第40話 キーン連行

学校に視察団がやってきてから5日が経った。ミスリル化した銀貨に対する国の対応はまだはっきり分かっていないものの、俺に対しては今のところ口外禁止という処置だけで済んでいる。


世間に情報が流出したようにも見えない。もし流出していたら学校の貴族連中がもっと騒いでいるはずだ。それでも鼻がきくヤツはもう何か嗅ぎつけている可能性はある。そうなってくると俺にはどうしようもないけど、はっきり表面化しているわけではないんだ、流れは悪くないと思う。


それはつまり目に見えて危険という状況ではないということ。自分で始めておきながら、やっぱりほっと息をついてしまう。危険を承知でやったこととはいえ、安全に越したことはないもんね。


このまま時間とともに忘れ去られるような感じであれば、定期的に市場にミスリル化銀貨を流しても問題なさそうだ。当然あと数ヶ月は影響の確認をしなきゃならないけれど。


俺の計画は単純。ミスリル化銀貨を闇ルート的な所で売り捌き、まとまった資金を得ること。ミスリル化銀貨を溶かしてミスリル塊として売るなんて方法も考えたし、そちらの方が圧倒的に低リスクなんだろうけど、銀貨の形で売り捌くことに決めた。


ミスリルを溶かすって言っても俺にはそんな設備も技術もない。都合よく協力者が見つかって、そっちの処理は全部任せてくれ!なんてことになれば土下座してでもお願いしたいものだが、まぁそんなうまい話はないだろう。


それを言ったら闇ルートだって同じだろう?11歳のガキがまともに相手されるとは思えないぞ?と突っ込みが入りそうだがそこは入り易さの問題。元手も何も必要なく始められる方を選んだだけのこと。


つまり計画なんて言っては見たが、そんな立派なものじゃない。闇ルート云々は後で考えるつもりだ。何と言っても最初の関門を突破する必要があったからね。


そしてその関門は今のところ抜けれそうな雰囲気だ。さっきも言ったが、このまま大した騒ぎも起きず、数ヶ月後もそれが変わらないようであればまずは成功と言える。そうしたらこのミスリル化銀貨を売り捌くプランを考えればいい。


ただふとした瞬間に、俺なんでこんな危ないことやってんだろう?と思うことはあるよ?だってこんなリスクをとってまでお金がどうしても必要ってわけでもないんだからね。


じゃあなんでこんなことを始めたのか?はっきりとは自分自身でも分かっていないんだけど・・・異世界に転生してから、貴族とかいう理不尽な存在におびえたり、魔物や魔法とかいう凶悪な力を目の当たりにして、ストレスが溜まりに溜まっていたんだと思う。


この世界の人々は理不尽な事にも根気強く耐えているようだけれど、前世の記憶があるからなのか、俺の精神はもういっぱいいっぱいなんすよ。普段は毒吐いて平気な顔してるけどね。


頼れる両親や親戚なんかは最初からいなかった。孤児院の院長先生や同じ境遇の子供達はいたし、その繋がりは今でもすごく大事だけど、子供の皮を被ったおっさんとしてはそれだけじゃ不安だったと言うこともあるように思う。


早く自立しなきゃと焦っていたのかな?自分なら出来ると根拠のない自信もあったかもしれない。いや「自宅」の存在が俺の背中を後押ししたのか。だってそれは特別な力なのだから。


とにかく俺は何かをやってみたくなったんだよね。そしてすぐに思いついたのがミスリル化銀貨の存在だったということ。こうして改めて考えてみてもやっぱり結論なんて出ないけど、やってしまったのは事実だ。


危険があるのは百も承知だけど殺されるのは御免だけど、行動を起こした今となっては、ちょっと無理してみてもいいかなという風になってきた。


駄目だったら駄目だったでまた次のことを考えればいいじゃん!このまま文官になって安定した生活を送るって選択もあるわけだし!ってなとこです。







さて今日は家庭教師の日だ。モロン君はちゃんと宿題やったかな?最近は真面目に勉強してるみたいだからこっちとしても遣り甲斐が出てきたよ。授業が終わって寮に戻ると、早速準備をしてモロン君の家へ向かう。


もう年が開けるというのに王都は暖かい。まぁ一年中温暖な気候だから当然なのだが、こうも暖かいと公園に散歩にでも行きたくなるなぁ。


明日の放課後は公園へゴー!かな?ロッキさんとはロッキパパとの出会い以降ちょっと疎遠だし、フランお嬢様は俺の方から避けているので同じく疎遠気味。


やっぱり公園か。冒険者ギルドに行って薬草採取と狩りをするっていう手もあるけど、銀貨の件が落ち着くまでは狩りに出るのはやめておいたいいもんね。


ミスリル化銀貨の第一発見者として監視されてる可能性だってあるんだから、「自宅」を見せるリスクはおかせないなぁ。


明日の予定を考えつつモロン君の家を目指し歩いていたら、いつの間にか騎士っぽい人に囲まれた。危険な香りが煙のように立ち上っていて目が痛くなりそうなレベルですよこれ。


「文官学校のキーンだな?我々と来てもらう。ついてこい」


ほっとしていたらこれか。ある程度覚悟していたとはいえ、やっぱりこわいなぁ。一体何の用だろう?銀貨関係で間違いないとは思うけど・・・。


「騎士様とお見受けしますが、どういったご用件でしょうか?見知らぬ方について来いと仰られても遠慮したいのですが・・・」


教えてくれればラッキーだけど・・・。


「構わん。連れて行くぞ」


俺の質問は完全無視。騎士様は仲間に合図して俺の両腕をしっかりと掴んでくる。問答無用か。穏やかじゃないな。非常に嫌な流れだ。


すみませーん!誰か衛兵を呼んでくださーい!変な人に絡まれてまーす!と大声を上げておく。タダで拉致られてたまるかよ!


道行く人々は俺の叫び声になんだなんだと注目するが、俺を捕まえているのが騎士の集団なのを見るとすぐに目を逸らして消えていってしまった。


結局騎士の駐屯地らしき建物に連れて行かれてしまったよ。やれやれ。途中何度もだまれと脅されたが、人がいるうちは助けてくださいと繰り返し叫んでおいた。無駄な抵抗だったと思うが、あとで何かに使えるかもしれないから思いっきり声を張り上げておいたよ。


さて、狭い部屋に押し込められて尋問らしきものが始まった。内容はもちろん銀貨の件。ミスリル化銀貨発見から届けるまでを話した後は、質問に対して知りませんを繰り返すだけの簡単なお仕事です。


誰に指示された?だの仲間はどこに何人いるのか?だの聞いてくるが答えは同じ。

このままでは学校には戻れなくなるぞだの、死刑になるぞだのも、そういわれても知らんもんは知らんとアンサー。


全く面倒だ。俺に疑いをかけるのは分からなくもないが、根拠らしきものが一切ない。取っ掛かりが俺しかないから、結論ありきで俺から自白を取ろうとしてるとしか思えない。


こんな性急な手段でどうにかなると考えたやつの顔が見てみたいな。所詮ガキなんだからと思われたのかな?


この騎士連中が誰の指示で動いているのか確認したいが、聞いても何もこたえてくれない。変なところで用心深いじゃないか。街中で堂々と子供を拉致しておいてさ!まぁ権力を持つ側の横暴なんてこんなもんじゃすまないけどね。


しかしこの雰囲気だと今日は寮へ帰れないだろうなぁ。きっと自分達の満足する回答が得られるまでこの調子で尋問が続くんだろう。明日あたりからは体に聞いてやる!とか言い出しかねないぞ?


拷問なんて始めてみろ、こっちにだって考えはある。とはいえもうしばらくはこのままかな。今日の今日でいきなり拷問なんて・・・ないよね?


それにしても騎士様か。子供相手に大変ご立派なことで。上からの指示があっただけで本当はこんなことやりたくなかった!なんて言ってくれるなよ?お前らだけが剣を持ってるんじゃないんだぜ?


何時間経ったかわからないが、延々と知りませんを繰り返したあと、騎士に腕をとられ立たされた俺は、薄暗い廊下を歩かされて・・・牢にぶち込まれた。

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