第147話 キーンの理不尽パワー

「3人ともそれなりに使えそうだな。特にお前だ、キーン。ドラゴンの加護な。瞳か龍の魔法だったら最高だったが贅沢は言えん。その左腕の模様もじきに分かるだろうし。ククク、いい時に現れてくれたもんだよガキ共。実に都合がいい」


影1号は満足げに頷いたがこっちはゲッソリだっつーの。質問のメインは俺の鱗だったけど、ねちねちとした尋問は結局生まれ育ちにまでさかのぼり、長い話の途中に軽食休憩まで挟んでやっと終わった。長かった。俺が修行僧だったら悟りを開いて自我を解放してるとこだよ?よかったなお前ら、俺が修行僧じゃなくてさ。


瞳だの龍の魔法だのの話も気にはなったけど、顔が濡れて力が出なくなった時の某菓子パンのバケモノのように情けない表情を意識しながら少しでも早く話しが終わるように演技を加速させていた。


あぁ、俺の生い立ちについてはシュラーもチャンネリもちゃんとは知らないとこなので、いくら嘘を重ねても問題ないはずだと、あることないこと吹いておいたよ。だってこの影1~3号の三人ってばさ、俺達には名前はないから好きに呼べなんて言うんだよ?もうこれ明らかに聖域っていうか巡礼の者関係のアブナイ人だぜ?


正直に昔のことなんて言ったらテンションマックスで拷問部屋に案内されちゃうよね?なんの因果か知らないけど、こんなところまで出張って来やがってご苦労様だよバカ野郎。狂信者ネットワークを使っての人さらいを通常業務にしているような集団だからさぞかし手の込んだ拷問するんだろうなぁ。こりゃ最初に本名を名乗ったのは失敗だったわ。


今は気がついていないようだが、その内全部バレそうでもある。「異空間」を失っているからと安心はできないっしょ。鱗に興味を持たれて捕まったし左腕も目ざとくチェックされたし・・・そんな勤労意欲見せなくていいんだよ?


影1号は2号、3号と盛り上がっている。俺達をゲットしたことで狂信的な狂計画の狂った見通しをさらにクレイジーにすることが出来ると喜んでいるんだろう。祈っていたら神様からお告げがあったから、どこそこの町で子供を集団拉致してこいとか、聖なる儀式用に聖なる生贄が必要だから聖なる炎で村を焼き払ってそこら中を聖なる焼け野原にしてこいとか命じてくるんじゃないだろうな?


今やあんまり思い出したくない聖域親子の顛末を考えれば、どんなにユーモラスにジタバタしても喜劇にならないのは明らかだよなぁ。こいつらが金のために働く類の人間でないってのがまた痛い。


「とりあえずメシにしよう。お前ら臭いから先に体を洗え。水場は裏にあるから・・・おい、こいつらの監視を頼む」


濡らした布でベトベトした体をやっつける。”臭いから”じゃねぇんだよ。だったら最初にさっぱりさせろよ。お前らの存在の方がよっぽど臭いわ!


もうへとへとだから言われるがままに動くけどね。大人しくご飯を食べて今日のところは就寝となった。部屋は3人一部屋。監視は影2号。ほんとこいつら自信満々だな。


「なぁ、俺達が逃げるとは考えないのか?あんたを殺してさ」


「無理だな」


それ以上は何も言わない。これは・・・逃げるのも殺すのも両方無理だって意味かな?まぁそうなんだろうな。黒渦で転移してここがどこかも分からんし、相手の力も分からない。迂闊に攻められないのは事実だが・・・。


2号はひとりで俺達3人に勝てると考えているようだ。ヤツの態度がそう物語っている。俺達もそれなりの戦力だと思うんだけどなぁ。特にチャンネリの「身体強化」は想像を超えるはず。可能性の話にすら歯牙にかけないとなるとその自信の根拠が気になってくる。


ここが聖域ってオチはない。聖域特有の違和感は感じられない。となると自信の根拠は魔法。いやー、ただ魔法が使えますってだけじゃチャンネリの相手は無理でしょ。この距離なら特にそう。


まさかチート級の魔法が存在していて、都合よく3人ともそれを持っているとか?燃やし尽くしても灰のなかから復活してくるフェニックス的なポジションだとでも言うのかな?うん。つまらない妄想だ。目を凝らしてよく見てみれば・・・。


「その自信はどこから来るんだ?あんた等が言ってた加護だっけ?そんなものでも持ってるとか?」


「我等はお前らより強いと言うだけだ。魔法や加護などなくてもな」


強いねぇ。全身黒ずくめでいまいち種族ははっきりしないが、仮にこいつが獣人だとしてもそれだけで「身体強化」を無視できるはずがない。だがこいつは自分の方が強いと言い切ってる。俺達はもう既になにがしかの魔法に捕らえられてるとかそういうパターン?保険をかけてあるから落ち着いていられるって?


「随分はっきり言うんだな。あの戦場を覗き見していてそう判断したって言うなら間違いだぜ?抜いてたからな」


「お前らの力量は関係ない」


(自信が青天井だな。シュラー、チャンネリ、どう思う?)


(分からん。が、今は手を出すべきじゃなさそうだ)


(わたしも分からないよ。今はシュラーに賛成)


やっぱりそうだよなぁ。あっ!嫌な記憶を脳ミソから引っ張ってくることに成功したぞ?俺の左腕を切り飛ばしたネコの獣人だよ。


あいつは「身体強化」を持っていなかったはずだが、普通じゃない動きをしていた。何かの魔法かと思っていたが、他に何か秘密があったのかもしれない。


そしてその秘密の力を影野郎達も持っているのかも・・・いや、考えすぎか?久しぶりの巡礼関係者登場の影響で連想がどこからか繋がっただけだろう。


「じゃあ、あんたは魔法使いじゃないのか?」


「その内分かる。お喋りはもう終わりだ。寝ろ」


(シュラー、チャンネリ。疲れてるところ悪いがお遊戯のお時間だ。悪いな、楽しくなりそうってのは間違いだったよ。ボロボロに疲れてる今からが本番だ)


(おい、まだ捕まって数時間だぞ?状況も何も分からないし、コイツラの手の内だってわかんねぇしよ)


(そうなんだけど、途中でも話したが俺は巡礼関係のヤツラと揉めたことがあってな。ヤツラとは到底お友達になれそうにない。おままごとレベルの演技ですら吐き気がするんだよ。俺のゲロを見る趣味でもあるなら別だがふたりも俺と同じだろ?ヤツラは聖域が大好物だぞ?お前らの故郷だって狙われるかもな)


(あぁ、それはそうかもしれないけど)


(でも、わたし達より強いって言ってたよ?ここがどこかも分からないし、相手が何人かだってちゃんと分かってない。あぶなくない?)


(プランはある)


(プラン?)


(ここは俺達が領主を殺した町で今いるこの屋敷にはあの影野郎3人しかいないってのは分かってるんだよ)


(キーン?どういうことだ?間違いないのか?)


(現在地と屋敷にいる人数が3。これは間違いない。で、ヤツラの自信の根拠だけど・・・ヤツラ普通の人間じゃない)


(は?なんだそりゃ)


(なんて言ったらいいのか。改造人間?そんな感じだ。具体的に言うと体に3つほど魔道具を埋め込んでる。さすがにどんな効果があるかまでは分からないがな。後は皮膚もおかしい。魔物の皮のようだ。だとすると筋肉なんかもおかしいかもしれないが、そこは判断がハッキリつかなかった)


(キーン。お前自分が何言ってるか分かってるか?その話をどうやって信じろって言うんだ?あいつ等を改造したとかってのが実はお前だったなんてオチか?)


(茶化すなよ。落ち着いてから話したかったけど仕方ない。とりあえず簡単に言うと魔法を手に入れたんだ。それも複数。今言った情報は「気配察知」を使って知った。待て待て、もうちょい。もう一度言うけど巡礼者関係はダメだ。一秒でも早く縁を切りたい。これはお前らも同じはず。そしてヤツラを殺れば死体からは魔道具がゲットできる。3人分で計9個だ。これはやるしかないだろ?)


(お前魔法・・・いや気が狂ったのか?俺の名前を言ってみろ)


(シュラー。いきなり過ぎて信じられないのは分かるが嘘じゃない)


(それで・・・複数の魔法を使ってヤツラを始末してここから脱出するってか?最高に格好いいぜキーン。夢物語の類だな)


(・・・ヤツラがチャンネリの存在を甘く見てくれたからな。「身体強化」を使った剣の一撃にさえ脅威を感じないレベルの防御力があると仮定してもチャンネリの波動拳ならいけるだろう)


(はどーけん1回で疲れちゃうよ)


(大丈夫だ。俺が回復させる。治癒魔法も使えるからな)


(もう止めろと言いたいところだが、それだけしつこいんだ。ホントに出来るんだろうな?)


(勝算はあるけどまぁヤツラに逃げられる可能性も高いな。転移魔法をすぐに使われたらどうしようもない。だからそこにいる影野郎は出来るだけ静かに殺る。チャンネリ投入はあの転移野郎からだ)


(ならお前がひとりで殺るってのか?お手並み拝見だな、キーン。しくじったら俺達は無関係だと主張させてもらうぜ?意味は無いかもしれないがな)


(それでいい。チャンネリもいいか?)


(うん。キーン、がんばってね)


シュラーは明らかに不満気だがそりゃそうだろう。事が終わったら説明するからちょっと待っててね。俺はひとり立ち上がって影2号に近づく。


「寝ろと言った」


殺気っぽいのがすごいね。こわいこわい、僕ちゃん思わず怯んじゃうよ。だけど「気配察知」を再び手に入れたキーン君はお前の死の気配をきっちり察知済みだよ?なんつって。


「ウォーターボール」


「なっ!ぐぼっ!」


特大ウォーターボールで影2号をすっぽり包みこんで先制攻撃。水を必死に掻いているがそこから逃がすわけないでしょ。俺のためにこのまま溺れ死んでくれるとすごく嬉しいです。


影2号は腕をこちらに向けて・・・足元から炎。ファイヤーウォールかな?ウォーターボールを拡大して出現し始めた炎をさっさと抑える。もう片方の腕から岩が・・・ロックボール的な?バカおい!そんなもん危ないだろ!


ウォータボールを一気に拡大して部屋の半分ほどを水で満たしつつ、ウォーターボールを追加で発射。影2号のロックボールを水の内部で迎撃、砕く。


影2号はロックボールを何度か試したが水を突破できず、数分後には力尽きて動かなくなった。念のためしばらく様子を見てからウォーターボールを解除した。


「音はほとんど漏れなかったな。残りの影二人に動きもないし順調順調」


「キーン。お前本当なんだな。この目で見たのに信じられないぜ」


「さすがキーンだね。なんだかんだで上手くやっちゃうもんね」


ぶっつけ本番だけどほぼ完璧に上手くいった。「気配察知」を使った段階で以前と同じように魔法の性能が壊れ気味だという事に気がついたけど、他の魔法は確認出来ていなかったらちょっと不安だったんだ。


「ちょっとこいつの皮膚の硬さを確認したらすぐ次いこう」


黒尽くめの服を剥いで皮膚を確認すると、やっぱり普通の皮膚じゃない。姿形は人間だが象みたいな皮膚だ。ゴブリンっぽくも見えるな。2号の腰にナイフを見つけたのでそれを使って皮膚を切ろうとするが刃が通らない。突き刺そうとしても弾かれてしまう。


「すごいな。お前の鱗並みじゃないのか?こいつも加護とやらを持っていたのか」


「分からんが、ふぅ。身体強化を使ってやっと傷がつくぐらいか。チャンネリはやっぱり波動拳でいこう」


「わかった」


さて、残りの二人も始末しに行こう。早く終わらせて寝たいっす。治癒魔法でリフレッシュは出来るけど精神衛生上、睡眠は大事だからね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る