二重の虹②

鏡には、いつもより高い位置で髪を束ね、何故か色付きのリップが塗られた唇、そして何か足りないものが……メガネだ。

「え? 何これ。私昨日何やってたっけ?」

「心優が……! 遂に女子力を磨き始めた……!」

咲っぺは両手で顔を覆い、感動している。歩は眉間にシワを寄せて『こいつ頭大丈夫か?』とでも言いたそうにしている。

「……あ‼︎ 私恋愛モノ書こうとして女子力高めって何か考えてたんだった! 明け方に起きたからほぼ寝ぼけ眼で……!」

「なんっじゃそりゃあああああ‼︎‼︎ 心優! 今日は2人で出かけよう!」

勢いよく顔を上げると、咲っぺはそう叫んで私の肩を掴んできた。

「え、何急に」

「いいから!」

急に咲っぺは強引に予定を決め、私たちは本日、ショッピングという女子力高めなイベに参戦することとなった。


***


「やっぱり心優はこういうの似合うと思うんだよね〜」

「あ、あの……咲っぺ……。これあんまり着ない色なんだけど……。は、派手じゃない……?」

「何言ってるの! さっき心優のクローゼットの中見た時ビックリしたんだけどっ⁉︎ 何あの超絶地味な服の数々! お前はJKというものを舐めている!」

彼女は冷ややかな目でこちらを見つめてきた。

「割と派手めな服も一応あるよ? 普段全く着ないけど。てか、JK舐めてるってどういうこと⁉︎」

「割と派手め……。どうせ中学の時のダッサいジャージでしょ。あの……凄い色の赤。そりゃ普段着るわけないよね……」

「……仰る通りでございます。申し訳ございません」

「そもそも、この服派手って言わないからね⁉︎ まだおとなし目だから! 東京のギャルを見なさいよ!」

私は彼女の言葉にぐっと黙ることしかできない。

「んー……。心優はスカートもほとんど持ってないみたいだから……。あ。これは? 心優短いの好きじゃ無いだろうし、このくらいだったら良いでしょ?」

「うん、このくらいなら平気かも」

「よし! じゃあ、次はあっちね!」

そう言って私の手を引いて歩く。その横顔は、私よりも彼女の方が楽しそうに見えた。


***


「いや〜大分買ったね! これでいつでもデートに誘われても心配なし!」

駅前のカフェに入り、お茶を飲んでいると、彼女はグッと親指を立てて見せた。

「え、デートって……。それは無いと思うけど……」

「そんなこと言ってさ、心優って意外と隅に置けないっていうか……。実際、ちょこっとイメチェンするだけでも可愛くなると思うんだよね〜。素材が良いのに心優は地味すぎる」

今結構グサッと来たかな。地味なのはわかってるんだけどっ……

「で? 心優は快斗と望先輩というバスケ部の星に告られちゃったワケだけど、どっちを選ぶワケ?」

「うーーん……。なんか、迷ってるって言うより、困ってる」

「……。どちらも嫌ってこと?」

「ううん。どっちを好きなのか、または好きになれるのかわからないの。……そう、男として見られるか(?)」

鼻のあたりに運んだ指が、眼鏡のブリッジに触れないまま自分の鼻に触れる。

「そっちかぁ……。って、心優眼鏡ないの慣れてなさすぎ。面白すぎるっ……」

咲っぺは私の様子を見て笑みをこぼした。

「そんなに笑う? っていうかさ、咲っぺこそなんか誰かに告られたとかないの? 咲っぺ可愛いからモテるでしょ」

「あーー……。今年に入ってから3回告られたかな。全部お断りしてるんだけどね」

彼女はつまらなさそうに紅茶に口を付ける。

「3回か……。え、私そんな話聞いてないんだけど⁉︎ ちょっと話聞かせてよ」

「んーとね、1人は陸上部の1年で、顔面偏差値は割と良かったんだけど、声がイケボじゃなかった。2人目は同学年で知らない人。生理的に無理だって思った。3人目も同級生で、修学旅行の時告られた。滑舌悪すぎて何言ってるかわかんなかったからとりあえずお断りした」

「……。凄いな。生理的に無理って……」

「なんか、話だけだったら割と私って最低女っぽいよね」

「いや、同学年については私も多分無理だ……。陸上の後輩ダメなんだ?」

「年下ってあんまり好きじゃない……」

そう言うことでしたか。

そんなこんなで私たちの恋バナ(?)は続き、ケーキのおかわりも食べ終わる頃。


「あれ、君たち今ヒマ? なんなら一緒に遊びに行かね?」


ナンパにあってしまった。

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