紅~紅葉物語~

嘘月善人

開幕


これは今から千年も前のはなし。


昔々、あるところに紅葉もみじという国があった。


その国は山々に囲まれており、あまり人の出入りが激しくなかった。しかもその国には人間とあやかしが共に暮らしていたため、他の国の人間達はその妖達を恐れ、関わりを持とうとしなかった。だから、他の国とはあまり関わりがなかったそうだ。


他国では人と妖は相容れぬものとして考えられていたため、紅葉のように人と妖が共に暮らしているのは、他の国々にとって有り得ないことだった。


他の国々の人々にとって妖というのは、自分達人間とは異なる禍々しい容姿をし、残忍で狂ったような性格で、人間達に恐怖を植え付ける。というような印象だった。そのため、紅葉は無法者たちが集まる国だと噂されてきた。


しかし、そんな噂とは裏腹に、紅葉はとても平和な国だった。


確かに、妖達の中には残忍な性格をした者もいる、人を喰う者だっている。しかし、とても穏やかで優しい性格をした妖だっていた 。それを知っていた紅葉の人々は妖と共に暮らすことができた。


だがある満月の日、人間を自らの支配下に置こうとする妖が現れ、その日から、満月の日には空に白い月と紅い月、二つの月が昇るようになった。


人々はその日から夜を恐れるようになり、平和だった国は廃れていった。


そして、人々がかつての国を取り戻すことを諦めかけたとき、奇跡が起きた。


人々の絶望の象徴だった紅い月が消え、人々に恐怖を与えていた妖が封印された。


そして、国に平和が戻った。

    

△▽△▽△▽△▽△▽


不気味なほど静かな夜。少年は重く伸し掛かってくる不浄の気に対して、その端整な顔を不快そうに歪めながら歩いていた。


少年は、しばらく歩くとふと立ち止まり、空を見上げた。そこには二つの月が、さも当然のように闇の中で爛々らんらんと輝いていた。


数年前に突如として現れた血のように紅い月────。少年はそれを忌々しそうに睨みつけると、再び前を向いて歩き出した。

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