放課後は、部活が全て。
「今日のメニューは……」
練習開始のミーティングで、女子マネージャーがトレーニングメニューを読み上げる。
「なぁ、今日の長距離で勝負しようぜ」
隣から声を潜めて卓人がニヤッと笑いかけてきた。部長や、マネージャーに見つからないように親指を立てて、その勝負を受けた。
ニヤッと笑い返すと、
「おい! お前らぁ‼︎ 何ニヤついてんだ‼︎ 走り込み+3周しろ‼︎」
部長に見つかった。部活の望先輩と、プライベートの先輩のギャップが激しすぎる事を改めて感じる。副部長であるキタ先輩は、咲の兄と聞いたが、彼女のキャピキャピした雰囲気と全く違う。
それぞれギャップってものがあるんだなぁ、と考えつつ、与えられたバツを素直に頂戴した。
学校の敷地外を5周+3周というトレーニングに、卓人は眉間にしわを寄せてため息を吐いた。
「そんなに嫌いか? 外周」
「逆に好きな奴居るのかよ……って、ココに居たか」
「好きって程でもねーよ。走ったら聞こえてくる風を切る音が好きってだけだ」
「……理解不能。お前陸上部行ったら?」
外のスタート地点に部員が集まるまでの間、そう話していると、丁度陸上部が見えた。
「咲ちゃん、タイム飛躍的に良くなったね‼︎ どうしたの?」
先輩らしき女子生徒が彼女に聞いている声が風で運ばれてきた。
「……ちょっと、色々あって、」
てへへ、と笑う彼女に女子生徒が飛びついた。
「可愛すぎだコノヤロォーッ‼︎ もー咲ちゃんのこと誰にも渡したくないい‼︎」
……見てはいけないものを見てしまった気分だ。
「先輩っ……苦しいですっ」
「あら、ごめんね、つい」
ついって何だ。そっち系なのかな、先輩。
「オラ! もっと声出せやーー‼︎」
視線をずらすと、サッカー部がトレーニングをしていた。部長である
「オラ! 佑ぅ! 声出てねぇーぞ‼︎」
「ハイッ‼︎」
望先輩に負けないくらいの厳しさで、佑が叱られている。洸夜先輩の隣に立っているのは、心優達に「すみ兄」と呼ばれている純友先輩。心優の練習の時に顔を合わせた事があるが、常に笑顔。好感が持てる人だ。
「全員揃ったな、」
望先輩の鋭い声が聞こえ、前を向くと宮藤がストップウォッチを握りしめていた。
「お前らは特別に8周だからな、」
彼は、俺たちに笑いかけ、スタート地点についた。
マネージャーの合図で、全員が一斉に走り出す。俺は8周の覚悟を決めて、地面を蹴った。
「歩ー! ファイットォーー‼︎」
走っていくと、陸上部が練習しているところで、歩が高跳びをしていた。よく通る声で応援しているのは合川だった。彼は、短距離の選手であり、高跳びも時々やるらしい。彼はストレッチをしながら関西弁で何か歩に言っている。すると、部長らしき人物がやってきて、彼の背中をグッと押し、彼は「いだだだだだ‼︎」と叫んでいた。
アレは確かに痛い。柔軟は痛い。
サッカー部のところでは、ペアになってボールの奪い合いをしていた。
純友先輩と佑が組んでいるのが見えたので、そこを見ていると、先輩は、あの笑顔のまま、佑からボールを奪い取った。見てて恐ろしくなったので、よそ見は止め、走り込みに集中した。
練習が終わったのは午後6時半。神尾高校は地域の中では進学校であるのだが、そのせいか、どの部活も6時半までには活動を終了させなければならないという面倒な規則がある。中途半端な時間であるということにも少し腹が立つ。
「快斗、帰るぞ、」
望先輩は既に帰宅準備を済ませて部室から出ようとしていた。
「はい、今行きますっ」
俺は卓人を連れて先輩の後を追った。
校門のところまで行くと、洸夜先輩が純友先輩と佑と一緒に溜まっていた。
「おっせーよ、望! 腹減ったぁ!」
「知るかよ、その辺の草でも食っとけ。あ、コレなんか良いんじゃね?」
そう言って先輩は雑草を指差してニヤッと笑いかけた。
「お前が食え! 俺は肉が食いてぇ!」
2人は仲良く絡みながら駅に向かって歩いていく。その後ろから俺たちがぞろぞろと追いかけるかたちで下校する。
「心優、元気にしてる?」
純友先輩が突然、俺と佑に聞いてきた。
「すみ兄、自分で確かめろよ」
佑は学校の敷地を出た瞬間から彼に対してタメ口になる。これが許されるのも、幼馴染の特権であり、先輩の優しさがあるからだ。
「え? だって俺、全く心優見かけないんだもん。仕方ないじゃん」
「心優に避けられてんじゃね?」
佑がそう悪戯っぽく笑った瞬間、後ろから声がした。
「心優に限ってそれはない」
振り返ると、咲たち、陸上部がいた。
「あ、歩だ。なんか久しぶりだね」
「うん。心優、最近色々テンパってるみたいだからさ、昼休みだってここ数日教室から出てないみたいだよ」
「あー……。アレか」
「アレ以外ありえないな」
「ん? 2人とも知ってたの?」
アレって言ったら、
「知ってるよ。デビュー当初から」
純友先輩はサラッと口にしたが、それって凄いと思う。
「流石、幼馴染ね。『何でも知ってる』的な感じがまた羨ましい」
咲はため息混じりに言ってガクッとうな垂れた。
電車は、丁度帰宅ラッシュのピークだったため、混雑していた。
俺たちは苦笑いをし、ドア付近に立った。
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