第115話 お決まりのコース

商人のおっさんは町まで送ったら俺の自由だと約束してくれた。つまりはそう約束したことでそのルートは無いと教えてくれたわけだ。だって人間様と奴隷との間に約束なんて言葉は存在しないのだから。


確かにきっかけは俺からだったけど、どっちにしろこうなるのは決まっていたことなんだ。おっさんは顔を引きつらせて縋るような目線を送ってきてるけどそりゃないよ。ここまできたら一本道だろ?


気持ちを奮い立たせて馬車で逃げようとするかな?商品を積んだ足の遅い馬車だから走れば追いつけるぜ?それでも走り出されると面倒だから先に馬車から降ろしてしまおう。


「ハハハ。馬で逃げるつもりですか?でもそれは止めた方がいいですよ?」


強者の言葉は強力な飛び道具。おっさんもお嬢ちゃんも険しい顔で固まった。釘付けに成功の巻。俺の言葉に逆らったらどうなるかなんて子供でも分かるもんね。


「あれ?さっきみたいになぜかと聞き返さないんですか?あんなにしたり顔で余裕だったじゃないですか。ノリが悪いなぁ。愛想の良さは売り切れかな?奴隷のために娘まで引っ叩いていたのに?ハハハいいツラしてるぜ!」


短剣を見せびらかしながらおっさんに近づき蹴りをいれて御者台から落とす。お嬢ちゃんにも蹴りをプレゼントして荷台から落として上げる。親子で差別したらかわいそうだもんね。


おっさんには大したダメージがなかったようだけど、お嬢ちゃんは腹にモロで食らったからか吐いている。うん。気持ちは分かるよ。痛いし苦しいよな?もうちょい待っててね。


「これでお馬さんが手に入るな。ラッキー」


さてこの二人はどうしようか。一応希望を聞いてみることにする。


「命だけは助けてください。どうか!どうか!お願いします!」


おっさんは俺の靴を早く舐めさせてくれと目で訴えかけてくる。もちろん勝手な妄想だけど、言えば舐めるだろうな。可哀想な生き物だ。とても見てられないよ。


「薄汚い奴隷が!私によくもこんな!許さないわ!」


お嬢ちゃんは今すぐ死にたいってことか。ふむ。積極的に死にたい人間もいるわけか。戦国時代の武士でもあるまいし、このお嬢ちゃんは何を考えているんだろう?

誇りを胸に潔く死ぬのとは違って、このお嬢ちゃんはただバカだから殺されるわけなのに?


自分の命を握っている相手を罵倒して不快な気持ちにさせれば命が助かるとでも教わったのかな?それとも反抗することに何か意味を見い出したんだろうか?意味なんかないのにさ。


とりあえずおっさんの首に剣をひく。血が流れ毒が回り、苦しみながら口から泡を吹いておっさん死亡。あんな命乞いは長いこと見ていたくなかったから先にやらせて頂きました。


「父さん!父さん!この汚い奴隷が!」


威勢がいいなぁ。次は自分だと考えがまわらないのか、父親が殺されたショックでそれどころじゃないのか、なんにせよ首尾一貫しているその態度はある意味立派だよ。


「お嬢ちゃん。次はお前だ。何か言い残すことはあるか?」


こんなお嬢ちゃんみたいなタイプが世の中にどれほどいるか分からないが、今後の参考に話かけてみる。


「なんで、なんで、なんで!そんなの許されるわけない!奴隷が、奴隷が、家畜以下の奴隷が私達にたて突くなんて!お前が私を殺そうと、すぐにお前も殺されるぞ!このゴミが!」


うーん。こちらには響かないよ。喚いている姿がちょっと笑えるくらいでさ。拷問なんて趣味じゃないし、もういいか。


お嬢ちゃんにも父親の後を追ってもらった。最後まで奴隷がどうとか叫んでいたけどなんだったんだろう。お前が自分の命にどれほどの値段をつけていたのか知らんが、俺にとってはそれこそゴミだよ。うるさいだけで何の役にも立たない。


ふぅ終わったな。そこそこ危なかった。いや、実際ヤバかった。おっさんが殺すなって注文出してくれなかったら、あっさり死んでたな。もうちょっと善戦できると思ってたけど甘かった。


もっと体を鍛えて防具を揃えて「身体強化」を何度も見る機会があれば、なんとかなるかもしれないが・・・それでも賭け率は偏りそうだ。目では追えても体がついていかないしさ。はぁ最近たらればで考えてばっかりだな、萎えるわぁ。


「馬よ。ススメー!」


それでもお馬さんが手に入った。沈んでばかりもいられない。荷台は捨てて、馬に積めるだけの食料と水を持ち出す。おっさん達はそのまま放置し、出発進行。体がバキバキ状態で痛むけど、このぐらいなら慣れている。かまわず行こう。


しかし成り行きとは言え盗賊家業にジョブチェンジして、そこから1レベルくらいはアップしたかな?こうやって地道に経験値を稼がないと生き残るのもしんどい世界だからさ。今回命を賭けて得られたのは情報と食料。他人の命を奪って生活の糧を得るなんて・・・何か真理に触れている・・・のかな?


まぁいい。真理なんて腹の足しにはならないよ。それよりある程度社会に適用できるように面の皮を厚くしなきゃなぁ。この調子で盗賊活動を続けていたら、四方八方から魔法攻撃が飛んできて死亡ってオチになりそうだし。はぁ色々面倒だなぁ。


さてと。ここらあたりは巡回の騎士とか多いのかな?騎士を相手に勝つ自信ないよ?体だってボロボロだしさ。最低でも隣の国に脱出するまでは見つかりたくないよ。お願いだから真面目に仕事なんてしてませんように!


首輪をどうにかしてもらっていればもう少し動きやすくなっていたかもしれないけど、これはこれで役に立つかもしれないし、歪んだプライドが人間様の振りをすることに嫌悪感を抱かせもするからまだこのままでいいや。










西に進んで1ヶ月。やっと国境を突破することができた。途中で何度も補給したため水も食料も十分にある。もちろん町には入れないので盗賊行為の結果です。やべーっす。これで一生生活していけるかも・・・いや、かもじゃなくて出来るな、やらんけど。。


俺には追手がかかっていたかもしれないがもう国境を越えた。逃げ切ったぜ!形式上は俺の身分は奴隷から流民にランクアップといったところか?


もっと遠くに逃げなくては捕まって元の国に戻されると思っていたが、辿り着いたこの国に関して言えば大丈夫な模様。国同士の仲があまり良くないようで、奴隷の引渡しに協力なんかしないようだ。


奴隷の所有者が追いかけてきても、流民だと言い張ればいいと聞いた。あとでこの話の裏をとろう。だって刃物ちらつかせて聞き出した情報だからさ。命惜しさに俺の機嫌を取ろうとしての発言かもしれないっしょ?


お馬さんはすこぶる元気で旅はとても順調だ。景色は相変わらずの荒野。少し緑が増えたか増えないかといったくらい。しばらく落ち着ける拠点が欲しいけどどうせだったらもっと快適な場所がいい。荒野は飽きたよ。


「気配察知」で金銀ミスリルあたりを探っているが、碌に見つからないのでどちらにしてももっと自然の恵みに溢れたところに移動が必要だ。


狙うのはやはり山か。150メートル程度のスキャンで金銀なんて見つかるのかな?川で砂金的な?いやー、面倒だよなぁ。人を雇えばいいんだけど、その体制を確立するまでの苦労を思うとなぁ。絶対途中で変なヤツ出てくるぜ?


ちょっと贅沢しても当面の生活費には困らないくらいのお金はあるから急ぐことはないか。宝石や鉱物関係を緩くサーチしながら気に入る場所まで旅をしよう。


よし。まずは町を見つけて入れるかどうかから検証だ。この第一歩が躓くようならいよいよ年貢の納め時ってやつになるな。奴隷の首輪はまだ外してないし・・・どうしたって何か起きるだろうよ。

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