偽戯曲「通称・嘘裁判」

※戯曲脚本を作成したことのない人間が書く、台本風のテキストです。単なる発言を並べただけの形式ともいう、脚本書き手さんに怒られる体裁をとっています。予めご了承ください。


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○裁判所法廷(暗転)

   裁判官、舞台中央奥の机の椅子に座っている

   原告A、上手側机の椅子に座っている

   被告C、下手側机の椅子に座っている


○舞台照明全灯


   裁判官、カヴェルを叩く


裁判官「今より第O三法廷を開廷する」

裁判官「原告人、前へ」

   A、舞台中央に立つ

裁判官「原告の訴状はここに書いてあるとおりであるか」

原告A「はい。被告Cは平成XX年九月二十日、被害者Bに対し暴言を吐き、土下座を強要しました。結果、Bは精神的にダメージを負い入院、現在も通院中であります。従い、被告Cは被害者Bに対し、謝罪と医療費を含めた慰謝料百万円を請求します」

裁判官「被告人、前へ」

   A、上手側に戻り椅子に座る

   C、舞台中央に立つ

裁判官「被告の答弁はここに書いてあるとおりであるか」

被告C「はい。私CはBに対し、暴言を吐き土下座を強要などしておりません。従い、原告の訴えを全面否認いたします」

   C、下手側に戻り、椅子に座る

裁判官「争点としては、被告Cが被害者Bに対し暴言を吐いたか、土下座を強要させたかの点になるかと思われるが、原告人に異議はあるか?」

原告A「異議ありません」

裁判官「被告人に異議はあるか?」

被告C「異議ありません」


   裁判官、カヴェルを叩く


裁判官「では、尋問を開始する」

裁判官「被告人、前へ」

   C、舞台中央に立つ

裁判官「原告人、尋問を承認する」

   A、椅子から立ち上がる

原告A「C、あなたは九月二十日にBと会っていますね?」

被告C「はい、会っています」

原告A「場所は関西県S市のコミュニティホールで間違いありませんね」

被告C「間違いありません」

原告A「何故、Cと会おうと思ったのですか?」

被告C「え、何故って……Cさんはイベントのスタッフで、私はそのイベントの参加者なので。というか、Aさんもそのイベントのスタッフだから知ってるでしょ?」

原告A「尋問です。そのとき、誰と誰がいましたか?」

被告C「えーっと、あのイベントは……出展が三百スペースで、入場者が主催発表で千二百人だったかしら」

原告A「そっちの話じゃない! Cに暴言を吐いたときに誰かいたかを聞いてるんだ!」


   裁判官、カヴェルを叩く


裁判官「原告人、冷静に」

原告A「申し訳ありません」

   A、裁判官に向かって頭を下げる

被告C「まず、そもそも暴言を吐いてはいないんだけど。そちらがいう『暴言を吐いた』という時間には、Cさんと私以外に、私の友人DさんとHさん、イベント主催のFさん。そしてAさんあなたも直前までその場にいたはずなんですけど」

原告A「私は現場にはいませんでした」

被告C「そうですね。AさんはF主催に叱責され、ショックで部屋を出ていきましたからね」

原告A「今はFさんと私の件について、関係ありません」

被告C「……F主催の件も、わりとこの問題の原因だと思うんだけどなあ」


   裁判官、カヴェルを叩く


裁判官「被告人」

被告C「あ、すみません」

   C、背中を向け裁判官に対し頭を下げてから、また前を向く

原告A「とにかく。僕がでていった後、Bさんに暴言を吐き土下座をさせた」

被告C「そこなんですけど。まず、土下座については私がしろといったのではなくBさんが突然土下座をしだしたのです」

原告A「それはあなたが暴言を吐いたからではないのですか?」

被告C「違います。Bさんは以前私やDさんたちに迷惑をかけたことがあり、お手紙で謝罪文をくださいと要求していました。しかし、六ヶ月たったその時点でもお手紙は届いておらず、それについて『書くの難しいですか? 難しいのでしたらもう良いですよ?』と言ったところ、『今までかけなくて申し訳ありませんでした。すぐに書いて出しますので許してください』と言って突然土下座をしたのです」

原告A「Bは『Aさんに謝罪文を書け書けと要求されたが、何を謝罪すればいいかわからない。謝罪文を書くことを強要することが暴言だ』と言っていたが」

被告C「謝罪文を書くことをお願いしたことはその日以前は一度だけです。また、なぜ文章でお願いしたのかは、迷惑をかけたのが私やDさんだけでなく、それ以外の迷惑を被った人たちにも『ちゃんと彼女は謝ってくれたよ。これが証拠だよ。だからこれで水に流しましょう』とするためにお願いしたものです」

原告A「Bはその謝罪文を書くこと自体が苦痛であり暴言であると言っている」

被告C「謝罪文を了承したのはBさんの方です。また、書くのが難しかったら私にうまく書けませんとメールを下されば、その旨皆に伝えて、私の方から皆を説得して許してもらえるようにすると約束していました」

原告A「Bは謝罪文を書かないと怒られる、それしか許されないと泣いていた。今の話はデタラメではないのか?」

被告C「一番最初に口頭で伝えています。その後、ツイッターのDMでも同じことを送っています」


   裁判官、カヴェルを叩く


裁判官「被告人、証拠の提出を」

   C、ポケットからスマホを取り出し、操作をしつつ裁判官の机の前に移動

被告C「とりあえず、スマホの画面を。あとでこの画面をプリントアウトして提出します」

原告A「Bはツイッターをやっていない!」

被告C「あの、この続きの……」

   C、裁判官の横に移動し中腰になり、スマホを操作する

被告C「こっちがBさんの発言なんですけど、『これ以降ツイッターを使うのをやめるように医者に言われました。連絡はメールか封書になりますがよろしいでしょうか?』とあります。これ以前は彼女もツイッターを使っていました。今やっていないのは事実かと思います」

   裁判官、頷く

   C、一度下手に引っ込んだ後、また舞台中央に立つ


原告A「裁判官、ここで証人を呼んでもよろしいでしょうか?」

裁判官「許可する」


   裁判官、カヴェルを叩く


   C、下手側机の椅子に戻る

   証人D、上手側から舞台中央に立つ

裁判官「証人、名前を」

証人D「Dと言います。Bさんが土下座をしたときに現場に居た一人です」

原告A「DさんはBさんが土下座した瞬間を見ていますね?」

証人D「はい」

原告A「その時の様子をお話ください」

証人D「まず、Bさんが私とCさんともう一人に『あのときは申し訳ありませんでした』と謝罪しだしまして、Cさんが『それは十分わかってます。ただ、ここにいないメンバーにそれが伝わってないのです。彼女たちに説明するためにお手紙をお願いしたのですが、難しかったですか?』といったところ、Bさんが突然『これ、お詫びに……』と言ってお菓子の袋を三人分渡してきたのです」

原告A「それでCが暴言を?」

証人D「いえ、どっちかというと言ったのは私な気がするんですけど」

原告A「え?」

   A、身を乗り出す

証人D「と言っても、暴言とかじゃなくて。『お詫びとしてお菓子は受け取れません。そういうものは誰も求めていないからです。差し入れとかなら頂けますが……』といったところ、Bさんが突然号泣して土下座をして『許してください』と言い出したのです」

   A、普通の姿勢に戻る

原告A「その後Cが暴言を吐いたのか」

証人D「いえ。Cさんがすぐに『土下座とかやめてください。そういうのじゃないんです。あの時のことを怒ってる人たちを説得したいだけなんです。もう手紙とかも忘れてくれていいですから。とりあえず顔を上げてください』って慰めてました」

   裁判官、カヴェルを叩く

裁判官「その様子を見て、Dさんはどう思ったのか」

証人D「Cさんが一番大変な目に合ってたのにすごいなあって。あと、Bさんって被害妄想強くて何事も大げさな人で、面倒な人だなあと思いました」

   A、悲しそうにうなだれる

原告A「……Dさん、ありがとうございました」


   裁判官、カヴェルを叩く


裁判官「証人尋問を終了する」

   D、上手側舞台袖に引っ込む


   A、突然顔を上げて、身を乗り出す勢いで

原告A「あ、あの、裁判官! もう一人、証人を呼んでも!」

裁判官「……許可する」


   裁判官、カヴェルを叩く


原告A「ありがとうございます!」

   証人E、上手側から舞台中央に立つ

裁判官「証人、名前を」

証人E「Eです。AさんやBさんがスタッフのイベントの主催です」

原告A「あの時の話をお願いします」

証人E「まあ、なんていうか。みんなを呼んだのは僕なんだけどね」


   裁判官、カヴェルを叩く


裁判官「呼んだというのは関西県S市のコミュニティホールのことか」

証人E「そこのスタッフルームに使ってた小部屋ですね。ガラス張りで外から丸見えなんですよね、その部屋」

原告A「あ、あの。部屋の話じゃなくて当時の状況を……」

証人E「AさんBさんがちょうどお昼時だったので、ご飯を食べようと、出展者だったCさんDさんとあともう一人のHさんの三人を呼び出したのね。10分だけって言って。自分たちの売り場締めてもらって。実際は10分じゃ終わらなかったんだけどね、ハハハハ」

原告A「……だからEさん!」

証人E「ああ、ごめんごめん。で、ね。そもそもAさんはCさんDさんたちがやっていたイベントの主催だったのね。ただ、Aさんがそのとき体調壊してたのと、そっちのイベントのスタッフに苦手な人がいるって言い出したんで、僕がAさんに『イベント主催を辞めるべきだ』と言ったのよ。言った瞬間、CさんもDさんも主催を辞めさせるのに反対してたんだけどね。『私たちはAさんが主催だからこそスタッフとして働いてます』って。

ただ誤算だったのは、一番ショックを受けたのがAさん本人で、僕が辞めろと言った瞬間に奇声を上げて部屋を出ていっちゃったのよね」


   裁判官、カヴェルを叩く


裁判官「原告人、これは事実であるか」

原告A「はい、事実です」

裁判官「被告人、これは事実であるか」

被告C「はい。ここでAさんは部屋から出ていきました」

証人E「……ねー、続けていい?」

裁判官「どうぞ」

証人E「で、僕、Aさん追いかけようかなーって思ってたの。そしたら、Bさんが紙袋三つ持ってCさんたちの前に立って何か喋りだしたの。僕の位置からだとちょうどBさん背中しか見えなくて、何言ってるか聞こえなかったの。そしたら、突然Bさんが土下座したもんだから、三人が慌ててBさんを立たせて、で、誰かが付き添ってトイレに連れてったんだよね、Cさん」

   C、うなずく。

原告A「被告Cが暴言を吐いたり土下座させたりしたところを見ていないのですか!?」

証人E「だから、僕はBさんが土下座をしたところは見たよ。でも、その前はCさんは暴言っぽいこと言ってなかったし、Dさんがお菓子は受け取れないって話をしたくらいしか見ていないよ」

原告A「Cさんが他にBさんに暴言を吐いたりした場面とか見てませんか?」

証人E「僕は見てないね。だいたい、Bさんはこの一件より前から精神科に通ってて不安定であり、虚言癖というか変な思い込みで行動することが多かったじゃないか。それは君が一番良く知ってるであろう」

   A、そのまま顔を真っ赤にして硬直する

証人E「他に聞きたいこと、ある?」


   裁判官、カヴェルを叩く


裁判官「証人尋問を終了する」

   E、上手側舞台袖に引っ込む


   裁判官、カヴェルを叩く


裁判官「最後に原告人尋問を行う」

   A、舞台中央に立つ

   C、椅子から立ち上がる

裁判官「被告人、尋問を」

被告C「証人尋問の中で、Bさんは精神科の通院をしていた、虚言癖があったと出たましたが、その事実は知ってましたか?」

原告A「精神科に通院していたのは知っています。虚言癖については知りません」

被告C「AさんはBさんが精神科に通院していたのをいつ頃知りました?」

原告A「事件の約一年前。ただ、入院したのはこの事件の直後です」

被告C「私や証人の皆さんの話を聞いた上で、Bさんの訴状内容についてどう思いますか?」

   A、うつむく

原告A「……もう一度、本人に聞いてきたいと思います」

被告C「彼女は今でも訴状内容をそのまま信じていると思うのですが、その上でどうしたいと思ってますか」

原告A「……わかりません。僕は、彼女を信じてる」


   裁判官、カヴェルを叩く


裁判官「訴状内容が虚偽であるとなると、現在被告人であるCは名誉毀損であるとして原告であるあなたとBを訴えることが可能となるが」

原告A「……それでも、僕は彼女を……」

   A、自分の髪の毛をぐしゃぐしゃにかきむしる

被告C「裁判官、私からはもう結構です」

   裁判官、カヴェルを叩く

裁判官「原告人尋問を終了する」



○暗転・舞台中央にスポットライト

   C、スポットライト中央に登場

被告C「人間関係って難しいね」

   C、スポットライトから外れ、退場

   A、スポットライト中央に登場

原告A「彼女は、彼女たちは、本当は……」

   A、そのまま膝から崩れ落ち、頭を抱えて絶望する


○スポットライトが徐々に小さくなり、完全に暗転


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或る即売会の記憶 峰野白音 @NomineSaikawa

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