プライベート②〜リア充ワールドにガチで引き込まれそう。

帰宅したら、

 その後も修学旅行はドタバタしながら順調に行き、遂には神尾まで帰ってきてしまった。

「いやー、疲れたね! なかなかハードだったし、色んな意味で大変だったし!」

 卓人は楽しそうにそう話しているが、私はどんよりとして頷いた。その理由ワケは、ほんの数時間前……。


 水澤さんからの着信があった。

「もしもし」

 いつも通りに応答すると、水澤さんの、珍しく焦ったような声が聞こえた。

『OWLさん、今日帰ってくるんですよね⁉︎』

「……はい」

『あの、落ち着いて聞いてね?』

 水澤さんはそう前置きして、

『新しいオファーが来ちゃったんだけど、それが来週までなんだよね……。どうする?』

 と聞いてきた。来週はキツイので、お断りしようとしたその時、水澤さんの口から、最大手とも言われる文芸雑誌の名が零れた。

「……マジですか⁉︎ それ‼︎」

『本当の話だよ』

「今日って、エイプリルフールじゃないですよね⁉︎」

『全然違うから安心して』

 どう頑張っても、動揺を隠せないのが私。かなりどうでも良いことをひたすら質問しまくった後、私はオファーを引き受けたのだ。


 しかし、今少し冷静になってみて考えると、来週の金曜までという締め切り。今日が木曜だから……。キツイ。

 なんで引き受けたんだ私! 馬鹿なのか⁉︎ 馬鹿なんだろ私‼︎ うおおおおお‼︎

 私はガックリとうなだれて、自分を責めまくった。

 その時、誰かが私の肩を軽く指でつついてきた。

「大丈夫?」

 振り向くと、心配そうに眉尻を下げた快斗が。

「ダイジョーブダイジョーブ」

「全然大丈夫に見えないな。荷物持ってやるよ」

 さり気ない優しさ。こういう時、本当に救われる。天使だよこの人。昇天できる。

「じゃあ、お言葉に甘えて……」

「おう! ……重っ」

「やっぱり良いや」

「駄目だって! 俺に運ばせて!」

「……うん」

 彼は耳まで赤くして強がった。こういうの、本当に健気っていうか、癒しっていうか……駄目だ。私完全に疲れてるな、心が。

「おたく」の玄関前まで来ると、私はハッと息を呑んだ。

 車が停めてある。水澤さんが来ているようだ。

「ごめん、快斗、その荷物適当に部屋に置いといてくれる? あとでなんか奢るからっ!」

「お、おう……」

 私が早口で言うと、彼は少し驚いたような表情を見せて、頷いた。

 私はそれを確認すると、リビングへと駆け込んだ。

 水澤さんはコーヒーを飲んでおり、私の顔を見た。目が合い、私が彼に歩み寄ろうとした、その時-

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