第9話 豊胸とミスタージェリー

「トオルー、豊胸インプラントってなんだー?」


 リュツィはテレビを見ながら屈託なく聞いてくる。デスクチェアに座って足をぴらぴらさせながら。


「豊胸インプラントってのは主に女性が胸に入れるシリコンバッグのことだ」


 俺は外国の州警察が、豊胸インプラントが事件の証拠品として届け出されたニュースを見ながら、できるだけ簡潔に説明した。


「胸に入れる……? シリコンのバッグを……? なぜそんなことをするのですか? 私には理解できないのですが」


 アリスはとても不思議そうには見えない無表情で言う。


「胸に入れるって、どうやって入れるんだ……? 入れるところなんてないだろ」


 リュツィは心底不思議そうな面持ちで口にする。


「手術で胸を切ってその中に入れるんだ。なぜそんなことをするかというと、まあ、男性にモテるため、とか、純粋にきれいになりたいから、とか、胸が小さいことがコンプレックスだから、とか、はたまた異性になりたいから、といった理由からだな。他にも理由はあるかもしれないが」


 男の俺にはそれくらいしか考えつかないが、さて、女性からすると他にどのような理由があるだろうか。


「胸を切る!? そんなことまでして胸を大きくしたいのか!? わたしはいやだぞ! 絶対に!」


 リュツィが声を荒げると、


「ははあ。つまり自分をよく見せたいと、そういうことなのですね」


 アリスは湯飲みで茶をすすったあと、まったりと述べる。


「そうだな。多分そうだと思う。俺は女性じゃないから、はっきりとは言えないけど」


「あれ、ちょっと待てよ……。ということは、胸が小さいと、だめって事なのか? トオルの言うとおりだと、胸が小さいと男に好かれないって事だよな? それは胸が小さいことはよくないって事じゃないのか? なあ?」


 いきなりはてなを四つも飛ばしてくるリュツィ。俺は顔面にクエスチョンマークが四回撃突するのを感じながら、リュツィの言葉を自分の体を意識したものだと感じ取った。


「いや、そういうわけじゃなくてな……えーっと……」


 と説明に困っていたら、


「胸が小さいことはよくない……。胸が小さいことはつまり、罪……。要するに私の存在そのものが罪、だと……。では私はどうすれば……」


 なぜか自分の世界に引きこもって呪詛じみたことを言い出すアリス。アリスさん、呪文を唱えてないで出てきてください。


「いや、小さいことは悪いことじゃない。小さいからって、それが劣ってるって事にはならないんだ。それも個性の一つだし、小さいのが好きな人もたくさんいるから」


 言いにくいことをなんとか口に出すと、リュツィは、


「そ、そうか! それなら小さくても大丈夫、だな!」


 なんとか元気を取り戻してくれたようだった。言ってから小さくガッツポーズをして、テレビに向き直る。


「小さい胸にも需要はあるということですね。安心しました、これで私の存在意義が保たれたというものです」

 表情は変わらずとも言葉には心がこもっているアリス。そこまでですか。第四の壁をはみ出るくらい気にしてたんですねアリスさん。そんなに心配しなくても需要はあちこちにありますよ、違う意味でもね。


 問答を終え俺とアリスもニュースに目を向けると、司会を務める男性が。


「この証拠品として警察に届け出があった豊胸インプラントですが……、実はクラゲの死体だったようです。なんともあっけない顛末ですが、事件でなかったことは何よりですね」


 俺たちが以心伝心したことは言うまでもない。


 なんだそりゃ。

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