感じたために、100近くあるリコダ光線を収束し、一本の巨大光線に変えた。そして、大きく息を吸っているところであるために、数秒後にプリアが黒焦げになっていることは間違いないだろう。


こうして、アルバートたちの仲間を、少女は紹介されたのである。

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