第118話 ビックビジネス

「俺の気配察知はちょっと優秀なんだよ。ミスリルだろうがなんだろうが見つけることができる。ただ魔法の射程が短くてね。お宝の場所にあてがあるなら教えて欲しい」


「ほう?気配察知でミスリルを。ふむふむ。聞いたことないが・・・試させてもらうぞ?」


「あぁ、もちろん。だがテストに合格したご褒美に洗脳しますなんてのは勘弁して欲しい。それとももう遅かったか?」


「洗脳?・・・ふむ、操り人形のような・・・ハハハ。俺達はそういうことはできん。そんな心配をしてたのか?ハハハ。洗脳なんて俺達の主義からは外れているなぁ」


「へー。そうなの?」


「知りたいか?だがあれは、ふむ、そうだな」


「値が張る?」


「そうでもないが先にお前の魔法を見せてもらおうか。空手形を掴まされたくないんでな」


「気配察知」の性能を一部公開して村長と交渉することにした。俺単独で山掘り的なことをしたらどんだけ時間がかかるか分からないし、敵も無限に湧いてきそうだし。


情報を力と考えているここの連中ならば俺の力をうまく利用してくれるだろう。村長は俺の魔法を試すとすぐに協力を約束してくれた。


何日かしてからお宝探し開始。浅黒一族からはまずは三人が一緒についてきてくれた。ちなみに彼等一族は純粋な人族ではないらしい。精霊系やら獣人系やらさまざまな血が混ざっているんだとか。


「なぁキーン。お前なんでその首輪外さないんだ?」


「これか。これはいい感じに俺の精神を安定させてくれるからな」


「つまりそいつがないとお前は不安定ってわけか。怖いな。色んな意味で怖い。いきなり発狂したりするなよ?」


「シュラー。俺はもう狂ってるんだ。そのことは自分が一番よく分かっている。まともな人間に戻らないようにこの首輪で安定させているんだよ」


「ハハハ。そいつは面白いな。じゃあ身の危険を感じたらその首輪を外させてもらうぜ?お前の首ごとな?」


「楽しそうで何よりだよ。好きにしろ。でもお前等も大概だからな?冗談がエグイんだよ」


浅黒一族の情報を頼りにお宝があると予想されるポイントに到着。ちょっとした丘といった感じの岩場だ。「気配察知」で地形をスキャン。百五十メートルという制限はあるものの、細かいものでも逃さず発見できた。


実際に掘り出す作業は俺達四人ではしんどい。場所だけ目印をつけておいて採掘作業は外注だ。それも全て一族が手配してくれた。


採掘が終わると掘った箇所まで降りてさらにサーチ。主に宝石をメインに連チャンでゲット。この繰り返しで俺はあっと言う間に小金持ちになった。


あらかた掘り返したらさらに次の発掘現場に出張って同じ作業を繰り返す。一年ほどして俺はとうとう成金らしきものになった。14歳にして念願の大金持ちだな。


世の中上には上がいくらでもいる。大金持ちとは言ったものの人一人が一生遊んで暮らせる程度の金しかないのだが、そこは考え方次第。これで十分だと納得することだって出来る。何せ1年でこれだからな。


しかし黄金の力で相手を跪かせようと思ったらまだまだ現状では足りないんだよなぁ。手を出せる範囲の発掘はあらかた終了してしまったらしいので、ここから先を望むならば少しリスクが高まるようだ。浅黒一族の守備範囲外にも手を広げる必要が出てくるからね。


しかしその浅黒一族とはベリーナイスなビジネス関係を築けている。事業の手を広げると言えば協力してくれるだろう。何せ俺は彼らにも莫大な利益をもたらしたんだからね。


しかし俺は迷っているよ。このクソみたいな世界に対する俺の捏造した憎悪が、出口を失って爆発しそうなのだ。奴隷に焼かれたあの町の光景が時々フラッシュバックする。赤く光る鉄の棒と肉の焼けるにおい。耳障りな叫び声と自分の笑い声。


最近お前働いてないんじゃないか?と地獄から催促の声が聞こえるようだ。お前はそういうヤツじゃないだろう?誰も地獄に落とすつもりがないならキーン、お前が落ちてこい!そんな声がさ。


一度手を血で染めたら、それはもう洗っても落ちないシミになってるよ。改心して真面目に働いたからって許されるわけがないだろう?お前のように甘ったれて人を害するような魂の持ち主が!


魂のシミは決して拭い取れぬ。流した血はお前の血で購わねばならぬ。はじめは小さな憎しみ、それこそただの反射のような怒りに過ぎなかったのかもしれない。しかし今では大きく育っている。いつまでも閉じ込めて置けるものではない。チリチリと肌を焼くような焦りが募る。


「キホーテ。俺もお前みたいなベジタリアンだったらなぁ」


フンフンと鼻息を吐きならがキホーテは頭をすりつけてくる。なんてラブリーなお馬さんなんだお前は。幻聴が聞こえようが知ったことか。そもそも地獄からの催促の声ってなんだよ。地獄なんて俺はこれっぽっちも信じてねぇし。


「キーン。村長が呼んでるぜ」


次の現場の話しかな?それともそろそろ俺を首にして金を奪おうってか?後者を少し期待している俺がいる。何でもいいからきっかけが欲しいってさ。最近はこんな想像ばっかりだ。


「村長。来たよ。何の用?とうとう俺を殺して金を奪う気になった?」


「お前が役に立たなくなったらそうするさ。ただお前が役に立たなくなる日の想像がつかんがな。まぁ座れ」


村長の向かいに座って出されたお茶を飲む。毒入りかな?


「現場は一段落ついた。それで次の話だ。お前がこのままお宝発掘を続けるならいいんだが・・・最近なんだか様子がおかしいそうじゃないか。何か考えてるのか?」


さすがだな。俺の精神汚染レベルまで把握しているか。


「まぁね。俺がどこから来たか知ってるだろ?最近よく思い出すんだよ。俺の様子がおかしく見えたなら多分そのせいだ」


「ふむ。いまだに揉めているあの町のことか。何が引っかかってるんだ?」


「いや、あの町自体はもうどうでもいいんだ。問題は俺自身だよ」


「お前がここに来てからは、真面目すぎるくらいの働きぶりだったが・・・まだ血に酔い続けたままだと自分を疑っているのか?」


「それもある。それで自作自演の憎悪にせっつかれて焦ってるのかもしれないな。何せ本当は憎しみなんて持っていないんだ。生きるための気力が欲しくてさ、理由が欲しかったから、動機付けってのか?憎しみを頼りにしてたんだが・・・いつの間にかその憎しみが俺のなかで勝手に暴れ始めたんだよ」


「むなしいな。自作自演というなら止めればいいが、その気はないんだろ?ならばどうする?」


「それを考え中でね。心配しなくてもここの連中と事を構える気はないぜ。惨たらしく死ぬのが望みなわけじゃないからな」


「それは分かっている。お前は自分を狂っていると思っているかもしれんが、俺達はそうは思っていない。見ていれば分かる。金儲けがしたいならいつでも声をかけろ。しばらくは休むといい。話は以上だ」


「珍しく優しいんだな」


「お前が役に立つ間はな。しっかり休めよ。お前はひとりで考えすぎだ」

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