第6話 特徴は無敵
親方とゴルキチが談笑している間にも、俺は両手槍から確かめていく。
一番小さなサイズの槍は反応せず。次に二番目に小さな槍を手に取る。
「これだ!やったぞ!」
突然歓喜の叫び声を上げる俺に、親方とゴルキチは怪訝そうな顔をするが、そんなことはどうでもいい! 二人からリベールは虚ろな目でどこかにトリップしているように、見えていることだろう。
槍を手に取ると、脳内にパソコンのデスクトップ画面が浮かぶ。使用可能なモーションや戦闘AIの一覧が表示され、俺は歓喜する!
なるほど、微妙にサイズの違う五種類の槍は、ゲームの身長設定とリンクしているのかもしれない。ゲーム内での身長設定は五種類あった。リベールは小さいほうから二つ目の身長になる。だから、二つ目に小さいサイズの槍に反応したのか!
これでリベールの武器を「操作」することはできそうだ。槍ならば「天空王」に挑むことができる!
ようやく調査のスタートラインに立てたわけだ。残りは蜂蜜熊と戦えば判明するかもしれない。それは絶望か希望か分からないが。
「あははは。素晴らしい! 素晴らしい!」
狂ったように笑い声を上げ飛び跳ねる俺に、二人は完全に引いていた。ゴルキチは引きつった笑みを浮かべながらも、飛び跳ねた俺のスカートの裾を気にしていたように見えるが......
「リベール。武器は見つかったのか?」
ゴホンとわざとらしい咳をゴルキチがするので、俺は我にかえり赤面してしまう。
「ああ、親方。素晴らしい武器をありがとう。槍と斧を一つづつ欲しいんだけど......」
俺の言葉にゴルキチは察してくれたようだ。
「リベール、お金は必要ない。言いづらいんだが、つまり」
口ごもるゴルキチに親方が助け舟を出す。
「つまりあれだ。生贄が戦うことを選ぶ場合には無償で提供するってわけだ。最後のはなむけってやつだな」
悪びれた様子もなく親方は肩を竦める。
「なるほど。生贄は業腹ごうはらだが、武器が手に入ったのだから悪いことばかりではないか」
俺は親方に言葉を返し、それで納得することにした。いずれにしろ武器が無ければ何もできない。
「親方、出来ればこのサイズと同じ槍を三本ほど準備していただけないか?」
俺が親方にお願いすると、親方はあっさり了承してくれる。槍が壊れることも想定して複数予備が欲しい。リベールに持ってきてくれた両手槍はミスリルという金属でできた良質の槍だ。
白銀の輝きを放つこの両手槍は無骨ながらも耐久性は非常に高いと推測される。戦闘中に槍が折れたらそれで試合終了なので頑丈なことは非常にありがたい。
「親方。この槍はミスリルじゃないか。大丈夫なのか?」
あっさり了承した親方に、待ったをかけるゴルキチへ親方は「問題ない」と返す。
金属には鉄とミスリルがあり、ミスリルは鉄の二倍の値段がする。その分耐久性が高く、切れ味も鋭い。
さらに上位の武器になると、鉄かミスリルをベースにモンスターの素材を加えたものになるが、今は考える必要はないだろう。
◇◇◇◇◇
上半身は薄い革鎧、下半身は藍色のスカートにスカートをガードするような革の段平。これはスカートガードと言われる女性用の防具になる。背にはミスリル製の両手槍。腰には蜂蜜壺といった装備で、リベールはゴルキチを引き連れ森の奥へ奥へ歩いている。
しっかし、リベールの装備はスカートばっかりだな......ズボンが欲しい。一応スカートの下には厚手の藍色のタイツを履いてはいるが......やはりズボンがいい。
俺がそんなことを考えてるとも知らず、ゴルキチは真剣な表情で森の奥を伺っている。
森の中でも開けた場所というのは幾つか存在するものだが、朽木がポツポツと点在する森の広場で蜂蜜熊を発見する。
蜂蜜熊はツキノワグマより二周りほど大きな熊で、体長はなんと四メートルを超える巨体だ。
蜂蜜を食べているからか体毛がハチミツ色をしているため、遠目で見ると可愛らしく見えるが、事実可愛いなんて表現できるモンスターではない。俺の頭より大きなカギ爪に、兜を被ったような外骨格に覆われた頭。
蜂蜜大好きなはずなのに、口から生える牙は下手な肉食獣より鋭いと、危険極まるモンスターだ。
俺はゴルキチから一抱えもある大きな壺を預かり、蜂蜜熊からは見えないギリギリの位置に壺を設置し、壺の蓋を開ける。
静かにゴルキチと共に壺に近い茂みに身を隠すと、自身の腰にぶら下げている蜂蜜壺の蓋を開き、小枝をそこに突っ込むとすぐに蓋を閉じる。
蜂蜜が先に付いた小枝を蜂蜜熊に向かって放り投げると、奴はすぐに小枝に気がつき興奮した様子で、小枝を投げた俺たちを探そうとするが、小枝に付いた蜂蜜の匂いにすぐ囚われ、小枝を舐め始める。
小枝にほど近い大きな壺から出る蜂蜜の匂いに気がついた蜂蜜熊は、壺にゆっくりと「二足歩行」で近寄っていく。
ゲーム内と同じだ。蜂蜜熊は熊とそう体躯は変わらないが、何故か歩行が二足歩行なのだ。
明らかにバランスの悪い二足歩行ではあるのだが、何故かそれなりの速度で走ることもできる。蜂蜜を掴むために二足歩行ができるよう進化したと、ゲーム内では語られていた。
壺を前足で器用に掴み上げ、壺を傾けながら蜂蜜を味わう蜂蜜熊。この動きもゲーム内と同じだ。
動物としては明らかにおかしい動き。関節の作りとか物を掴むに適しているとは決して言えない。 見ていても壺を掴むのが苦しそうに見えるが、狂気とも言える蜂蜜への執着が奴にそうさせるのだろう。
「ゴルキチ、倒してくる。見ていてくれ」
俺は小声でゴルキチにそっと告げ、背中から両手槍を取り出し、掴む。
戦闘用AI起動。対蜂蜜熊 両手槍モード。
戦闘用AIが起動すると、自動でメッセージが俺に流れる。地形を読み取り、蜂蜜熊の全身を読み取り、自身の全身を読み取る。全ての挙動が戦闘用AIに取り込まれていく。
<全てのデータを取り終えました。戦闘用AI起動します>
メッセージが脳内に流れると、勝手に体が動き始める。
「ゴルキチ、見ていろ。これが、無敵とあなたに伝えた技術だ」
俺はゴルキチへ宣言し、蜂蜜熊へ向かって行く。
自動操作モードになったリベールの体を俺は全く動かすことができない。全て自動。ただ完全な計算だけがリベールを動かす。
あえて大きな足音を立てながら蜂蜜熊へと駆けるリベールに、蜂蜜熊は蜂蜜壺を大事に地面へ置いたあと咆哮をあげ威嚇する。
威嚇に動じることなど微塵もなく、無表情に両手槍の石突で地面を二度叩くリベール。これを挑発と受け取ったのか、蜂蜜熊は二本の足ながら人並の速度で一気に距離を詰める。
これに対しリベールは半歩右へ動いただけ。
蜂蜜熊の右手のカギ爪がリベールに迫るが、リベールは上半身を僅かに左へ傾け紙一重で避ける。 ただ避けただけではない。上半身を傾ける動作は「攻撃」動作の始まりだった。リベールは上半身を僅かに傾けると槍を下から突き上げる。
そこへ右のカギ爪を空振りさせた蜂蜜熊が飛び込んでくる。
まるで自ら吸い込まれるように......蜂蜜熊は槍の穂先へと自らの頭が向かってく。
蜂蜜熊の絶叫が響く。
リベールは槍を引くと半歩左へ、その脇を蜂蜜熊の左手がすり抜けていく。リベールが再度槍を突き出すと、今度は蜂蜜熊の肩に当たる。
肩に当たった反動で少し後ろに飛ばされるリベールの胴体前に、怒り狂った蜂蜜熊の左手が飛ぶ。
しかし鋭いカギ爪は、リベールの革鎧から僅か数センチを通過していく。
これがリベールの自動操作モード。敵と味方の位置・体勢・地形全てを計算し、完全なる予定調和を演出する。
一見すると何もないところを突いているように見える攻撃は、全て相手に当たり、攻撃の準備動作でさえ回避となる。
激化する戦いには外からは見えるだろうが、リベール自身一切心の揺らぎはない、ただ流麗に槍を振るう......
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