修学旅行
お静かにお願いします
京都、奈良、大阪、広島を巡る修学旅行が本日から始まった。
「うおおお! 富士山っ! あそこに富士山が見えるっ!」
卓人は目をキラキラさせ、車窓から見えるそれを指差して言った。
「うるさいな。ガキか」
咲っぺは、私の隣でボソッと呟いた。
「いやいや〜咲もガキやろ〜!」
「何。エロ川。文句ある?」
咲っぺの鋭い眼光が彼を突き刺す。彼は、はうっ、と言って胸を押さえて縮こまった。
「そうピリピリすんなよぉ〜! レッツエンジョイ修学旅行‼︎」
卓人は酔っ払いみたいなノリでヘラヘラと笑った。咲っぺは眉間にしわを寄せたままだ。
「大丈夫? 酔ったの?」
「……ちょっとね」
快斗が咲っぺが不機嫌な理由を突き止めた。恐るべし、リア充の気配り!
「袋いっぱい持ってるから、一枚あげる」
そこに負けじと入って来たのは、先程までグッタリと死んだように眠って居た佑だった。
「ありがとう……。佑はヘーキなの?」
「寝たから」
昔からそうだ。佑はすぐ乗り物酔いをするのだが、30分程眠っただけで復活する、恐るべき回復力なのだ。ゲーム内の世界でも十分生きていけるよ。うん。
「しっかし、不安やなぁ〜」
うずくまっていた合川君がムクッと起き上がり、呟いた。
「何で?」
「咲が鹿を食べそうで……」
「生では食わない。安心しろ、合川。その代わりお前を川にでも突き落としてやる」
最近、咲っぺの言葉遣いが荒くなってきている。多分、こうやって男子とつるむことが多くなったからだろう。しかも、ちょっとドキッとするような物騒な発言をする。何があったんだろう……。あ、そういえばこの前、グッズ買えなかったって言ってぐずってたな。あれか。
「そういえば、今日は心優おとなしいね。どうしたの?」
向かいに座った卓人が顔を覗き込んでくる。ニヤッと笑い、あれか、と言った。
「『誰それと離れちゃうなんて……イヤッ‼︎』みたいなやつか」
彼はワザとらしい、何よりこちらがイラッとするような演技をしてみせた。それになんでそんな声が出せるの。女子かっ! 女子なのかっ‼︎あ、そうだよね、快斗とイイ感じになってるもんね。
「そんな存在居ないんだけど。変なこと言わないでよ」
卓人と合川君はえーっ、と残念そうな表情をしていたが、後の2人はホッとしているように見えた。気のせいだろうけどね。
「咲っぺ、あのさ……」
話しかけようとすると、ポケットに入っているスマホが振動した。
画面には、水澤さんからのメッセージが来ていた。
「アッキーからじゃん。何だって?」
咲っぺは画面を覗き込み、ニコッと笑った。
「んー……。『修学旅行、楽しんできてください。』だって」
「珍しく普通だね」
「ね! ビックリ……あ。また来た。ゲッ」
咲っぺはスマホの画面を覗き込んできては、苦笑いした。
『帰ってきたら沢山の原稿が待ってますからね……』
ご丁寧なことに、ニヤァ……っと意味深な笑みを浮かべた絵文字付き。
「アッキー、相変わらずのドSっぷりだね〜」
「私は嬉しくないけどね……」
咲っぺと2人で話していると、正面の卓人と合川君が騒ぎ立てた。
「アッキーって誰⁉︎」
「やっぱ八生、そーゆー存在いるんやないか! 隠すの下手すぎやな!」
2人は顔を真っ赤にして「アッキー」という人物を想像してはキャーキャー言って喜んでいた。
「何このテンション……」
「絶対変な物食べたよね……」
私も咲っぺと同じく、眉間にしわを寄せて彼らを見つめた。
「修学旅行って、コレだから色々と面倒だよね……」
と呟いたのは佑だった。
「ああ……。アレも修学旅行がキッカケだったもんね」
「アレ……?」
快斗も入って来たので、まだキャーキャー言っている2人を置いて、話を進めた。
「ほら、言ったじゃん。中学の時、私と佑が、付き合ってるとか、付き合ってないとか、噂流れたって」
「「ああ……」」
「その噂が流れ始めたキッカケが修学旅行だからな」
「そうそう。修学旅行ってみんな変なテンションになるから、本当厄介なんだよね」
私と佑は同時に溜息をつき、あの頃は大変だったね、と言葉を交わした。
「八生‼︎ その『アッキー』とかゆー奴の写真持っとらんの?」
唐突に合川君は前のめりになって聞いてきた。
「ううん」
持ってるわけないでしょう。
「「えーー⁉︎」」
前の2人が同時に言ったその時。
「お前ら、うるさいぞ。静かにしなさいっ! 小学生か!」
現代国語の先生が見回りにやって来て、彼らに漢字プリントを渡した。
「静かに出来ないならそれをやっていなさい」
それ見ろ。精神年齢小学生のお2人。公共の場ではお静かに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます