ロマンシング・ラ・イチ・ツー
うみ
先帝の恨みを晴らす!
「先帝のガーダーを取り戻す!」
王の座に剣を掲げ、宣言する精悍な顔をした男。男の顔は左の額から斜めの傷跡が口元にかけて刻まれている。
これは、先帝と共に憎きあの女と戦った際にムチで付けられた傷だ。男は先帝から皇帝の座を託された......先帝の無念を晴らすために。
「あの時の恨みは忘れない。そして先帝の無念を晴らすのだ」
男は独白すると決意をあらたに剃髪し、スキンヘッドとなる。筋骨隆々とした大柄な体躯に顔に刻まれた傷跡はとても皇帝には見えない。
先帝の恨みを知る男の元へ、戦士達が駆けつける。皆スキンヘッドの勇士達だ。
男は戦士達に告げる。
「我こそは、あの女狐を倒す! というものは手を挙げるがいい」
男の宣誓に戦士達は一斉に喝采をあげる! 俺こそ選んでくれ! と。
「ラ・イチ様。先帝の無念、私も共に晴らさせてください!」
男――ラ・イチの言葉を待たずに口を挟んだ浅黒い肌のスキンヘッドこそ、ラ・イチや先帝と共に女狐と戦ったトミーであった。
「トミー。勇敢な君のことだ、必ずそう言うと思っていたぞ! 共に来るがいい」
ラ・イチはトミーの手を取り、天へと拳を突き上げる。これに喝采があがり、トミーは感動のあまり薄らと目元に涙を浮かべていたという。
――いざ行かん。女狐を討伐しに!
――応!
――憎き女狐! 私は許さない! 先帝の秘蔵のガーダーストッキングを奪い取ったことも許せない! 無念は必ず晴らす! 取り戻せ! ガーダーストッキングを!
――応! 応! 応!
こうしてラ・イチとトミー、歴戦の戦士二人を連れた皇帝一行は、女狐の住む古代神の塔へ向かうのだった。
◇◇◇
憎き女狐の住む部屋へとついに辿りついた一行。これまで切り伏せたモンスターは数しれず。
だが、戦士の歩みは止められない!
モンスターなぞ何するものぞ!
身の丈ほどある紅く輝く大剣を両手で掲げ、ラ・イチ一行はいよいよ女狐の部屋の扉を蹴りつける。
「うるさい輩だこと」
気だるそうな声で出迎えたのは、魔性とも言える美しさを持つ美女だった。完璧なプロポーションに流れるようなウェーブがかかった薄緑の髪。ライトグリーンの瞳に口元には泣きぼくろ。
艶やかさの中にも少女らしい瑞々しさが含まれたまさに魔性の美を持つ、この美女こそ先帝を打ち破った女狐――ロックブーツだった。
「女狐! 先帝の恨み晴らさせてもらうぞ!」
「あら、またノコノコやられにきたの?」
ロックブーツはセクシーな黒のドレスを身にまとっている。頭には美しいライトグリーンの髪をさらに彩る赤いバラ。黒のドレスの裾は細かい意匠を凝らしたレースとなっており、彼女はスカートの裾にあるレースをつまみ、たくし上げる。
美しいむしゃぶりつきたくなるような美脚から見えるのは、黒にバラの意匠が施されたガーダーストッキング!
これこそ、先帝が血を流し、努力し、汗水をかけた一品!
「貴様! そのガーダーは!」
瞬時に怒りが沸騰したラ・イチ。憤怒の形相でガーダーを睨みつける。
「あらあら、お盛んなこと。いいわよ。かかってきなさい」
「かかってきなさい」と言いつつも、ロックブーツは片手を唇に当て、艷絶に微笑むのだ。この笑みは不味い! これから来る攻撃はまずい! ラ・イチは恐怖する。俺にあれが耐えれるのかと。
「不味い! 一気に行くぞ!」
ラ・イチの掛け声と共に弾かれたようにトミーらが剣を振りかぶり、ロックブーツに斬りかかる!
だが、彼らの動きは止まってしまう。
見ると、ロックブーツの唇に当てた手が、唇から離れている。
恐るべき攻撃をロックブーツは行っていた!
それは、
投げキッス!
ロックブーツの投げキッスにメロメロになってしまったトミーらは腰が砕け、地に伏す。
「トミー!!!!!」
ラ・イチは絶叫する! おのれロックブーツ! 女狐よ! 俺は許さない!
ラ・イチは怒りの絶叫を発しながら、大剣をロックブーツに向けて振りかぶる!
ロックブーツの投げキッスがラ・イチに襲いかかるものの彼は意にも介さない。
大剣が振り下ろされるものの、怒りのため軌道が読みやすくあっさりとロックブーツにかわされてしまう。
「あらあら。困った坊やだこと」
いつの間にかラ・イチの背後に回っていたロックブーツは、彼のハゲ頭をナデナデしつつ困り顔だ。
「貴様!」
ラ・イチは振り返り、ロックブーツを凝視する。
これがいけなかった。
ロックブーツはスカートをたくし上げ、下半身全てがラ・イチの視界に入る。
黒いパンツから出る黒い紐には意匠を凝らした赤いバラの刺繍が彩る。ガーダーと理想的な美脚のコントラストにラ・イチは怒りも忘れ見入ってしまった。
そこへすかさずロックブーツがラ・イチに抱きついてくる。
ラ・イチの胸に指先を当て、つーっと指を動かすロックブーツはつま先立ちになり、彼の唇を奪う。
入ってくるロックブーツの舌を噛み切ってやろうと考えたラ・イチであったが、その思いは一瞬にして霧散する。
陶酔とロックブーツへの愛情が途端に湧いてきたラ・イチは、ロックブーツを抱きしめる。
唇が離されると、ダラリとお互いの唇から糸が垂れる。
もう以前のラ・イチはここにはいなかった。
満足した瞳でラ・イチを見つめるロックブーツは彼に一言。
「可愛い子猫ちゃん、さあお行きなさい」
「はい。ロックブーツ様」
ラ・イチは陶酔した表情のまま、ロックブーツの居室を後にする。彼の使命はこの塔を守ること。
命尽きるまで門番を果たそうと心に誓うラ・イチであった。
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