第8話 いじめと失格

 夕食の後にニュースを見ていると、被災地から他県へ避難した小学生が、名前に「菌」をつけて呼ばれたり、仲間はずれにされるといったいじめを受けていたという報道を目にした。


「菌って……ひどすぎだろ。そんなの誰が言われても傷つくに決まってるじゃないか」


 リュツィはテレビを見ながら憤りと悲しみを覚えて言う。今はデスクチェアを回すことなく、真剣に液晶画面と向かい合っている。


「そうですね……。何々菌、と呼ばれるのは身を裂かれるような思いだったでしょう。それも自分だけが集中的に攻撃されていたのであれば、その心細さと疎外感、恐怖は計り知れないものだったと思います」


 いつもの定位置、テーブルの前に正座して、アリスは言う。彼女は無表情で感情がないように思えるが、実はそうでもない、のかもしれない。


「最初は保護者にも『大丈夫』と言えてたみたいだけど、他県の同じ境遇の中学生がも『菌』と呼ばれ不登校になったことを知って、落ち込んだみたいだな」


 保護者は、「自分も深刻ないじめを受けていると自覚したためではないか」と見ているらしい。


 さらに残酷なのは、担任教師に他の児童がいる前で「菌」をつけて呼ばれたことだろう。しかもそう呼ばれる前、小学生はその担任教師に「自分も菌をつけて呼ばれている」と相談をしていたにもかかわらず、後日、「菌」をつけて呼ばれたそうだ。その何日か後から小学生は不登校になっているらしい。


 保護者がそのことについて学校に連絡すると、担任教師は「相談を受けている身だし、私は絶対にそういうことは言わない」と否定したらしい。しかし別の教師がクラスに聞き取り調査をすると、複数の児童が「自分もそう呼んでいた」、「担任の先生もそう呼んだ」と答えたそうだ。


 担任教師は「愛称のつもりだった」と言っているそうだが、教育委員会は「不適切な発言」だったとしているとのこと。


「先生にいじめを相談したのに、その先生に同じように『菌』をつけて呼ばれるなんて……。わたし、泣きそうなんだが……」


 リュツィは瞳をうるうるさせている。俺も同感だ。学校で頼りとされるべき教師が、相談を受けたにもかかわらずいじめに荷担するなど……どんな意図があったとしても、絶対に許されるべき事ではない。


「担任教師というクラスをまとめる人間に見限られたその子は何を思ったでしょう。クラスで唯一の大人までもが敵となったその世界は、正しく絶望したのではないでしょうか」


 どれだけ心細い思いをしただろう。どれだけ泣きたくなっただろう。どれだけ涙しただろう。どれだけ心を切り裂かれだろう。どれだけ。どれだけ……。


「教えることが先生なのに、その先生がいじめを助長させたりしちゃだめだろ……。そんなの先生じゃないぞ……」


 えぐっ、えぐっ、と、もはや泣いてしまっているリュツィ。俺も同じ思いだ。そんな、そんな人を人とも思わない教師は……。


 ――教師失格だ。

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