第30話 キーワードを入力する

「リュウは髭が伸びて来てるか?」


「当たり前だろぅ。髭は伸びるさ」


 さも当然のようにリュウは答えたがこれは大きな発見だ。どうやら竜二の体は生身のようだぞ。代謝が無いゴルキチとリベールの体に対し、竜二の体は代謝がある。これも一つの手掛かりだな。

 俺がゲームで使っていたキャラクターはリベールとゴルキチだ。俺自身はもちろんゲームに存在しないから、俺だけ生身なのか? それとも地球に俺がいるのか? 見えて来ないなあ。


「リュウ。何か入れ替わった後に不思議なことは無かったか?」


 一応情報が無いか聞いておこう。まあ、一応。


「あるぜ!」


 何! 予想外過ぎる!


「俺は目が覚めた時、頭に浮かんだ言葉がある。それはアルファベットのDだ」


 アルファベットのDか「W」と何か関わりあるのか?


「んー、何かのヒントなのかなあ」


「さぁなぁ。何かあるかもしれないぜ! 俺のトレジャーハント魂がそう言っている!」


 暑苦しい奴だな。俺の顏だからよけい腹が立つんだが。

 で、トレジャーハントって! ジャッカルとモヒカンの愉快な仲間たちは、盗賊でも追い剥ぎでもなくトレジャーハンターかよ。

 ゲームでのトレジャーハンターは財宝の地図を手に入れて、宝箱を探す職業だった。

 この世界でも名前で判断するによく似たことを行うのだろう。


「トレジャーハンターって、宝の地図とか探したりするのか?」


「ああ、そうだぜ! 世の中には未だ見ぬお宝が沢山あるんだ。遺跡にも秘境にも深海にもなぁ」


 リュウは上機嫌にトレジャーハンターの仕事を語っている。この時ばかりは目が少年のように輝きを放っている。本当にトレジャーハントが好きなんだな。


「謎解きも好きなのか?」


 トレジャーハンターならきっとそうだろうと思い聞いてみると、ジャッカルとリュウは揃って頷いていた。

 今回の入れ替わり現象も謎解きだよ。リュウは当事者になってしまったとはいえ、少しは楽しんでるかもしれない。

 もし悲観的以外の感情があるなら、自分たちから積極的に動いてくれるかもしれないから少し期待してしまうよ。


「俺たちの入れ替わりが何故起こったのかの謎は解かないとな」


 俺が拳を突き出すと、三人が手の平を俺の拳へ順に乗せ「やるぞ!」の声を待っているようだ。


「よし!いっちょ謎解きを!」

「おう!」


 三人の声は重なったのだった。俺たちは今日のところはいきなりの話でもあったし、気持ちを落ち着け明日またここで落ち合うと約束し解散となった。

 よおし、よく分からない流れだけど、全員協力して謎に挑めそうだ。



◇◇◇◇◇



 食事の後、俺はゴルキチに懸念していることからまず話をすることにした。


「ゴルキチ、蜘蛛のことだが不味いことになってる」


「蜘蛛は苦手だ」


 ゴルキチはかなり嫌そうな顔で答えるが、重要なことなので聞いてほしい。


「俺は蜘蛛が苦手じゃないんだが、さっきリュウの蜘蛛の刺青が目に入っただけで身動きできなくなったんだ」


「何!」


「見えなくなれば平気だから。いざとなったら俺の目をふさいでくれ」


「わ、わかった」


 とりあえず見えなくなりさえすれば何とかなるんだ。目隠しして動けるか? というと戦闘用AIなら問題なく動けるが、他はきついな。「天空王」は自分をシステムのくびきを逃れた存在で俺はシステムを使える存在だと言っていた。

 となると、俺はリベールの「蜘蛛嫌い」という「設定」に縛られるのか。他にも縛られるものがあるのかもしれないから注意しないと。いざという時に足元を掬われそうだよ。


「それはそうと、君の体が見つかって良かった」


 ゴルキチが笑顔で俺の肩を叩くが正直微妙な気分だよ。リュウは刺青するわ、ピアス開けるわ。たった十日程度でよくあそこまでやってくれるよ!


「あ、ああ」


 乾いた笑いをあげる俺にゴルキチは少し目を伏せ、


「君は思ったよりうんと男前だったよ。ビックリした」


 恥ずかしそうに少し顔を赤らめるゴルキチの様子から、本気で言ってるような気がする。

 冗談言うな! あれのどこが! 間違った大物感を出した小悪党がしっくりくる。


「う、嘘でもう、嬉しいよ」


 声が上ずる俺にゴルキチは「嘘なんかじゃないさ」と熱く語りそうだったので、手で制する。

もう、俺の精神力は限界だー!


 ゴルキチの発言で何考えてたか不明瞭になってしまった。


 当事者がようやく集まることができ、リベールとゴルキチの体は何か秘密がありそうで、竜二の体は転移したのかはたまた地球の竜二のコピー(転生)なのかどちらかは不明という状況だ。


「どうせ入れ替わるなら、君に成りたかったよ」


 まだゴルキチが何か言ってる! もうやめてくれ。そうだな、キャラクターチェンジできれば良いんだが。


 その時突然、俺の脳内ディスプレイが表示される。


<キャラクターチェンジしますか?>


 何! しかし、表示されたキャラクターはリベールのみ、リベールをクリックすると、プレイヤー名竜二と表示されていて、プレイヤーの一覧表示もプレイヤーの変更もクリックするが反応しない!


 試しに、ゴルキチの頭を鷲掴みにして再度キャラクターチェンジと念じる。


 すると、表示されたキャラクター名はゴルキチとリベール!

 ゴルキチをクリックし、プレイヤー名をクリックするが、


<エラー、キーボードで入力してください>


 と出る。

 ん、パスワードかキーワードか......思いつくのは「W」と「D」だ。ダブル=二人、DはDo――実行か。

 実行はともかく、ダブルは意味合いが合わないなあ......


 キーボードを想像すると脳内にキーボードが表示される。これは予想通り......マウスと同じ要領だ。

 物は試しだ。

 「W」「D」と入力!


 お、操作する人――プレイヤー名一覧画面が出たぞ。プレイヤー変更のボタンも出る。

 プレイヤー名一覧で選択可能なのは、残念ながらリベールしか表示されてない。

 同じ要領で、リュウとゴルキチに同時に触れてどうなるか試そう。


 一方、プレイヤーの変更ボタンはクリックできるものの、選択可能なプレイヤーが一覧表示と同様にリベールしかない。


「どうしたんだ?」


 ハゲ頭を掴まれて不機嫌そうなゴルキチに対し俺は喜色を浮かべていたので、彼には不気味に見えたことだろう。


「ゴルキチ。一つ発見をした。ひょっとしたら入れ替わりが出来るかもしれないぞ!」


「おお。少しは進展したようだな。またどうなってるのかまとまったら教えてくれ」


 ただ、俺の名前が表示されていたリベールのほうはキーワード入力が表示されなかったから、ゴルキチとリュウなら可能かも程度なんだが。 ゴルキチはもちろんリュウにも俺の知るゲームの知識はもちろん無いので、説明するとなるとなかなか困難なんだ。

 今までの説明からゴルキチはその辺りを理解しているようで、すぐに説明は求めてこない。

 しかし......ここ二日、あまりに情報量が多かったので頭がパンクしそうだが、全部が全部把握しきれてない気がする。一度情報をまとめよう。

 と考え始めていたらいつの間にか俺は寝てしまっていた......



 翌朝、地震で目が覚める!

 ゴルキチも床の揺れに気が付いたようで、彼はすぐに起き上がり、部屋の窓から外を眺めて何が起こっているか伺っているようだ。


 地震といっても、揺れたのは一瞬でこの揺れは何か地震と違うような気がする。一体何が起こったのだろうか。


「リベール、どうも外が騒がしい。急いで着替えよう」


 ゴルキチが言うには、馬車を朝から走らせる人が目に入ったり、昨日いた兵士も慌ただしく広場へ向かって移動している。不安そうな住民の顔......これは何か起こっているはずだ。

 単に地震ならいいんだけど、一体何が?

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