雪が隠した あの娘の心

立野歌風

    

冬になると 雪山が見える

かといって ここは 雪国じゃない

あの雪山は100キロ以上先にある

とある アニメ映画が雪山辺りを聖地にしちまった

そのアニメ映画に 俺たちの街の駅もチラリと出てるらしい

(俺 見てないから 確認はしてない )

だけど チラリ程度では 聖地にもなれやしない

いつだって 通過地点 誰もが通り過ぎるだけの街だ


雪国じゃなくても

年に数回 ガッツリ雪が降る

子供の頃は雪遊びが 嬉しかったけど

今は 朝起きて 窓の外の白銀の世界に向って

「降りやがったな このやろ〜〜」

と叫びたくなる


そして今朝も 雪は降りやがった

初雪のくせに

ガンガン ガンガン 降って

下校時刻には雪国になってた

止む気配もない中

マフラー巻いて 手袋をして 正門を出た

近くの 市営図書館で雑誌を読むのが

俺の日課だからだ

その道の途中……

あの娘が 雪の中で 途方に暮れていた

「どうしたん?」

「手紙 落としてまって 白い封筒やから雪で わからへん

一緒に 捜してくれへん?」

「あ…  ええよ」

二人で 雪の中 白い封筒を捜した

案外 簡単に見つけて 手に取って

あの娘の背中に向って ふと……聞いちまった

「手紙 なんの 手紙やの?」

「………… 私の  心  」

俺は 手にした封筒を… 鞄の中に隠していた


目の前に 雪に濡れた 白い封筒がある 

宛名は無い 裏には あの娘の名前

重ねて言う  宛名が無い……


察するところ これは ラブレターという やつだ

白い雪の結晶模様の 真っ白な封筒に

あの娘の心が隠れてる

あの娘の心を受け取る奴は…  誰だ?

「見ようぜ」俺の中の悪魔が囁く

「やめろ!」俺の中の天使が御怒りになる 

「捨てろ 捨てろ」

「捨てるな! 返せ!」

俺の中の天使と悪魔が格闘する

そこには 俺にとって  失恋と言う絶望が封じられているんだ

あの娘はこれを諦めて手紙を書き直すだろう…… 


中途半端に 雪解け中の道

目の前を あの娘が歩いてる

俺は 深呼吸して あの娘を呼び止めた

「これ  手紙 これやろ? 今 見つけたで」

白い封筒を手に取って 

「……今? 封筒 濡れとらんけど」

あの娘は 小さく笑った

ヤバイ バレてる

「開けて 見んかったん?」

「宛先 書いたらへんし」

あの娘は 指で白い封筒に

宛名の文字を書いて 俺に渡した

指が書いた 見えない宛名に

俺の心臓がドキドキ ドキドキ 高鳴った

電線から溶けた雪の固まりが 落ちる音に紛れて

天使と悪魔の祝福が 遠く 耳に響いた



誰もが通り過ぎる

ありふれた街の ありふれた俺に

初恋が 

降ってきやがった!

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雪が隠した あの娘の心 立野歌風 @utakaze

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