第25話 ジルコニア到着
馬車に入り、就寝前布団を被りながら俺は髪が伸びないことについて考えを巡らしていた。
ゴルキチの髭が生えないこと。恐らくリベールも同様だと思う。生理の話から想像するに、入れ替わる前のリベールはちゃんと髪は伸びていたし、代謝も進んでいたはずだ。
この現象は何故なんだろう。俺が来たことでゲームシステムがリベールとゴルキチに何か影響を及ぼした? この体は何となくだけど歳も取らないんじゃないかと思う。
そう、これはキャラクターを実体化させたものに近いんじゃないかと思う。限りなく人間に近いが、非常に作りのいいゲームキャラクター......アバターなんじゃなかと思えてくる。
いずれにしろ、ゲームシステムが関わってきそうだ。
「どうした? 眠れないのか?」
隣で寝転ぶゴルキチが百面相をしている俺を心配して聞いてくる。
「いや、俺たちの不思議な体について考えていた。入れ替わりの現象と何か関わりがあるんじゃないかとね」
「うーん、あるかもしれないなあ。ひょっとしたら、ゴルキチもリベールも本来の体がどこかにあるのかもな」
冗談めかしてゴルキチが言った言葉に俺は少し衝撃を受けていた。なるほど。その考えもあるか。俺がリベールと入れ替わったんじゃなく、アバターの「リベール」が誕生した。
俺はリベールと入れ替わり――憑依したのかと思ったが、そうではなくアバター「リベール」に転生をしたのかもしれない。
いずれにしても、ゴルキチのおかげで考えが固まらずにすんだ。
「なるほど。ありがとう。ゴルキチ」
「ん? よくわからないが。うん」
俺はお礼にゴルキチの頭をナデナデしてあげたら、ゴルキチは逆にお怒りモードになってしまった。彼は頭を撫でられると子ども扱いされてると思うらしい。
そういうつもりじゃないんだけどなあ。やり返したつもりなのか、ゴルキチが俺の頭を撫でて、髪を手で梳ってくる。
頭を撫でられると気持ちいい。もっと撫でて欲しくなる。ハッ! 女性化してる気がする。いや、男だって撫でられると気持ちいいはずだ!
気持ちいいのと、安堵感が沸いてきたことで急速に眠くなってきた。
「おやすみ......」
俺は最後まで言葉を紡ぐことが出来ず、眠ってしまったのだった。
◇◇◇◇◇
翌朝俺たちは街道に出ると、街道沿いに馬車を進める。海岸線が常に見えて波の音が心地よい音色を奏でている。日差しはポカポカと心地よく、馬車の揺れが眠気を誘う。
俺はゴルキチの横に腰かけ彼にもたれかかっていたが、波の音を子守歌にいつしか眠ってしまっていた......
起きるともう昼を過ぎていた。いつも間にか馬車の中に寝かされていたらしい。馬車から出るとゴルキチがお昼の準備がちょうど出来上がったところらしく、ハムを挟んだサンドイッチを手渡してくれる。
こうやってのんびり旅をするのは、リベールに成って以来初めてな気がするなあ。ゴルキチとたわいもない話をしながら、恐らくあと二日はかからないジルコニアに二人で思いをはせていた。
旅は特に滞りなく進み、翌日の夕方にはジルコニアまで到着した。だいたい二日か三日かかると踏んでいたが、丸二日で到着したというわけだ。
天気が良かったのが幸いだった。街道を走らせていたので馬車が足を取られるトラブルも無かったのも大きい。
街道は石畳で舗装されていて、非常に快適に馬車を走らせることが出来たんだ。どこまで石畳の街道が続いているのか分からないけど、ここまでのインフラを整えるには相当手間だぞ。
街道を作るのに何年かかったのか不明だが、この街道を整備していることだけでもすごい経済力を目の前の港町ジルコニアから感じる。
巨大な街は一つの都市。ゲーム内最大の港町ジルコニアは、都市と国の機能を兼ね備える都市国家だった。誰かが冗談めかして言ったものだ「ジルコニアは世界の半分」と。
入り江の中心に作られたジルコニアの街は入り江を囲むように街を広げている。俺たちは街から見ると南東側の門を目指していたが、もう入口の門は目前まで来ており、日が暮れそうな時間帯なのにまだ人の往来があるのに人口の多さと活気を感じた。
門では簡易的な手荷物検査が行われるようで、順番待ちの人を相手にした露店が門の左右に軒を連ねている。
俺はゴルキチに馬車を見てもらいつつ、露店を見に行った。いい匂いがあちらこちらから漂ってきて、ゴルキチから貰ったお小遣いを握りしめる手にも力がこもる。
君に決めた!
「すいません。これ二本くださいー」
何の肉か分からなかったが、大きめの肉の塊を三つ串に刺した照り焼き風の串焼きを買うことにする。
「あいよ」
愛想のいい店主が串を二本包んでくれて、小銭を渡し串を受け取る。
ゴルキチに一本串を分けて、肉にかぶりつく。なかなか旨い! 味付けは照り焼きで、肉は豚と牛の中間くらいかなあ。何の肉か分からないけどおいしい。
食べ終わる頃に入場受付の順番がやってきたので、荷物を守衛さんに見せる。
「おお、紅亀の甲羅か。これを売りにジルコニアに来たんだな?」
守衛さんが勝手に勘違いしているので、頷いておく。
「うん、いい値段で買い取ってくれるお店しらないかな?」
ついでなので、守衛さんに小銭を握らせて聞いてみると二軒ほどお店の場所を教えてもらった。これで甲羅が捌けそうだ。よかったよかった。
門を抜けると、大きな通りになっていて左右には白いレンガの二階建ての家が立ち並ぶ。屋根が赤色で統一されておりおとぎ話に入り込んだようだ。
大通りは白いレンガが敷き詰められていて、左右の家はそのまま店舗になっているところや、家の前に露店風で商売をしているところもある。
ゲーム内のジルコニアの街に類似していて、実物は見たことがないものの既視感がある。ゲームでは十七世紀頭ごろのリスボンをイメージした街だと説明していたが、実物は大違いだ。
実際の街の息遣いを感じ、俺は感動を覚えていた。街はもう暗くなってくるというのに歩く人は多い。
この世界に来て以来街に来たことがなかったのもあるが、本当に人が生活しているんだと実感できて、俺は違う世界にきたんだなあとあらためて思う。
「ゴルキチ、人がいっぱいだ!」
子供のようにはしゃぐ俺にゴルキチもヤレヤレといった様子だ。
「子供じゃないんだから。馬車が停められる宿屋を急いで探さないと日が完全に落ちてしまう」
もう、ゴルキチだってはしゃいでるのは分かるんだぞ。俺ほどじゃないだろうけど。しかしゴルキチの言うことも最もだ。馬車持ちだとと幅を取るし大通りしか進めない。
上手く宿があればいいが、なければ街の外で野営だ。街まできて野宿はちょっと堪える......できればお風呂にも入りたいし。
「そうだな。楽しむのは後にしよう」
「全く、ほんとに君は......情報集めるんだろ」
分かってるよ。そんなことは! ちょっとくらい楽しんでもいいじゃないかー。いや、ゴルキチも俺と似た気分のはずだ。あえて抑え役になっているんだ。
幸い大通りを少し入ったところに、馬車ごと停められる宿があったので、本日はそこに宿泊することにした。
この宿は二階建てのレンガつくりで、ジルコニアの他の建物のように赤いレンガの屋根になっている。馬車を停車するスペースとデイノニクス用の厩舎まで備えており、もちろん別料金だが馬車持ちには嬉しい宿だ。
食事も頼めるし、公衆浴場まである。浴場はどこの文化か知らないが、男女別だ。男女別の風呂文化って地球じゃ結構後にできた風俗なんだけどなあ。まあ、汗が流せるのがいい。
俺たちは宿の部屋を確認した後、風呂に向かう。もちろん盗みを警戒して一人は部屋に残す。
「ゴルキチ、先に汗流してくる」
ゴルキチが先を譲ってくれたので俺はお風呂に向かうのだった。
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