カクカク鹿鹿
「修学旅行か〜! 楽しみだな! な!」
昼休み、いつものメンバー(近隣の席のメンツ)で昼食を摂っていると、卓人が嬉しそうに言った。
「京都、奈良、大阪、広島……‼︎ 関西の観光地という観光地を巡る! 最高に楽しそうじゃねーか! な! 佑!」
「え、まぁ、楽しそうだけど、ちょっと不安かな」
「あ、そっか、佑ってちっちゃい時から方向音痴だもんね」
「言わなくていいっ」
佑はそう言って顔を真っ赤にさせた。
いや、だって、本当じゃん。「真っ直ぐ進むんだよ」って言われたのに変な道に逸れて行くんだもん。あの時は本当にすみ兄が居なかったら、あんた行方不明になってたよね。
「合川が居れば平気だろ」
快斗はそう言って彼を見た。
「合川って、奈良に居たんだろ」
「おう! 広島は行ったこと無いけどな! 奈良の町なら任しとけぃ!」
「奈良公園とか、楽しそう〜」
卓人、どんだけ楽しみにしてんの。気持ちはわかるけど。
「ケッ。鹿なんて肉にしてしまえば良いんだよ。あんな奴ら」
ん? 今、咲っぺの口から凄まじい言葉が聞こえたような……?
「咲、あそこじゃぁ、鹿は神様の使いなんやで? そんな事したら、バチ当たるでぇ」
「知るかよぉ。あんな奴らマジ、カスだから」
「咲っぺ、なんでそんなに鹿嫌いなの。鹿可愛いじゃん」
「可愛くねーよっ!」
「咲、言葉遣い……」
卓人がやや青ざめて言うと、咲っぺがキレた。
「折角みんなで育てた樹をダメにするし? 道に飛び出してきては引かれて邪魔くせーし? 盛りのついた雄鹿なんて夜中うるせーし? どこが可愛いんだよっ‼︎」
吐き捨てるように言うと、彼女は持ってきていたチョコを頬張った。
「「「「「…………」」」」」
全員、鹿をこんなに嫌がる人を見たのは初めてだった上、咲っぺがキレた現場を見たのもなかなかレアなもので、言葉を失った。
「咲って、どこ出身なの?」
ようやく口を開いたのは、なんと佑だった。普段と変わらない涼しげな表情で聞いた。
「北海道ですが。何か?」
「「「「「なるほど」」」」」
「だから鹿嫌いなの?」
「北海道民、みんなが嫌いなわけじゃ無いけどね……。まあ、少なくとも私は嫌いだっ!」
いや、そんなドヤ顔で言わないで。
「私ね、ここに来る前は北海道の田舎の町に居たのよ」
そこから、咲っぺの鹿嫌いの話が始まった。
「私が通っていた小学校は、年に一度、林業組合の人たちと一緒にみんなで樹を植えるっていう行事があってね。
そこで毎年みんなで汗水流して樹を植えるわけ。
でも、鹿が爆発的に増えてきて、折角植えた樹も、折角大きく育った樹も、ダメにされて……。
それから、私たちは鹿を憎むようになって、嫌ってた。
でもね、食べるのは好きだったよ。
鹿肉って、脂肪分少ないし、鉄分が多いから、健康に良いの。あの歯応えもなかなかクセになるのよね……。それから、あの肉は……」
鹿肉の話に切り替わった上、長いので省略しよう。
「まぁ、要するに咲は、鹿は嫌いだけど鹿肉は好きなんだな」
「ザッツライト!」
相変わらず発音が良い。
「まぁ、奈良公園に行くのもそんなに長い時間では無いみたいだし? 楽しみだな、修学旅行」
「咲もやっぱり楽しみにしてるのかよ」
「あったりまえじゃーん!」
彼女はそう言ってニッと笑った。
その隣では何故か、合川君が赤面していた。
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