第壱話
軽く頭痛がする、体も重い。
今日はいつもの
だが、ここにはアイツがいる。確かな情報があるわけではないが、この地にはアイツの気配がする。今まで微かに繋がっていた細い糸が、ここにきて一本の太い縄になったような、そんな感覚があるからだ。
そうやって、物思いにふけていたからだろう、周囲の警戒を怠り、完全に油断していた自分は、真横の路地から自分に向かって飛び出してきた何かに、ぶつかる寸前まで気づけなかった。
踏み出した足に力を込め後ろに下がる、それと同時に何か鋭利なものが自分の鼻先を掠めた。飛び出してきた影は、目前にあった民家にぶつからないようくるりと器用に向きを変え、自分の方を向いた。自分はそのまま後ろへ二、三歩跳びながら、腰に差してある刀に手をかけた。
相手と自分の視線がかち合い、月明かりに相手の姿が照らされる。
「でかいな……」
無意識のうちに呟いていたことに気づく。だが、視線の先の相手はそう呟いてしまうくらい異常なまでに大きかった。
鋭く尖った長い爪、骨と皮だけの体にどす黒い肌、
「アァ、ウマソウナニオイシテルナオマエ。オレ、ハラヘッタ。ダカラ、オマエクウ」
喋る相手の声は低く濁っていて、言葉を発する口からは刃物のような歯が覗いていた。
「やはり
でかい図体のわりに機敏で、その上小回りも利く。今まで何度となく餓鬼と遭遇してきてはいるが、ここまでの個体に出会ったことはなかった。
(どう攻める?体格や攻撃範囲じゃこっちの方が圧倒的に不利だ。だからと言って、ダラダラ長引かせて長期戦に持ち込むのも得策とは言えない。普通に考えて正攻法では自分に勝機はないだろう。とにかく、どうにかして相手に隙を作らせて、弱点である心の臓の破壊を───)
「……っ!!」
先に動いたのは相手だった。約二丈ほどの間合いを一瞬にして詰められる。
頭上に迫る鋭利な爪を、下から切り上げるようにして抜刀した刀で防ぐ。ガキンッ、という音と共に交わった刀と爪の間から火花が散り、均衡状態になる。そして、相手はそのまま更に力を加え、刀ごと自分を地面に押さえつけようとしてくる。
上からの力と下からの力では、当然上から加わる力の方が有利である。それに加え自分はあまり力のある方ではない。押さえつけようとしてくる力に対して、早くも片膝を立てて受けるだけで精一杯である。腕がぶるぶると震え、爪が目前にまで迫る。
「ハラヘッタ。タベル、タベルタベルタベル。アヒャッアヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!」
目を血走らせたそいつは狂った笑い声をあげながら、刃物のような爪で
かわ
し、直ぐに相手へと向き直る。
相手は先程の一撃を躱されたことが気にくわなかったのか、振り向き様に怒りの
その途端、自分の体は鉛のようにズシンと重くなり、酷い目眩に襲われる。
目眩は一瞬だったが、その時、自分に隙が生じた。無論、敵がその好機を見逃す筈もない。
口の端をニイッと上げ、不気味な笑みを浮かべながら、攻撃を仕掛けてくる。自分はそれを
「がはっ……!!」
「ヒャヒャッ!!アタッタ、アタッタヒャヒャヒャヒャヒャヒャッ!!!」
そいつは
(背中を強打したが、動けない程ではない、さっきの攻撃も刀のお蔭で抉られることはなかった。戦況としては悪いが、隙を作らせるなら好機だな。相手は勝ちをほぼ確信しているためか、油断している。
相手に勘づかれないよう注意深く地面の砂を握り締める。心臓がドクンドクンと大きく打っているのがわかる。呼吸が速くなり、身体の全神経が張り詰める。だが、視線は絶対に逸らさない。
(今だ──!!)
「──ッ!!」
「ガァッ!?!?」
そいつが目の前に来たのと同時に、奴の目に向かって砂を投げつけ目潰しを喰らわせる。そして、直ぐ様起き上がって体勢を整え、怯んだ相手の心臓へと刀を突きたてる。刀を通じて核を破壊する確かな手応えを感じた。
その瞬間から、巨大な餓鬼の姿がボロボロと崩れだし、そして数秒後には大きな灰の山となった。
「はぁっ、はぁ……、げほっ、がほっ……!!!!何とか、殺れ、た……」
痛む背中に、込み上げてくる吐き気。障気にあてられ
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